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第一章 セイシュの民が翔ける黎明の空
17 操り人
しおりを挟む驚いた顔をしてシフィルが振り向いて、手を振ってルタを捕まえようとするが、すぐにルタは後ろに下がって距離をとると、火の石から炎の塊を連続的に放射して、直接シフィルを狙わずに、その周囲に命中させて塵を舞わせて、周囲の視界を奪っていく。
「シフィル!しっかりしろ!目を覚ませ!」
そしてルタがどこからか準備した皮の袋に大量の水を入れてシフィルに投げぶつけると、シフィルに触れる前に皮は炭になり、水が蒸気に変わる。
それに合わせてファルス長老が飛び跳ねてシフィルに近づき、間近で火の石にちからを込めて、炎を打ち出してから瞬時に後ろに下がると、落ちていた斧を拾ってシフィルに向かって放り投げる。
だが、ファルス長老の炎はシフィルへ吸い込まれると、斧はシフィルに触れる前にボワっと燃えて焼失する。
ルタとファルス長老が並んで、道場を背にして立つと、二人ともが火の石を身構えて立つ。
何事も無かったように、仁王立ちしてシフィルが立つと、再び小さく笑う。
「終わるか?セイシュの民よ。小さきものよ。」
ルタもファルス長老も、お互い、全身がブルブルと震えているのが分かった。
「ルタよ、お前は逃げろ。ここはワシが何とかする。」
「どうにもならないですよね?これ。逃げられる気もしませんし。」
「確かにな。」
ルタもファルス長老も同じように笑う。それは、どこか諦めた笑い。
どこからか、笛の音が聞こえると、少し離れたところに再びイノシシが現れて待ち構えているのがわかる。
ファルス長老も、ルタも、その気配を感じると、深く息を吐く。
「シフィル!どうしたの!」
女性の声。不安そうな、か細い声。
ルタが振り向く。
「道場の中に隠れていろ、そこなら火の原石が守ってくれるはずじゃ。」
ファルス長老が手を大きく振って道場の中に入るように促す。
「シフィル!止めて!」
道場の中に避難していたシシリーが姿を現すと、驚いた声をシフィルに投げかける。
「・・・」
その言葉に従う様に、シフィルの動きが止まる。
「ねぇ、止めて。どうしたの?」
シシリーがゆっくりとシフィルに近づく。
「・・・」
シフィルがシシリーを視界にとらえると、呼吸まで止めるようにすべての動きを止める。
それと反対に、じりじりと周囲で待機をしていたイノシシが近づいてくる。
「我が届かない・・・おまえは操り人か・・・」
シフィルがシフィルの声に徐々に戻る。
そして、何かから解き放たれた様に詰まった息を深く吐くと、右手をゆっくりと開き、火の原石が手のひらからするりと流れて地面に落ちた。
それと同時にシフィルの気配がシフィルに戻る。
そのまま、シフィルが頭をフラフラさせて目を瞑ると、しゃがみこむ様にゆっくりと仰向けに倒れ込む。
ファルス長老とルタが駆け寄ると、なにも無かったかのように、直ぐにシフィルが上半身を起こす。
「あれ?倒れた?気を失っていた?寝てた?」
シフィルが頭をトントンと自分で軽くたたき、意識をしっかりさせると、怖い表情で覗き込んでいる二人に驚く。
「すみません。なんか寝ちゃって・・・」
訳が分からずに、シフィルがファルス長老に頭を下げると、ファルス長老は警戒するようにシフィルの肩に軽く触れ、繰り返してうなずいた。
「転んで頭を打っただけだ。さあ、剣を持て、イノシシの群れを打ち払うんだ!」
ルタが転がっていたシフィルの鋼鉄の剣を手渡すと、まだ少し頭をフラフラさせたシフィルが受け取って身構える。
その間に、ファルス長老がシフィルの火の原石を拾い上げ、自分のポケットにしまうと、自らの火の石を強く握り、炎を巻き起こし、道場の周囲を炎の壁で再び覆う。
それを合図に、男たちが道場に近づくイノシシ達を手に取った武器と火の石で生み出した炎で追い払う。
先程のシフィルの何かしらの異変は、周囲のイノシシへも何らかの影響があったようだ。少し距離を取り、積極的に突進をしてこない。シフィルを恐れているようにも見える。
「だああぁ!」
ルタが誰かの落とした剣を拾い、イノシシの群れに逆に突っ込んでいくと、それを援護するように誰かが火を巻き起こしてルタの後を追った。
「ここが正念場だ!!ちからを出しきれ!!」
明かに怯んでいるイノシシの群れに、勇敢なルタの後姿に、他の者たちがファルス長老の叫び声に呼応して、ここぞとばかりに動き出すと、一斉に周囲へと反撃に出る。
シフィルもそれに合わせて持っていた剣を振り回すと、一心不乱に目の前の敵を追い回す。
「パン!」
乾いた音が響く。火薬の弾けた音。
それと同時に、シフィルの隣にいたルタが倒れ込む。
「えっ?」
「・・・?大丈夫だ。」
ルタが左腕を抑えながら不思議そうな顔をして、周囲を見回すと、再びその音が響き、他の誰かが倒れ込む。
「戻れ!銃だ。走れ!!」
ファルス長老が、その銃声のした方向へ大型の炎を投げ入れて威嚇し、大声で合図をすると、訳の分からないまま道場へと向かって全員が走り戻る。
その間にも、火薬の弾ける音がして背後から襲い掛かるのを、身を縮めて必死に避ける。
ルタがファルスの隣まで戻ると、その銃声のした方向へと火の石を向けて、手あたり次第に炎を放射する。
その間に、全員が退避すると、ファルス長老が銃でケガを負ったものを道場の中へ入るように指示をして、さらに道場を守る火の壁を厚くする。
外を守るのは約10人まで減っていた。
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