三つの民と神のちからを継ぐ者たちの物語 ヴェアリアスストーリー

きみゆぅ

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第一章 セイシュの民が翔ける黎明の空

8 幸せ

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 村に着くと、すでに狩の成果を待ちわびた者達が集まっていたが、結果を聞き落胆の色を隠せない。

 ファルス隊長は次に期待して欲しいと告げると、いつの間にか袋いっぱい集めていた木の実をさしだして、帰宅する。

 その後ろ姿を見て、シフィルはようやく張り詰めていた狩りへの興奮が薄れてきた。

「どうだった?」

 待っていた母がシフィルに問いかける。

「おもしろかったよ。次は獲物を絶対持ってくるよ。」

 素直な言葉で母に応えた。そして母と共にシフィルも自宅へ戻る。
 自宅へ戻るとテーブルにはあふれるばかりの料理が並べられていた。

 そしてその横ではシシリーとその両親も自慢の材料を取り揃えてさらに調理を進めていた。

「シフィルの合格を祝って来てくださったの。」

 シフィルの母が言うと、シシリーとその両親が笑いながら少し頭を下げた。

「シフィル!試験合格おめでとう。」

 シシリーの父親が大きなからだを揺らしながら、機敏な包丁さばきで野菜を切り刻むと、それを横にいた小柄のシシリーの母親が素早く持ちあげて盛り付ける。

 シシリーの父親が刻む包丁の音と顔のアゴの肉がプルプルと震えるリズムが同じだとモンチキはシフィルに耳元で囁いて、隠れるように大笑いしている。

 シフィルは、シシリーが母親似であることを、心から喜んだ。料理をテーブルに並べ終えたシシリーは、シフィルの手を取って、『おめでとう』とぎゅっと手を握ると、にっこりと微笑んだ。

 少し照れながら、シシリーの手の温もりを感じられたのが、一番の褒美だと内心は喜んだが、シフィルはそっけなく振りほどくと、『ありがとう』と笑って礼を告げ、もんちきと共に狩の装備を外しに自分の部屋へ戻った。

「これで獲物を狩ってこれたら格好良かったんだけどな。」

 着ていた皮の鎧を脱ぎながらモンチキを突くシフィル。
 まだ、温かさが残っている手の平を眺めると、焼けるように熱く感じられた。

 手を握りしめ拳を作ると、再び開いて眺めて笑みを浮かべる。

「シシリーにいいところみせられたのにな。」

「うるさい!」

 からかうもんちきに、はめていた手袋を投げつける。
 器用にその手袋をもんちきが受け取って棚に掛けると、シフィルの肩へと大きくジャンプした。

 そして再び手のひらを眺めると、また自然と笑顔になり、食事に戻っていく。
 すでに食事の準備は完了しており、シフィルの母もシシリー一家も席についてシフィルを待っていた。

 シシリーが満面の笑みで人差し指で自分の横の席をとんとんして案内すると、照れながらシフィルがそこに座る。
 もんちきも自分のいつもの皿にミルクが注がれているのを確認すると、そこへ飛びついた。

「さて、始めよう。シフィル、試験合格おめでとう!」

 シフィルが座ったのを確認すると、シシリーの父と母が同時にアルコールの注がれたグラスを持ち上げた。
 それに続いてシフィルの母も同じくアルコールの入ったグラスを持ち上げる。

 シシリーはキウイとコケモモの果汁の入ったグラスを持ち上げた。
 もんちきはミルクの入った皿をパンパンと叩いてそれに応える。

 照れながらシフィルもキウイとコケモモの果汁が入ったグラスを持ち上げると、高く掲げた。

「ありがとうございます!」

 そして、グラスとグラスを軽くぶつけて合わせると、一気にグラスの中を飲み干す。

 コケモモとキウイの甘酸っぱい味が口中に広がると、それに耐えるように思いっきり目をつぶって身を震わせる。
 コケモモは、鉱山の山間部などの寒冷地でも自生することから、耐える象徴として、シフィルの母が好んでいるものであった。

 昔からシシリー一家とは隣接の好として、何かあるたびにこのように合同で食事をすることがあった。
それでもシシリーとはあまり親しくなれないでいたのが、もどかしく思えた。

 シシリーが作ったというパンにかぶりつき、以前シシリーの父が狩ったという、巨大な鳥の丸焼きにかぶりつき、絞りたての牛乳で、酸っぱくなった口を洗い流す。

 狩りの様子などを会話しながら、シシリーをチラッとみると、とても喜んでくれていた。
試験の合格、その実感が今になってじわじわとわいてきた。

「シフィルはね、小さいころはね・・・」

 実際、シフィルよりも嬉しさを大きく表していたのはその母であった。

 アルコールが入っているということもあるだろうが、饒舌にシフィルの昔話が延々と続いた。
それを楽しそうに相槌を入れて、話を膨らませるシシリーの母。シフィルは照れながらも、幸せというものを感じていた。

 それと同時に、やはりシシリーの母と父が楽しそうに話しているのを見ると、少し複雑な感情が無くはないが、何も考えないように、今の状況を満足することにした。

「シフィル、おめでと。」

お互いの母親たちが盛り上がっているのを横目で見ながら、頬杖をついてじっとシフィルを見つめるシシリー。

「あ、ありがとう。」

 周りの音が何も聞こえなくなり、シシリーの瞳に意識を吸い込まれそうになるが、クールな自分を装うように顔を赤らめたのを隠し、席を立つ。

 シシリーに背を向けると、口を少し開けて、小さな深呼吸を繰り返して落ちつかせる。

 それからのことはあまり覚えていない。食事の時間が終わり、シシリー達が帰るのを見送ると、急に疲れを感じ、深い眠りについた。

    
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