三つの民と神のちからを継ぐ者たちの物語 ヴェアリアスストーリー

きみゆぅ

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第一章 セイシュの民が翔ける黎明の空

15 火の村防衛

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 まだ暗い。それでももうすぐ朝を向かえてもおかしくない時刻。
 かがり火は高く、激しく燃えている。

「ルタ、シフィルも戦闘態勢をとれ。村への侵入を阻止する。」

 既に、ファルス長老が指示を出して、戦闘態勢を整えている。
 さらに、村の周囲に枯れ木を集めて燃やし、炎の壁を造りだす。

「武器はすべて出せ!戦えるものは全員でいくぞ!」

 その音は徐々に近づく。

 その場の全員の動きが止まった。

 急に会話も止まり、静まり返る。

 炎が燃える音がジリジリパチパチとうるさく感じる。

 はじめは遠くの風が砂埃を巻き上げて舞っているだけだと思った。
 天気が機嫌を損ねて雷が徐々に近づいているのだと思った。

 それらは、獣が地を駆け、蹄が地面を激しく蹴る音であることは、つい先ほど経験した記憶から、皆が同時に理解した。

 だが、考えたくない。重い腰を上げ、武器を手に持ったが、足は動かずに、ただ呆然とその方向を眺めていた。 

 今度は、その先程の経験した3倍、いや5倍はいるだろうか。数えきれない数の、視界に入るすべての場所にイノシシが集団で村を襲ってきた。

 しかも今度は考えなく狂ったように突撃してくる。

 その勢いは衰えることなく、村への侵入を防ぐための防柵も、待ち構えていた陣形も一瞬で吹き飛ばす。

 村へと入り込んだイノシシの集団は、邪魔をする建物を避けず、その建物を突き壊してどんどん進んでいる。

 建物に激突して倒れたイノシシの上を、後から来たイノシシが駆け進みその先の建物を破壊する。

「けが人と女・子供は剣術道場内の結界へ急げ!村全体の防衛は放棄する。道場のみを一点集中して守るぞ!」
 
 ファルス長老が最後の力を振り絞り、火の石を夜空に掲げると、そこから炎が四方八方へと放射されて吹き荒れ、暴れるイノシシを大きく吹き飛ばす。今までにない火力、シフィルが初めて見るファルス長老の本気。

 それを合図に、剣術道場に皆が集まると、火の石にちからを込めて、道場の周囲に火の壁を作り出した。

 その内側に全員が入り、そこにファルス長老も戻り守りに入る。

「黒炎の陣!ここは死守だ!全力で行くぞ!」

 ファルス長老が火の石にちからを込めると、炎の壁が赤く光り輝き、黒く高温の壁へと変化していく。

 道場の外に残った戦える者は20人。シフィルとルタも残っている。

 作戦は無い。ただ守るだけだった。

 建物と同様に黒炎の陣へもイノシシが勢いよく突進してくる。

「獣が火を恐れずに突っ込んでくるとは。明らかに誰かに操られている証拠だ。」

「では、その操っている奴を見つけて倒せばいいんですね?」

 ルタにファルス長老がうなずく。

 イノシシは狂った様に、この黒い炎の壁、黒炎の陣に狙いを定めて突撃してくる。
 黒炎の勢いにより、イノシシは触れた瞬間に吹き飛ばされるが、それを物ともせずに、イノシシが次々に黒炎の陣へ襲い掛かる。

 わずかにでも、その黒炎の勢いが薄れたところを集中的にイノシシが突進していく。

 それだけに、ちからを込めた黒炎の陣を全体のバランスを保ちながら、継続させると体力の消耗が著しい。

 その微調整のためにファルス長老が歩き回りながら、全方位に炎のエネルギーを注ぐ。それを見透かしてか、多方面からの一斉攻撃が仕掛けられる。

 つい先ほど戦闘から解放されたばかりの後の襲撃は精神的に強いショックを与えた。

 さらに、イノシシの行動が変わる度に笛の音がするのが、苛立たせる。

 シフィルもわずかであるが、黒炎の壁に貢献している。

 ようやく自分の意思で炎を操ることができてきた。土壇場での成長。

 それでも『休みたい』それが率直な気持ちだった。

 しばらく、黒炎の壁を維持することに専念する時間が続く。

 黒炎のわずかな揺らぎから視認できるその先には、まったく勢いも数も衰えないイノシシの群れ。

 周囲にイノシシの死骸が積み重なることにより、イノシシが飛び込む位置が徐々に高くなっていく。

 そのため、さらに高い位置までの黒炎の壁を維持しなければならずに、余計に疲労も積み重なる。

「らちがあかないか。どうする。」

 誰かが疲れた声で呟いた。

「このまま続けば持ちこたえられない。」

 他の誰かが続いて呟く弱気な言葉。

「確かにな。あのムスクスルを倒すしかない。」

 それにファルス長老が呼応する。

「じゃあ、俺がその操っているムスクルスってのを見つけて倒します!」

 ルタがファルス長老の隣で力強く息を吐く。

「一緒に行く!」

 シフィルの言葉に首を振るルタ。

「率直に言う。お前の能力じゃ無理だ。悪いが足手まといだ。」

「えっ・・そうか。そうだな。」

 素直にシフィルがルタにうなずいた。どこか安心してしまった感情がある。

 そして、パンと背中を叩いたファルス長老に応えるように、シフィルが気を取り直して黒炎の壁に炎を注ぎ込む。

「長老、一瞬でいいので壁に穴をあけてください。そこから外へ出ます。」

 少し大きめの声で、長老以外にもその場にいる者達に聞こえる声でルタが叫ぶ。

「わかった。頼むぞ。」

 それに応えて、ファルス長老の隣でルタが力強くうなずく。


「シフィルよ、お前がこの黒炎の壁に穴をあけてルタを外に進ませるのだ。」

「え・・・俺ですか?できません!そんなこと!」

 瞬時にシフィルが拒絶する。

「いいからやるんだ。我らは黒炎の壁の維持に手が離せない。一点突破だ。」

「まだうまく使えないんです。この火の原石が。それに、疲れて集中力も落ちてるし。」

「試験を思い出せ。お前ならできる。」

 言葉に詰まるシフィル。そしてじっと自分の右手で薄赤く光る火の原石を見つめる。
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