三つの民と神のちからを継ぐ者たちの物語 ヴェアリアスストーリー

きみゆぅ

文字の大きさ
13 / 104
第一章 セイシュの民が翔ける黎明の空

12 反撃 赤く輝く矢

しおりを挟む

 その時、村の方向から小さな炎の鳥が上空を通過する。

 赤く輝く矢先が煙を上げて、その軌跡に白色の線を引く。先端に火の石が括られているのだろう。ゾワゾワっとした感覚がからだの芯を通っていく。

「よいか、ワシが合図を出したら、周囲の火の壁を解き、我々の上空に全力で火の壁を設けよ。周囲のイノシシは気
にするな!迷うな!」

 シフィルには訳がわからなかった。

 戸惑う様子から、他の者もそうであろうことは予想できたが、理由はわからなくても、そのファルス隊長の言葉には皆を従わせる力があった。

 シフィルは小さな火の原石をぎゅっと強く握って、状況を見守る。

「あ!あそこ!」

 それからすぐに、のどを鳴らすように声を上げたシフィルが空を見上げて指さした先に、再び一本の火矢が通過した。

「今だ!周囲の壁を解き、上空に火の壁を造れ!」

 ファルス長老が両手に持った火の石を空に掲げると、自分たちを覆う様に上空に火の壁を浮かべる。
 わからないまま、皆が従う。

 周囲を覆っていた炎が持ち上げられるようにシフィルたちの上空に移動すると、弾けるようパチパチと音を立てて火の粉がシフィル達に降り注ぐ。
 
 空が近くで燃えているようだ。

 周囲が焦げる匂いがする。

 イノシシを阻んでいた周囲の炎は燃やすものをなくして急速に勢いが衰えると、それを認識したかのようにイノシシの目つきが変わり、ゆっくりと近づきながら徐々に突撃体勢を整える。

 遮るものが無くなったシフィルたちとの距離は、イノシシの鼻息を感じるような距離であり、恐怖心の威圧を強く感じる。

「上空の炎を維持しながらも姿勢を低くして衝撃に備えよ!」

 ファルス長老の叫び声と同時に上空から、赤や橙の矢が複数、地面に突き刺さる。

 それは矢の先に油でもしみこませているのか、地面に突き刺さっても燃焼の状態を維持する炎の矢。

 一本一本火の石の力が入っているのだろう、通常の矢よりも圧倒的な貫通力を持った矢である。

 上空に造った火の壁のおかげでシフィル達は火矢から逃れられてはいたが、それでも気を抜くとその上空の壁を貫通して数本シフィルたちの足元に突き刺さり、それはそれで恐ろしく感じる。

 だが、直感的にこの矢は味方の救助であることを確信していた。

 それだけの勢いの火の矢が降り注げばイノシシたちはひとたまりもない、ように思えた。

 が、予想に反して矢が体を貫通したイノシシたちは苦しみながら突撃をやめずに走り続け、シフィルを吹き飛ばした。

 それを何とかバランスをとって着地すると、持っていた剣を振って撃退する。

 自分を吹き飛ばしたというより、持っている火の原石を狙っていたのをイノシシの視線から感じ取っていた。

 なんとか吹き飛ばされながらも火の原石を必死に握り締めるシフィル。

「がんばれ! もう一息だ!」

 遠くから、嬉しい声が聞こえた。
 ファルス村の民が武器を取り、救援に駆けつけたのであった。

 先ほどの火矢もその救援部隊のもので、その中には、シシリーの父親の姿も確認できた。
 ファルス村から援軍として駆けたのだ。

 その数約30人。

 狩りのメンバーから歓喜の悲鳴が上がる。だが、ファルス長老のみは、冷静に何かを考えているようであった。

 それを眺めるシフィルの視線の先、火の村の方向からうっすらと雲のような、水蒸気のような薄い煙があがると、それから黒煙、炎の柱が順に、異変が起こる。

「部隊を二つに分ける!ここは援軍にまかせ、ワシと狩りのメンバーは火の原石を守る!」

 その言葉を聞いて、顔色が青ざめている者が多数いた。

 村の宝である火の原石を狙う者は数知れずあり、またそれは種族を問わずである。

 度々狙われることがあった。
 村を空けさせるために足止めし、かつ援軍を呼ばせるためにここで襲ってきたというのであれば、村が危ない。

 誰かが発した説明に聞き入るシフィル。

 ファルスは、飛び跳ねるようにつま先でピョンピョンと年を感じさせない速度で村へと急いだ。

 その速度にはシフィルが全速力で走っても追いつけない。徐々に差がついていく。

 咄嗟のことで気が動転していることもあり、正直全く何も判らなかったが、非常事態であることは理解した。

 シフィルはイノシシに吹き飛ばされたときに足を捻っていたが、それに構わず、全力で急いで走る。

 やがて、ファルス隊長を目視できる範囲で追っているのはシフィルとルタだけになっていた。

 村が近づくと、日常でない風景が広がり、現実なのかを疑いたくなる。

 村の守りとして残っていた老人達が、火の石を持ち、剣を持ち、弓を放ち走り回っている。

 村の入り口を防柵で塞いだのだろうがそれを突破されたというのは、弾きとんだ木の破片と倒れている複数の老人たちで見て取れる。

 そしてそれに巻き込まれたのだろう、さらに数人がうずくまり、そして一人がまさに今倒れた。

「侵攻を受けてる・・・敵か!」

 事の重大さを、村の状況を目の前にして、恐怖でみえない空気の壁に押し返されるように両足が鉛のように重くなる。

 それでもファルス長老を追いかけて前に進むと、剣術道場を中心としてその周囲を守る老人たちに対して、クマやイノシシ、トラなどの猛獣が襲い掛かっている現場に遭遇する。

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

炎光に誘われし少年と竜の蒼天の約束 ヴェアリアスストーリー番外編

きみゆぅ
ファンタジー
かつて世界を滅ぼしかけたセイシュとイシュの争い。 その痕跡は今もなお、荒野の奥深くに眠り続けていた。 少年が掘り起こした“結晶”――それは国を揺るがすほどの力を秘めた禁断の秘宝「火の原石」。 平穏だった村に突如訪れる陰謀と争奪戦。 白竜と少年は未来を掴むのか、それとも再び戦乱の炎を呼び覚ますのか? 本作は、本編と並行して紡がれるもう一つの物語を描く番外編。 それぞれに選ばれし者たちの運命は別々の道を進みながらも、やがて大いなる流れの中で交わり、 世界を再び揺るがす壮大な物語へと収束していく。

転生先はご近所さん?

フロイライン
ファンタジー
大学受験に失敗し、カノジョにフラれた俺は、ある事故に巻き込まれて死んでしまうが… そんな俺に同情した神様が俺を転生させ、やり直すチャンスをくれた。 でも、並行世界で人々を救うつもりだった俺が転生した先は、近所に住む新婚の伊藤さんだった。

『25歳独身、マイホームのクローゼットが異世界に繋がってた件』 ──†黒翼の夜叉†、異世界で伝説(レジェンド)になる!

風来坊
ファンタジー
25歳で夢のマイホームを手に入れた男・九条カケル。 185cmのモデル体型に彫刻のような顔立ち。街で振り返られるほどの美貌の持ち主――だがその正体は、重度のゲーム&コスプレオタク! ある日、自宅のクローゼットを開けた瞬間、突如現れた異世界へのゲートに吸い込まれてしまう。 そこで彼は、伝説の職業《深淵の支配者(アビスロード)》として召喚され、 チートスキル「†黒翼召喚†」や「アビスコード」、 さらにはなぜか「女子からの好感度+999」まで付与されて―― 「厨二病、発症したまま異世界転生とかマジで罰ゲームかよ!!」 オタク知識と美貌を武器に、異世界と現代を股にかけ、ハーレムと戦乱に巻き込まれながら、 †黒翼の夜叉†は“本物の伝説”になっていく!

世紀末ゾンビ世界でスローライフ【解説付】

しおじろう
SF
時は世紀末、地球は宇宙人襲来を受け 壊滅状態となった。 地球外からもたされたのは破壊のみならず、 ゾンビウイルスが蔓延した。 1人のおとぼけハク青年は、それでも のんびり性格は変わらない、疲れようが 疲れまいがのほほん生活 いつか貴方の生きるバイブルになるかも 知れない貴重なサバイバル術!

最初から最強ぼっちの俺は英雄になります

総長ヒューガ
ファンタジー
いつも通りに一人ぼっちでゲームをしていた、そして疲れて寝ていたら、人々の驚きの声が聞こえた、目を開けてみるとそこにはゲームの世界だった、これから待ち受ける敵にも勝たないといけない、予想外の敵にも勝たないといけないぼっちはゲーム内の英雄になれるのか!

修復スキルで無限魔法!?

lion
ファンタジー
死んで転生、よくある話。でももらったスキルがいまいち微妙……。それなら工夫してなんとかするしかないじゃない!

『異世界ガチャでユニークスキル全部乗せ!? ポンコツ神と俺の無自覚最強スローライフ』

チャチャ
ファンタジー
> 仕事帰りにファンタジー小説を買った帰り道、不運にも事故死した38歳の男。 気がつくと、目の前には“ポンコツ”と噂される神様がいた——。 「君、うっかり死んじゃったから、異世界に転生させてあげるよ♪」 「スキル? ステータス? もちろんガチャで決めるから!」 最初はブチギレ寸前だったが、引いたスキルはなんと全部ユニーク! 本人は気づいていないが、【超幸運】の持ち主だった! 「冒険? 魔王? いや、俺は村でのんびり暮らしたいんだけど……」 そんな願いとは裏腹に、次々とトラブルに巻き込まれ、無自覚に“最強伝説”を打ち立てていく! 神様のミスで始まった異世界生活。目指すはスローライフ、されど周囲は大騒ぎ! ◆ガチャ転生×最強×スローライフ! 無自覚チートな元おっさんが、今日も異世界でのんびり無双中!

鬼死回生~酒呑童子の異世界転生冒険記~

今田勝手
ファンタジー
平安時代の日本で魑魅魍魎を束ねた最強の鬼「酒呑童子」。 大江山で討伐されたその鬼は、死の間際「人に生まれ変わりたい」と願った。 目が覚めた彼が見たのは、平安京とは全く異なる世界で……。 これは、鬼が人間を目指す更生の物語である、のかもしれない。 ※本作品は「小説家になろう」「カクヨム」「ネオページ」でも同時連載中です。

処理中です...