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第一章 セイシュの民が翔ける黎明の空
18 交渉決裂 雨が降る
しおりを挟む「あれば銃といい、火薬で弾を飛ばす。外界の武器だ。」
ファルスが横にいたルタとシフィルに告げる。火の石から放出される炎とは比べ物にならない程に早い弾丸。
「銃の音が3か所から聞こえた。おそらく、その武器を持っているのは3人。さっきのムスクルスとその仲間だろう。」
遠くまで聞こえるようにファルス長老が大声で伝えると、再び銃声が響く。
「正解です。」
黒いフードと黒のコートを全身に纏ったムスクルスが両手に銀色に光る武器を構え、ゆっくりと姿を現す。
それに相対するように、ファルス長老も火の石を身構えてその真正面へと移動する。
「目的はなんだ。なぜ、ここまで村を襲う!」
「だから言ったでしょう。イルエスタを敵に回した者達には滅んでもらうと。」
「わかった、我々はイルエスタに忠誠を誓う。だから終わりにしてくれ。」
「本当ですか?その言葉は信用できますか?」
「当然だ。ワシは嘘をつかない。」
「そうですか。わかりました。」
ニコッとムスクルスが笑う。
そして、持っていた武器を人差し指で操作をすると、銃弾を打ち出す。
それを予測していたように、ファルス長老がしゃがんでそれを避けると、火の石から炎を放射させる。
ムスクルスは、黒のマントでヒラリとその炎を遮ると、炎が掻き消える。
「目的はなんだ。」
「この村の地下に火の原石というのがあるのでしょう。それですよ。だから、あなたたちは邪魔なんです。」
「な、そんなものはない。」
「セイシュの民の村には、その民のエネルギーを吸い取って成長する原石といわれるものがあると。そんな話を聞き
ましてね。欲しくなるじゃないですか。」
「そのうわさは聞いたことがある。それは嘘だ。真実でない。」
「そうですか、と帰るわけにもいかないのですよ。」
「それは、原石といわれるものがどこからきたものか、わからないから推測が推測を呼び、誰かが適当に言ったもの
だろう。」
「じゃあ、掘らせてください。我々が満足するまで。」
「わかった、この村は明け渡す。だから、少し時間をくれ。全員をこの場から避難させる。」
「もう、面倒なんでんすよ。あなた方の持つその火の石もすべていただきます。よく考えれば、あなた方から高い金
を払って買うよりも、こうすればよかったんですね。」
「交渉決裂か。」
ファルス長老が持っていた火の石で炎の渦を作ると、手を挙げて合図をする。
ルタも横に駆け出して同じ動きで炎を生み出すと、他の者も一斉にムスクルスに向かって炎を放射させる。
シフィルが自分の服をパンパンと叩き、どこにも火の原石が無いことをようやく認識すると、探すのをやめて剣に力を込める。
「同じことの繰り返し、知能が低い連中は扱いやすい。」
ムスクルスが何か先程のファルス長老がしたように手を挙げて合図をすると、どこかで青色の光がこぼれた。
何かを感じ、シフィルは頬を拭う。シフィルの頬が濡れていた。
別に涙というわけではない。
驚いて空を見上げると、急激に黒い雲が上空を覆い、さらにそれが重なると、やがてこの周辺のみに雫が落下した。
「あ・・・」
腕や額にもそのポタポタという水の雫を感じる。
「雨だ。」
シフィルが手のひらを広げると、初めはぽつりぽつりだったのが、すぐにざーざーになり、やがてゴロゴロと稲光を伴ったゴォーゴォーと吠えるような雨音になる。
夜に切り替わったような厚い雲に覆われた暗い土砂降りの中、みるみるうちに火の勢いが弱まる。
そこに笛の音が鳴り響くと、それを待ち構えたイノシシ達が再び激しくからだを震わして雨の中の火の壁に突撃し、同時に銃声が激しく鳴り響き近づく。
ファルス長老とルタが道場に接するように後退して、火の壁を作り出すと、一応はイノシシの突進を壁で食い止めるが、火の壁は明らかに勢いがなく、それに反して体力の消耗もさらに激しくなり、ルタが片膝をつく。
「この雨は水の民の仕業か・・・奪われるよりは・・・全員、わずかでいい、全力で火の壁を作れ!」
ファルスは叫ぶと、自らは火の石を仕舞い、消える速さで走り道場内に入っていった。
豪雨が音を立てて滝のように流れると、それを受けてイノシシ達は眼下恐怖にしていた炎が消えかけて、元気を得て突進を続けた。
イノシシの突撃がその勢いを強め、ついに複数個所の火の壁が同時に破られる。
弾き飛ばされた誰かが宙に舞い、落下して動けなくなる。
銃が火の壁を失った個所か撃ち込まれ、複数人がその場に倒れ込む。
最後の時がせまる。それを誰もが感じた。
「もう少し!長老が戻るまで耐えるぞ!!」
ルタが大声を上げて、自らを鼓舞して高揚させると、持っていた火の石に全神経を集中させる。
ルタを覆う様に自身の周りに炎の渦が生まれると、そのまま火の壁を走り飛び越えて外に飛び出し、両手を広げてその炎を激しく放射させる。
近寄るイノシシをその炎で焼き尽くすと、周囲を走り回り壁に群がる獣を追い払い、そのまま銃声がする方向へと走り近づき、全力でその方向へと身に纏う炎をすべて放出する。
雨により炎の火力は衰えたが、しばらく銃声が沈黙したことから、そのルタのがむしゃらな攻撃はそれなりの効果あったのだろう。
それは、ルタの持っているすべてのちからを振り絞った、最後の抵抗であることは皆が感じていた。
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