三つの民と神のちからを継ぐ者たちの物語 ヴェアリアスストーリー

きみゆぅ

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第一章 セイシュの民が翔ける黎明の空

21 常識は常識でない

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 本当に、なぜこんな事になったのだろう。・・・火の原石があったから?・・多勢に無勢だったから?いや、自分が弱かったからか。力が欲しい。大切な人を守ることが出来る力が。それと、あれだけの数を相手にするには一人ではダメだ。仲間が欲しい。戦略も重要か・・・。

 色々考えながらも、この理不尽な世界自体が嫌になる自分がいた。すべてを壊してしまったら楽になるのだろうか?心からこの世界を滅ぼしてしまいたいとも思った。

 だが、目の前の光がそれを現実へと取り戻してくれた。少し近づいて香りを感じてから、息を吐き、ぎゅっと目を瞑る。

 木々の中で、太陽の光を浴びながら、シフィルは考えていた。

 仲間が欲しい。いざというとき、共に戦える仲間が欲しい。

 共に戦える仲間・・・敵は? その戦う敵は?

 判らないことだらけだ。だが、大切な人を守るためにやることはたくさんある。

 シフィルがじっとシシリーを間近で見つめる。

 そうだ、目の前で泣いている大切な人を守るために。その大切な人が泣いているのに何もできない自分に、不甲斐なく怒りが湧く。

「気がついたようだな、シフィルよ」

 木の棒を即席の杖にして、ファルス長老がよたよたと近寄ってきた。

 全身の物理的な傷よりも、一度に火のちからを放出した精神的な負荷で、一時は呼吸が止まったそうだが、シシリーの父の看護と薬のおかげでなんとか生き延びたらしい。

 ちからを使い果たしたからだろうか、火の村ファルス壊滅の精神的なものだろうか、急激に年を取ったように見える。

 といっても、シフィルが生まれたころから、ずっとこの老人の姿なのだが、一回りも、二回りも小さくなってしまったようだ。

「もうすっかりいいようだな。」

「はい。ご無事だったのですね。」

 シフィルが深く頭を下げると、ファルス長老がうなだれて首を振る。

「覚えているか?」

 穏やかに見えて恐れるような鋭い視線でシフィルをじっと見つめる。

 それにシフィルは無言で首をすると、うんうんと二度ファルス長老がうなずいた。

「なにか思い出したら些細なことでも教えてくれ。代々受け継いできた火の原石も火の村ファルスも失ってしまった。ご先祖様に申し訳が立たない。それに、多くの死者も、けが人も出してしまった。すべてワシの責任じゃ。」

「長老の責任じゃありません。襲ってきたやつらが悪いんです。」

「守れなかったワシの責任だ。」

「でも、奴らは・・・」

 ファルス長老が真剣な顔をしてシフィルの話を遮る。

「これから話す内容は内緒にしといてくれ。」

 ファルスが杖を地面に横たえると、どすんとシフィルの横に腰を下ろした。
それに沿うようにシフィルの母も、シシリーもしゃがみ込む。

「火の村ファルスの火の原石はそのちからを使い果たし、砕け散った。いま残っている火の原石は、この欠片だけだ」

 ファルス長老が服の中から、火の原石の欠片を取り出した。それはシフィルが試験の時に受けた物だった。

「もうワシは火の原石を使えない。これはシフィルが持っていてくれ。」

 火の原石を丁寧にシフィルに返すと、大切にシフィルが握る。

 シフィルの母もシシリーも驚いた顔をした。個人で火の原石を持つなんて前例が無いためである。

 ファルス長老は話を続けた。

「今、何か異変が起きている。近くの水の民の村も襲われ壊滅したらしい。また、よくわからんが、動植物が凶暴化したものも発生したらしい。初めはあの笛で操られたからと考えていたが、それだけではないみたいだ。そこでだ。火の原石を持つ、シフィルに頼みがある。結界について確認をしてきて欲しい。」

 握った火の原石をじっとみるシフィル。

 正直なところ、なんか嫌だった。からだが痛いし、とても面倒だと思った。このまましばらくはゆっくりしたかった。

 だが、結界というファルスの言葉に何か自分の中のモヤモヤしたものが、ふと現実世界に繋がった気がしたのは、どこか気持ち良かった。

 シフィルが誰にも気づかれないように小さく笑う。

「結界とはなんですか。最近いつも夢でそんなことが聞こえるんです。よくわからないですけど、何度も何度も。」

 今度はファルスが驚く。息を深く吸って、それをゆっくりと吐くとうなずいた。

「そうか。そうか。それは話が早い。その声の主のところへと行って欲しい。ワシが行きたいところだが、このからだでは無理だ。それに、まだここでやることもあるしな。地図を渡す。」

 すると、ファルス長老は幾重にも重ねて折り重ねられた、比較的新しい紙の地図を手渡した。

 受け取った紙を広げると、見慣れない地形が記載されている。狩り以外で村の外に出たことが無いので、外の世界にあこがれていたシフィルにとっては宝の地図に思えた。

 ただ、浮かれる訳にもいかない。

ファルスが続ける。

「詳しいことはその声の主に聞いてくれ。正直なところワシもわからんのだ。ただ、その結界というのは、『セイシュ・イシュの歴史書』を知っているな?その結界と関係しているようだ。」

『セイシュ・イシュの歴史書』とは、幼い頃から繰り返し歴史の勉強で使った教科書の一部に記載されており、当然知っていた。ただし、古い歴史として、過ぎ去った事として、現在と繋がることが信じられなかった。

 信じられないことがあまりに多すぎるとすべてを受け入れられるようになるものである。

 頭では疑っていたが、心では受け入れていた。

 もう、自分の常識は常識でないことに気付いていた。

「声の主とは誰ですか?」

「直接会って知ってくれ。」

 シフィルの問いかけにファルス長老は間髪入れずに応えた。

 それ以上何もファルス長老は語らず、去っていった。
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