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第一章 セイシュの民が翔ける黎明の空
20 目覚め
しおりを挟む「はやく・・・こい・・・ ふしぎなふしぎな ・・・けっかい・・・」
いつもの夢に起こされ、シフィルは目を覚ました。
どこかの草の上、暖かい太陽に包まれていた。そうか、すべて夢だったのか、とシフィルは思った。
そうだ、こんなことがあるはずが無い、夢だったと思った。
疲れたからまた寝よう。
夢で良かったと少し微笑んで、そのまま眠りにつく。
「起きろシフィル 起きろシフィル」
いつもの様に、もんちきがシフィルの顔に覆いかぶさって起こそうとする。
それをシフィルは手ではねのける。いつもと変わらない日常の風景であった。
眩しい。いつもよりも陽の光が眩しい。
「シフィル・・・起きたのね!」
シフィルの傍らには母がいた。その隣には幼馴染のシシリーがいた。
上半身を起こすと、いろいろ痛い。嫌な予感がよぎる。それでもこの現実は良い方か、悪い方か判断でき兼ねていた。
寝ぼけ眼で周囲を見回すと、森の中で、草原の上に寝転んでいた。
なんで、家の中で寝ていないんだろう。なんで隣にシシリーがいるのだろう。わけがわからない。
夢の中でも理解できないことだらけであったが、今も判らない。
こっちが夢なのだろうか。なんなんだろう・・・
不意に母に抱きつかれたシフィルはつい条件反射のまま、母をそのままはねのけた。
体勢を崩し、転倒する母。でも笑っていた。
「シフィル起きた シフィル起きた!」
もんちきもしつこくシフィルに抱きついてくる。
条件反射のように、それも鬱陶しく跳ね除ける。
周りを見回すと、6人程だろうか、森の中をうろうろ歩いているのが見える。
まだ、理解できていない表情で呆けているシフィルにシシリーが少し戸惑う表情で口を開いた。
「本当に無事でよかった。」
「・・・え?なに?ここはどこ?」
ようやく、普通ではないことに気付く。
「ここは森の中。火の村ファルスはもうダメだからここで少し休んでいます。」
シシリーは悲しそうな声で、シフィルの隣に座り、膝を抱えて涙を流しながらうつむいた。
その横で、悲しい涙とも、嬉し涙ともとれる涙を流している母がいた。
周りを気にせず、顔をくしゃくしゃにしてシフィルを深く見つめている。
もんちきはシフィルから離れようとしない。
「そうか。」
シフィルが上を向いて眩しい太陽を見つめて目を閉じると、ようやく現実を悟った。
眩しさからだろうか。自然と涙がこぼれる。
その後、母から聞いた話では、ファルス長老が火の原石に含まれるすべての力を放出したことにより、炎がすべてを燃やし尽くした。
それにより、イノシシや獣たちも、ムスクルス達も姿を消した。襲撃部隊の撃退に成功したのだ。
だが、それと引き換えに村がすべて吹き飛び破壊され、火の原石は砕け散った。
辛うじて、道場はシフィルが所持していた火の原石の結界のおかげだろうか、外装は大きく破損し、元の形状を全く
保ってはいないが、避難をした道場の中央部まで被害が及ばなかったのは不幸中の幸いであった。
避難した者達は、その振動で吹き飛ばされたが、致命傷を逃れた。
厄介なのが、その砕け散った火の原石の欠片が不規則に熱を持ち、破裂を繰り返したことである。
欠片と言っても目に見える大きさではない。火のエネルギーがそこに存在し、近づくものに前兆無く炎を放射して襲い掛かってくるのである。
ファルス長老が火の石のちからでそれを取り除こうとしたが、中途半端に刺激すると、さらに大きく破裂してしまうこともあり、当分の間、火の村ファルスへの入村は安全確保のため禁止するという苦渋の判断に至った。
それから現在まで、既に5日が経過していた。
シフィルは5日間も眠ったままだった。
火の村ファルスの住民は、他の村に頼れる者がいるのであれば、そこへ移るなど、ばらばらになってしまったそうだ
襲撃の被害状況は最終的には不明だが、死者22人 負傷者72人というのが、ファルスの認識している数値らしい。
シシリーの母親もその死者の中に入っている。
ファルス長老は重傷であるが、一命は取り留めて、今もこの森で周囲を警戒し、人々の手当てや、移動先の確保に 努めているらしい。
この場所には20人程度が行く当てなく残っているそうだ。
「ルタは?」
「ルタも違うところで暮らしているはずよ。」
シシリーは答えた。
ルタは意識のない状態で発見され、わずかに気を取り戻してから、そのまま両親に連れられ、どこかへと移り住んだらしい。
気力をすべて使い果たし、精神的にも肉体的にもぼろぼろの状態で、一時的な記憶障害ではないかとのこと。
自分の事すら認識できず、ただただ目を開いているだけの状態だった。ただ、今のシフィルには少し重い現実のため、そのことは隠した。
「なんでこんなことになっちゃったんだろう」
シシリーは泣きながらつぶやいた。シシリーの家で暮らしていた動植物は全滅らしい。
母を亡くし、シシリーの父は、襲撃後、寝ずに皆の看病を行ったため、過労で倒れてしまっている。
シフィルはシシリーの泣き顔をぼんやりと眺めていた。
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