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第一章 セイシュの民が翔ける黎明の空
9 狩り再び そして異変
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次の日の昼、再び、狩のため、昨日と同じメンバーが村の入り口に集まった。17人。
「今日こそは獲物を必ず持ち帰ろう!」
「罠にかかってなかったら、本当に狩りをしてなんとしても獲物を持ち帰ろう!」
「なんとかなるさ!」
口々に昨日の獲物無しという成果を挽回するための気合が飛び交う。
シフィルも少しは着馴れた革の服と鋼鉄の剣を丹念に見回し、強くなった自分を確認する。
じりじりとちょうど真上に位置する太陽を遮る雲もなく、昨日よりも熱い温度にすでに汗ばんでいる皮の服に空気を入れるようにパタパタと動かす。
隣ではルタも同じように狩の準備を進めていた。
ただ一度の経験でも、まるで昨日と心の持ちようが大きく異なる。
多少の余裕だろうか、昨日と同じように出発を見守る村の人たちの顔をじっくりと見ることができた。
その中をじっと目を凝らして、探していた人物を見つけると、それでも緊張して硬い表情であった顔の口元がわずかに緩んだ。
そして、今度こそ頑張ろうという強い意思が腹の奥に込み上げる。両手の拳を強く握りしめた。
それからファルス隊長が剣を空にかかげて、出発の合図を出すと、それに合わせてシフィルも剣をかかげて気合を入れる。
昨日と同じく、シフィルの母が両手を振っているが、シフィルは軽くうなずくだけで、もんちきが代わりに大きく手を振って応えた。
やはり見るものが、その風景が新鮮であり、きょろきょろしながら歩くので地面に足をとられてつまずきながら歩くシフィルがいる。
でも、その新鮮さよりも狩りの成果が気になる。
やがて、昨日仕掛けた罠のある狩場にたどり着いた。
「さあ、確認してくれ!」
真っ先にたどり着いたファルス隊長がそれぞれに指示を出して罠の確認をさせた。
シフィルは少し離れた場所にある落とし穴を確認にルタと二人で進んだ。地面の跡を観察して少し険しい顔をするルタから既に嫌な予感はしている。
「こっちはだめだ・・・そっちはどうだシフィル!」
「こっちも何もいない・・・か」
そのほかの数箇所の落とし穴も全く獲物がかかった形跡がない。であれば、直接獲物を狩るという選択肢も考えて周りを見回したが、それらしい影もない。
しかたなく、ファルス隊長のところへ戻ると他の罠もすべてだめだったという報告に、意気消沈し、暗い雰囲気が漂っている。
「この辺って何もいないんじゃないの?ここに来るまで特にそんな動物もいなかったし。昨日も。」
その、シフィルの言葉に反応したのはファルス隊長であった。
「確かにな。最近姿が見えなさ過ぎる。動物の気配が感じられない。」
辺りを見回すファルスと同じように、他の隊員も少し離れた場所まで周囲を探索したが、この周囲には全く動物がいなかった。
それは明らかに異常であった。
「これは、詳しく調べてみる必要がありそうじゃのう。とりあえず今日は木の実でも拾って帰るか。暗くなる前に帰ろう。」
木の実やキノコを採取するために散らばった隊員を集めると、周囲に獲物がいないか確認しながらゆっくりと村への帰路についた。
「今日も収穫なしか・・・辛いね。」
シフィルがルタに近づく。
ルタが小さくうなずくが、同時に森の中を深く見つめる仕草をして首を傾げる。
「周囲に獲物がいなさ過ぎる。気配がしない。何かがおかしい。」
他の者たちも同じ感想。
偶然では無く、なにか悪いことの前触れだろうかと、口々に不気味な言葉が流れる。
やがて、誰もが暗い表情を浮かべながら、愚痴をグチグチと言いながら、村へと向かって歩いて行った。
狩り場を離れ、なんとも言えない疲労感と薄らいだ緊張感のいつもと同じ帰り道の途中。
およそ半分の道のりを戻り、両側を高い崖に挟まれた山岳地帯の狭い道を通り抜けようとしたとき、上空高いところ、少し遠くのところで爆発音が響く。
「あれ?何か聞こえたか?」
誰かが独り言のように小さくつぶやいた。
始めは気のせいかと思えるような小さな弾き。
次の瞬間、心臓が止まるほどの破裂音が頭上で響き、全員が体を大きく震わせて動きを止める。
本来はそこにあるはずがない、大人の身長と同程度の大きさの砕けた岩が上空から複数降り注いだ。
「な・・・!逃げろ!」
訳も分からずに、咄嗟に持っていた木の実やキノコを投げ捨て、持っていた剣や皮の服で頭を守り、素早く走り抜けるが、道が狭く、思うように進めない。
「があああ」
「ぐごっ」
悲鳴が聞こえるが、シフィルは振り向けず、夢中で人より早く逃げることしかできなかった。
高い崖から岩が空から落下し、地面で砕ける音を聞きながら、姿勢を低くして頭を隠して素早く落石をくぐり抜け、崖に挟まれた地帯を越え、開かれた平地にたどりついた時には、約半数がどこか怪我をしていた。
ただ、幸いにも歩けなくなるほどの怪我を負った者はいなかった。
シフィルとルタは皆が優先的に守り、逃がしてくれたため、怪我は無かったが、周りのけがを見ることにより、自分たちも怪我をしているような痛みの妄想に襲われた。
口の中に入った細かい砂を吐き出して両目をこすり、砂ぼこりを払い、ようやく落石を越えたことに安堵する。
が、すぐに目の前の次の異常に気付く。
「今日こそは獲物を必ず持ち帰ろう!」
「罠にかかってなかったら、本当に狩りをしてなんとしても獲物を持ち帰ろう!」
「なんとかなるさ!」
口々に昨日の獲物無しという成果を挽回するための気合が飛び交う。
シフィルも少しは着馴れた革の服と鋼鉄の剣を丹念に見回し、強くなった自分を確認する。
じりじりとちょうど真上に位置する太陽を遮る雲もなく、昨日よりも熱い温度にすでに汗ばんでいる皮の服に空気を入れるようにパタパタと動かす。
隣ではルタも同じように狩の準備を進めていた。
ただ一度の経験でも、まるで昨日と心の持ちようが大きく異なる。
多少の余裕だろうか、昨日と同じように出発を見守る村の人たちの顔をじっくりと見ることができた。
その中をじっと目を凝らして、探していた人物を見つけると、それでも緊張して硬い表情であった顔の口元がわずかに緩んだ。
そして、今度こそ頑張ろうという強い意思が腹の奥に込み上げる。両手の拳を強く握りしめた。
それからファルス隊長が剣を空にかかげて、出発の合図を出すと、それに合わせてシフィルも剣をかかげて気合を入れる。
昨日と同じく、シフィルの母が両手を振っているが、シフィルは軽くうなずくだけで、もんちきが代わりに大きく手を振って応えた。
やはり見るものが、その風景が新鮮であり、きょろきょろしながら歩くので地面に足をとられてつまずきながら歩くシフィルがいる。
でも、その新鮮さよりも狩りの成果が気になる。
やがて、昨日仕掛けた罠のある狩場にたどり着いた。
「さあ、確認してくれ!」
真っ先にたどり着いたファルス隊長がそれぞれに指示を出して罠の確認をさせた。
シフィルは少し離れた場所にある落とし穴を確認にルタと二人で進んだ。地面の跡を観察して少し険しい顔をするルタから既に嫌な予感はしている。
「こっちはだめだ・・・そっちはどうだシフィル!」
「こっちも何もいない・・・か」
そのほかの数箇所の落とし穴も全く獲物がかかった形跡がない。であれば、直接獲物を狩るという選択肢も考えて周りを見回したが、それらしい影もない。
しかたなく、ファルス隊長のところへ戻ると他の罠もすべてだめだったという報告に、意気消沈し、暗い雰囲気が漂っている。
「この辺って何もいないんじゃないの?ここに来るまで特にそんな動物もいなかったし。昨日も。」
その、シフィルの言葉に反応したのはファルス隊長であった。
「確かにな。最近姿が見えなさ過ぎる。動物の気配が感じられない。」
辺りを見回すファルスと同じように、他の隊員も少し離れた場所まで周囲を探索したが、この周囲には全く動物がいなかった。
それは明らかに異常であった。
「これは、詳しく調べてみる必要がありそうじゃのう。とりあえず今日は木の実でも拾って帰るか。暗くなる前に帰ろう。」
木の実やキノコを採取するために散らばった隊員を集めると、周囲に獲物がいないか確認しながらゆっくりと村への帰路についた。
「今日も収穫なしか・・・辛いね。」
シフィルがルタに近づく。
ルタが小さくうなずくが、同時に森の中を深く見つめる仕草をして首を傾げる。
「周囲に獲物がいなさ過ぎる。気配がしない。何かがおかしい。」
他の者たちも同じ感想。
偶然では無く、なにか悪いことの前触れだろうかと、口々に不気味な言葉が流れる。
やがて、誰もが暗い表情を浮かべながら、愚痴をグチグチと言いながら、村へと向かって歩いて行った。
狩り場を離れ、なんとも言えない疲労感と薄らいだ緊張感のいつもと同じ帰り道の途中。
およそ半分の道のりを戻り、両側を高い崖に挟まれた山岳地帯の狭い道を通り抜けようとしたとき、上空高いところ、少し遠くのところで爆発音が響く。
「あれ?何か聞こえたか?」
誰かが独り言のように小さくつぶやいた。
始めは気のせいかと思えるような小さな弾き。
次の瞬間、心臓が止まるほどの破裂音が頭上で響き、全員が体を大きく震わせて動きを止める。
本来はそこにあるはずがない、大人の身長と同程度の大きさの砕けた岩が上空から複数降り注いだ。
「な・・・!逃げろ!」
訳も分からずに、咄嗟に持っていた木の実やキノコを投げ捨て、持っていた剣や皮の服で頭を守り、素早く走り抜けるが、道が狭く、思うように進めない。
「があああ」
「ぐごっ」
悲鳴が聞こえるが、シフィルは振り向けず、夢中で人より早く逃げることしかできなかった。
高い崖から岩が空から落下し、地面で砕ける音を聞きながら、姿勢を低くして頭を隠して素早く落石をくぐり抜け、崖に挟まれた地帯を越え、開かれた平地にたどりついた時には、約半数がどこか怪我をしていた。
ただ、幸いにも歩けなくなるほどの怪我を負った者はいなかった。
シフィルとルタは皆が優先的に守り、逃がしてくれたため、怪我は無かったが、周りのけがを見ることにより、自分たちも怪我をしているような痛みの妄想に襲われた。
口の中に入った細かい砂を吐き出して両目をこすり、砂ぼこりを払い、ようやく落石を越えたことに安堵する。
が、すぐに目の前の次の異常に気付く。
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