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第一章 セイシュの民が翔ける黎明の空
11 持久戦 炎の壁
しおりを挟む「おかしい。イノシシがこんなに状況を判断し、行動するわけがない。この笛の音の主の仕業か!」
ファルス隊長は周囲を炎越しに見渡しながら、笛の主を探るが、悪い視界ではさっぱりわからない。
「少し壁の範囲を狭める。持久戦を覚悟せよ!」
可能な限り、炎の円形の壁を自分たちに近づけるようにして、炎の範囲を狭めることにより、炎を生み出す労力を少なくし、壁を厚くする。
この方法で有れば、イノシシの進行を食い止めることはできるが、自分達も逃げることも出来ない。
しかも炎が間近のため、慣れているとはいえ、その暑さにより自らの体力が削られていく。
「プワー プワー プワー」
再びどこからか、笛が鳴ると、イノシシが即座に突撃をやめて後ろに下がり、うろうろしながら炎の壁と一定の距離を保って様子をうかがっている。
たまに、炎の壁に突撃するように近づく仕草を見せてけん制し、再びうろうろすることを繰り返す。
そして突然、本当に突撃する。
そのため、この炎の壁を保ち続けなくてはならず、徐々に徐々に体力が削られていく。
明らかに、獲物を狙う様に徐々にイノシシの頭数が増加している。
「どうします?このままじゃ、動けませんぜ?」
誰かがファルス隊長に判断を仰ぐと、なにも無かったようにファルス隊長が首を傾げて笑う。
「困ったな。間に合わないか。」
ファルス隊長がポツリとつぶやくと、それをかき消すように、どこからか今までで一番大きく笛が響く。
その笛の音を聞いたイノシシ達は全身を震わせて目を大きく開くと、炎の壁の勢いの弱い部分に規則的に集まり始め、そのまま突撃を繰り返し始めた。
今度は、助走をとって今までよりも勢いよく炎の壁にイノシシが突撃すると、炎の壁が耐えられずに、ついに破られる。
「ぎゅあぁおああ」
誰かの叫ぶ声を冷静に聞いたルタが、持っていた火の石を胸にしまって剣を両手で力強く握ると、炎の壁を破って侵入したイノシシを突き刺して動けなくする。
そして、再び火の石を握ると弱まった火の壁を補強する。
シフィルは火の原石を使うこともできず、剣を握ったまま、身を固まらせて中央で構えるだけで、何もできなかった。
「シフィル!動け!」
ルタが再び侵入してきたイノシシを相手に剣を振り回していると、それを逃れたイノシシがシフィルに向かう。
「うわぁぁぁ・・」
シフィルが持っていた剣をブンブンと振って何度もそのイノシシを叩きつけるが、走り回るイノシシに弾かれて、諦めたように距離をとる。
「シフィル!落ち着け。お前は試験を通過したのだ。もう立派な大人だ。自分を信じろ!」
ファルス隊長がシフィルの隣に立ち、手をぎゅっと握ると、肩をポンポンと叩いた。
シフィルがファルス長老をじっと見つめると、ファルス長老が深く息を吐いて笑った。
それを真似するようにシフィルも深く息を吐く。
自らの握った剣の柄をじっと見て握りを確かめると、素振り、大きく剣を振りかぶって勢いよく下ろす。
「あ・・・。硬くなっていたのか。」
再び現れたイノシシをシフィルが素早く避けると、その直線的な動きにようやく気付く。
その動きに合わせると、ようやく一匹、撃退することができた。
「やった!」
小さくシフィルがこぶしを握ると、それを喜んだルタがさらに実力の差を見せつけるかのように走りながら剣を振り、継続して火の石から炎を発した。
それに鼓舞された他の者も、剣をふるったり、弓を射たり、火の石で炎をぶつけたり、炎の壁の中に入りこんだイノシシを退ける。
逃げる隙を探りながら、炎の壁を維持しながら、炎の壁を突破したイノシシを撃退する。
それがしばらく続く。
イノシシはさらに数を増やし、周囲を取り囲む。
それとは反対に、体力の消耗により火の勢いが弱まり、火の壁は背丈ほどの高さから腰辺りまで低下し、不利な状況にあるのは誰もがわかった。
「どうします!このままじゃ、破られます!」
炎の壁が低くなり、且つ薄くなると、次第に大群のイノシシの姿が見え始め、今まで以上に恐怖を覚える。
それはイノシシの群れからすると、獲物がくっきりと見えることにより、さらに突進する数も、火の壁を突破する数も増加し、興奮が増しているようだ。
「切りがない。」
壁の中の誰かが呟いた。
「はぁ・・・」
壁の中の他の誰かが、大きく疲れた息を吐いた。
シフィルは握っていた剣の柄の汗を服で拭うと手首を振って、疲れを誤魔化す。
さすがのルタも肩で息をして、目に見えた疲れを隠さない。おそらく、この中で一番動いているのがルタだろう。
シフィルは、純粋にすごいと感じた。
それでも次第に炎の壁が衰えるのと反対にイノシシの突撃が激しくなると、剣を握っていいのか、炎の石を使っていいのか、避けるべきか、逃げるべきか、判断に大きく迷う。
このまま続けていても、誰もが、やがて力尽きることは脳裏に浮かんでいた。
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