三つの民と神のちからを継ぐ者たちの物語 ヴェアリアスストーリー

きみゆぅ

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第一章 セイシュの民が翔ける黎明の空

7 狩り ダメダメオーラ

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 村の入り口には既に13人の男が準備をしており、ルタもその中にいた。

 村外との交流のほぼ無い村である。入り口に看板はなく、ただそこには、獣や他の民族の侵入を防ぐ防柵が設置され、弓矢や投石用の石が保管されている。

 そして仮に侵攻を受けた際の合図として使用する、シフィルの身長の5倍はあろうかという長い棒の先端に黒色の布が結び付けた合図の旗が村中に設置されている。

 敵襲を受けた位置の棒を倒し、黒色の布を下ろすことによって、敵の移動状況や進行状況を把握するものらしい。
 シフィルが生まれてから、飾りとして認識している程度で、一度も使用しているところは見たことがない。
 まあ、誤って倒れたところは、何度も見ているが。

 今回の狩のメンバーは、一番若いのがシフィルとルタであり、一番年長は、村長であるファルス。
 ちなみにファルスは狩りが趣味とのことで、ほぼ欠かさず毎回狩りに参加しているらしい。

「出来損ないのシフィルじゃないか!ようやく合格したのか!わははははは」

「足を引っぱるな新人。迷子になったら置いていくからな!」

「がははははは」

 口々にシフィルにいろんな言葉がかけられる。

 一瞬ムッとしたが、みんな笑っていて、祝福されていると直ぐに気付く。なんともいえない気分だ。

 狩りといっても、あらかじめ仕掛けておいた落とし穴などの簡易な罠にかかった獲物を回収する方法である。
 ただし命を落とした例も複数あることは知っていた。

 最近は特に凶暴化した見たことのない野獣がたまに出没するとのこと。食料確保だけでなく、村の周囲の安全確保をかねての野獣の駆除も目的になっている。

 最終的には、シフィル含め17人の男が集まった。当然、初めての狩りというのはシフィルのみである。
ファルス長老は周りを見回し、参加者を確認すると、シフィルで視線を止め、微笑みうなずく。

「では出発する。ルタはシフィルに細かいことを説明しろ。絶対はぐれるなよ。」

 村長であり、狩りのときは隊長であるファルスが剣を空にかかげて出発の合図を出した。
 村の入り口には、狩りを見送る人たちが集まり、その中にシフィルの母も含まれていた。

 母は大きく手を振っていたが、シフィルは恥ずかしかったため、見て見ぬふりをする。
 代わりにシフィルの肩の上で、もんちきが両手を大きく振り、心配そうな母に応えた。

 狩り場は、村から歩いて約2時間程度の範囲内にあり、主に獣道である森の細い道をゆっくりと声を立てないように静かに歩く。

 シフィルはルタとともに、集団の中心部を身を屈めながら足早にあるいた。

 太陽が真上から少し落ち始めた頃である。見る物が新鮮だった。
 見たことのない木々や小動物、昆虫など、村の中ではほとんど見ない、いろんなものがそこにある。

 ずっときょろきょろしていたため、足をつまずいて転びそうなことが何度もあったが、そんなこと気にもならないぐらい興奮していた。

 しばらく草原や山肌を歩いていくと、そこには、生えている木の幹を削っていろいろな印が記されている一帯にたどり着いた。

 そこは幅が狭い川がなだらかに流れているところで、その側面が木々に囲まれており、水を飲みに来た獲物の見通しを悪くしている絶好の狩場である。

 落とし穴、弓矢の罠、落石の罠が仕掛けられており、それぞれに決められた印が記されている。
 確かに何の印もなく、罠があったら危険である。シフィルはルタに連れられて、さっそく仕掛けられた罠を確認に急いだ。

「うあぁ!!」

 ルタがシフィルの声に振り向くと、そこには片足を穴につっこんでバランスを崩して転倒しているシフィルがいた。
 ここの狩場の地面には、多数の深く掘られた穴を隠すように細い木でふたをして、それに草をパラパラとかけて隠すという落とし穴が仕掛けられており、それぞれ、罠の場所に大きく〇が示されていたが、シフィルが今はまっているところには、何も示されていなかった。

「狩場では目で見るだけでなく雰囲気でわなを感じろだとよ。俺も初めての時は同じことをやったよ。そこら中に、
合図を書き忘れた罠があるから気をつけろよ。」

「それ、もっと早く言って欲しかった。」

 ルタが手を貸して、シフィルを穴から引っ張り起こす。幸い穴の中には落ちずに、片足を土まみれにするだけで済んだシフィルは、一歩ずつ、慎重に歩くようになった。

 17人で分担して仕掛けた罠を確認するが、どの罠にも獲物が掛かった形跡はなかった。

 張り切って罠を探っていたシフィルは少し気が抜ける。

 頭の中では、猛獣との戦いのシミュレーションまで行っており、華麗な剣さばきで格好よくとどめを刺すところまでを想像して準備万端であったのだが。

 あたりを見回し、また、改めて罠を見て獲物がいないか確認をするが、何もいない。

「今日はだめだな。なんかダメダメオーラがあるからか?」

「出来損ないは運まで悪いのか。」

「手ぶらじゃ帰りにくいな。」

シフィルをからかうように言葉が飛び交う。

「最近、獣の数が異常なほど減っているみたいだ。別に今日が特別じゃない。その代わり、村の周辺には凶暴な獣が
出没している。」

 シフィルの耳元でルタが教える。

 今回は諦めて、ファルス隊長が新たに数箇所の罠を設置するように指示すると、シフィルは皆に教わりながら罠を作製し、設置した。

「今日は終わりにしよう。」

 ファルス隊長は周りを見渡して、仕掛けた罠を確認すると、村へ戻るように指示をする。

 狩りは、多いときで、持ち帰ることができないくらいの獲物を得るときもあれば、少なくとも最低4~5匹はいつも得ていた。

 それが近頃は0や1匹ということが多く、狩場の変更を検討しているらしい。

 ただし、長い間、この狩場ではそのようなことはなく、どうも納得がいかないということを、ファルス隊長から帰り道に聞いた。
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