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第一章 セイシュの民が翔ける黎明の空
12 反撃 赤く輝く矢
しおりを挟むその時、村の方向から小さな炎の鳥が上空を通過する。
赤く輝く矢先が煙を上げて、その軌跡に白色の線を引く。先端に火の石が括られているのだろう。ゾワゾワっとした感覚がからだの芯を通っていく。
「よいか、ワシが合図を出したら、周囲の火の壁を解き、我々の上空に全力で火の壁を設けよ。周囲のイノシシは気
にするな!迷うな!」
シフィルには訳がわからなかった。
戸惑う様子から、他の者もそうであろうことは予想できたが、理由はわからなくても、そのファルス隊長の言葉には皆を従わせる力があった。
シフィルは小さな火の原石をぎゅっと強く握って、状況を見守る。
「あ!あそこ!」
それからすぐに、のどを鳴らすように声を上げたシフィルが空を見上げて指さした先に、再び一本の火矢が通過した。
「今だ!周囲の壁を解き、上空に火の壁を造れ!」
ファルス長老が両手に持った火の石を空に掲げると、自分たちを覆う様に上空に火の壁を浮かべる。
わからないまま、皆が従う。
周囲を覆っていた炎が持ち上げられるようにシフィルたちの上空に移動すると、弾けるようパチパチと音を立てて火の粉がシフィル達に降り注ぐ。
空が近くで燃えているようだ。
周囲が焦げる匂いがする。
イノシシを阻んでいた周囲の炎は燃やすものをなくして急速に勢いが衰えると、それを認識したかのようにイノシシの目つきが変わり、ゆっくりと近づきながら徐々に突撃体勢を整える。
遮るものが無くなったシフィルたちとの距離は、イノシシの鼻息を感じるような距離であり、恐怖心の威圧を強く感じる。
「上空の炎を維持しながらも姿勢を低くして衝撃に備えよ!」
ファルス長老の叫び声と同時に上空から、赤や橙の矢が複数、地面に突き刺さる。
それは矢の先に油でもしみこませているのか、地面に突き刺さっても燃焼の状態を維持する炎の矢。
一本一本火の石の力が入っているのだろう、通常の矢よりも圧倒的な貫通力を持った矢である。
上空に造った火の壁のおかげでシフィル達は火矢から逃れられてはいたが、それでも気を抜くとその上空の壁を貫通して数本シフィルたちの足元に突き刺さり、それはそれで恐ろしく感じる。
だが、直感的にこの矢は味方の救助であることを確信していた。
それだけの勢いの火の矢が降り注げばイノシシたちはひとたまりもない、ように思えた。
が、予想に反して矢が体を貫通したイノシシたちは苦しみながら突撃をやめずに走り続け、シフィルを吹き飛ばした。
それを何とかバランスをとって着地すると、持っていた剣を振って撃退する。
自分を吹き飛ばしたというより、持っている火の原石を狙っていたのをイノシシの視線から感じ取っていた。
なんとか吹き飛ばされながらも火の原石を必死に握り締めるシフィル。
「がんばれ! もう一息だ!」
遠くから、嬉しい声が聞こえた。
ファルス村の民が武器を取り、救援に駆けつけたのであった。
先ほどの火矢もその救援部隊のもので、その中には、シシリーの父親の姿も確認できた。
ファルス村から援軍として駆けたのだ。
その数約30人。
狩りのメンバーから歓喜の悲鳴が上がる。だが、ファルス長老のみは、冷静に何かを考えているようであった。
それを眺めるシフィルの視線の先、火の村の方向からうっすらと雲のような、水蒸気のような薄い煙があがると、それから黒煙、炎の柱が順に、異変が起こる。
「部隊を二つに分ける!ここは援軍にまかせ、ワシと狩りのメンバーは火の原石を守る!」
その言葉を聞いて、顔色が青ざめている者が多数いた。
村の宝である火の原石を狙う者は数知れずあり、またそれは種族を問わずである。
度々狙われることがあった。
村を空けさせるために足止めし、かつ援軍を呼ばせるためにここで襲ってきたというのであれば、村が危ない。
誰かが発した説明に聞き入るシフィル。
ファルスは、飛び跳ねるようにつま先でピョンピョンと年を感じさせない速度で村へと急いだ。
その速度にはシフィルが全速力で走っても追いつけない。徐々に差がついていく。
咄嗟のことで気が動転していることもあり、正直全く何も判らなかったが、非常事態であることは理解した。
シフィルはイノシシに吹き飛ばされたときに足を捻っていたが、それに構わず、全力で急いで走る。
やがて、ファルス隊長を目視できる範囲で追っているのはシフィルとルタだけになっていた。
村が近づくと、日常でない風景が広がり、現実なのかを疑いたくなる。
村の守りとして残っていた老人達が、火の石を持ち、剣を持ち、弓を放ち走り回っている。
村の入り口を防柵で塞いだのだろうがそれを突破されたというのは、弾きとんだ木の破片と倒れている複数の老人たちで見て取れる。
そしてそれに巻き込まれたのだろう、さらに数人がうずくまり、そして一人がまさに今倒れた。
「侵攻を受けてる・・・敵か!」
事の重大さを、村の状況を目の前にして、恐怖でみえない空気の壁に押し返されるように両足が鉛のように重くなる。
それでもファルス長老を追いかけて前に進むと、剣術道場を中心としてその周囲を守る老人たちに対して、クマやイノシシ、トラなどの猛獣が襲い掛かっている現場に遭遇する。
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