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第一章 セイシュの民が翔ける黎明の空
22 旅立ちの時
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シフィルも聞きたいことはたくさんあるが、まず、頭を整理するのが精一杯であった。
自分の頭の理解できるレベルを大きく超え、もう、考えるのが嫌になった。休みたくなった。
だが、それを隠して、大きく息を吸って姿勢を正した。隣を意識して、少しでも自分を大きく見せたかった。
心配そうにシフィルを涙目で見つめているシシリーをシフィルが見つめ返すと、ゆっくりと震える指でその涙を拭う。
そしてそれを強く握りしめた。
「大丈夫。」
それは何も根拠がない言葉。でも、それを自分にも強く言い聞かせた。
シフィルは、ゆっくりと立ち上がると両手を上げて組み、からだをぎゅっと伸ばした。
周りを見渡すと、まだ多くの者が倒れているのがわかった。
服を敷いた即席のベットや、木の桶でどこからか汲んできた水、葉をすりつぶして作った薬、すべてが一からの手作りで、本当に何もないのがわかった。
シフィルが自分のからだを改めてみると、傷口に葉をすりつぶしたものが塗られている。
「あ・・・」
足が縺れるようにふらつくと、慌てて支えようとしたシシリーごと、その場に倒れ込む。
「大丈夫!?」
「ごめん。ちょっとまだふらふらする。」
からだのだるさから、その場にゴロンと寝転がり、目を閉じた。
「・・・」
そのまま息を吐いて力を抜いた。そしてそのまま眠りにつく。
目覚めたら、また、平和な昔に戻れるのを信じて。
その晩、再び目を覚ますと、シフィルの隣には母ともんちきがいた。
「シフィル ようやく起きたか。」
一面の星空の下、もんちきがシフィルの額に座り込む。
「夜か。」
シフィルが手でもんちきを跳ね除ける。
ぐっすり眠ったおかげだろう。頭がとてもすっきりとしている。
上半身を起こすと、まだズキズキと深いところで痛みを感じるが、だいぶ傷が癒えているのだろう。明らかにからだが軽くなっている。
少しの沈黙の後、シフィルから口を開いた。
「これからどうするの?」
森の中に服の布きれを敷いた上に母ともんちきと並んで座る。
晴れた満月は辺り一面を強く照らし、お互いの顔が見えるほどの適度な明かりを保っていた。
「ここのみんなとファルス長老の知り合いのところに行くって決めたの。とりあえず暮らす場所があるみたいだから。」
「じゃあ、安心できるよ」
もんちきがシフィルの肩と頭を行き来して落ち着かない。
「昔さ・・・」
それから話が途切れることなく、今までのことを思い出して語り尽くした。
ようやく眠りについたときには、既にうっすらと空の向こうが光を差し出していた。
そして、旅立ちの時。
狩りの時に身に付けていた堅い皮の服に、鋼鉄の剣を左腰に、深紅の鞘の剣を背負い、やわらかくなめした皮の袋に受けとった地図と薬草を入れた。
即席に造ってもらった食料や水を入れた容器が重い。
勉学で食べられる植物や動物の調理方法も教わっていたが、初めての旅、念には念を入れる必要がある。
シフィルの母が、何度も何度もその持ち物を確認する。
そこへ、ファルス長老が姿を現す。
「準備ができたようだな。」
「はい。」
正直に不安そうな、緊張した表情で返事をすると、それにファルス長老がうなずく。
「シフィルには、未来を見て欲しい。試験も通過した。もう立派な大人だ。外の世界でも十分やっていける。」
「は、はい。」
「本当であれば、初めての村外への移動は誰かと一緒がいいのだが。生憎、けが人を含めた全員の移動を考えると、そういうわけにもいかない。」
ファルス長老は、一枚の布を取り出してシフィルに手渡した。
この布は火の原石などのセイシュの民が用いる特殊な原石のちからの効果を消す性能がある特殊な布らしい。
見たことのない文字か記号かわからないものが、細かく羅列されている。何か知ることもできない呪いなのだろう。
セイシュの民の原石というのは、独特なエネルギーを常に発しており、そのエネルギーを感知することは、意外に難しいことではないらしい。
そのため、ファルス村では、結界の中に火の原石を入れ、そのエネルギーを外部から遮断していたと初めて聞いた。
「これは、シフィルの火の原石が狙われないようにするための大切な封印の布だ。絶対に無くすなよ。」
シフィルが封印の布で火の原石を包み込むと、薄い赤い光を発していた石が急激にちからを失った。
それを紐のついた丈夫な布で出来た袋に入れ、首からさげた。
「火の原石が奪われそうになったら破壊しろ。誰にも火の原石をもっていると言ってはいけない。また、いざという時以外は使用してはいけない。」
ファルス長老がシフィルが首から提げた袋を軽く握った。
自分の頭の理解できるレベルを大きく超え、もう、考えるのが嫌になった。休みたくなった。
だが、それを隠して、大きく息を吸って姿勢を正した。隣を意識して、少しでも自分を大きく見せたかった。
心配そうにシフィルを涙目で見つめているシシリーをシフィルが見つめ返すと、ゆっくりと震える指でその涙を拭う。
そしてそれを強く握りしめた。
「大丈夫。」
それは何も根拠がない言葉。でも、それを自分にも強く言い聞かせた。
シフィルは、ゆっくりと立ち上がると両手を上げて組み、からだをぎゅっと伸ばした。
周りを見渡すと、まだ多くの者が倒れているのがわかった。
服を敷いた即席のベットや、木の桶でどこからか汲んできた水、葉をすりつぶして作った薬、すべてが一からの手作りで、本当に何もないのがわかった。
シフィルが自分のからだを改めてみると、傷口に葉をすりつぶしたものが塗られている。
「あ・・・」
足が縺れるようにふらつくと、慌てて支えようとしたシシリーごと、その場に倒れ込む。
「大丈夫!?」
「ごめん。ちょっとまだふらふらする。」
からだのだるさから、その場にゴロンと寝転がり、目を閉じた。
「・・・」
そのまま息を吐いて力を抜いた。そしてそのまま眠りにつく。
目覚めたら、また、平和な昔に戻れるのを信じて。
その晩、再び目を覚ますと、シフィルの隣には母ともんちきがいた。
「シフィル ようやく起きたか。」
一面の星空の下、もんちきがシフィルの額に座り込む。
「夜か。」
シフィルが手でもんちきを跳ね除ける。
ぐっすり眠ったおかげだろう。頭がとてもすっきりとしている。
上半身を起こすと、まだズキズキと深いところで痛みを感じるが、だいぶ傷が癒えているのだろう。明らかにからだが軽くなっている。
少しの沈黙の後、シフィルから口を開いた。
「これからどうするの?」
森の中に服の布きれを敷いた上に母ともんちきと並んで座る。
晴れた満月は辺り一面を強く照らし、お互いの顔が見えるほどの適度な明かりを保っていた。
「ここのみんなとファルス長老の知り合いのところに行くって決めたの。とりあえず暮らす場所があるみたいだから。」
「じゃあ、安心できるよ」
もんちきがシフィルの肩と頭を行き来して落ち着かない。
「昔さ・・・」
それから話が途切れることなく、今までのことを思い出して語り尽くした。
ようやく眠りについたときには、既にうっすらと空の向こうが光を差し出していた。
そして、旅立ちの時。
狩りの時に身に付けていた堅い皮の服に、鋼鉄の剣を左腰に、深紅の鞘の剣を背負い、やわらかくなめした皮の袋に受けとった地図と薬草を入れた。
即席に造ってもらった食料や水を入れた容器が重い。
勉学で食べられる植物や動物の調理方法も教わっていたが、初めての旅、念には念を入れる必要がある。
シフィルの母が、何度も何度もその持ち物を確認する。
そこへ、ファルス長老が姿を現す。
「準備ができたようだな。」
「はい。」
正直に不安そうな、緊張した表情で返事をすると、それにファルス長老がうなずく。
「シフィルには、未来を見て欲しい。試験も通過した。もう立派な大人だ。外の世界でも十分やっていける。」
「は、はい。」
「本当であれば、初めての村外への移動は誰かと一緒がいいのだが。生憎、けが人を含めた全員の移動を考えると、そういうわけにもいかない。」
ファルス長老は、一枚の布を取り出してシフィルに手渡した。
この布は火の原石などのセイシュの民が用いる特殊な原石のちからの効果を消す性能がある特殊な布らしい。
見たことのない文字か記号かわからないものが、細かく羅列されている。何か知ることもできない呪いなのだろう。
セイシュの民の原石というのは、独特なエネルギーを常に発しており、そのエネルギーを感知することは、意外に難しいことではないらしい。
そのため、ファルス村では、結界の中に火の原石を入れ、そのエネルギーを外部から遮断していたと初めて聞いた。
「これは、シフィルの火の原石が狙われないようにするための大切な封印の布だ。絶対に無くすなよ。」
シフィルが封印の布で火の原石を包み込むと、薄い赤い光を発していた石が急激にちからを失った。
それを紐のついた丈夫な布で出来た袋に入れ、首からさげた。
「火の原石が奪われそうになったら破壊しろ。誰にも火の原石をもっていると言ってはいけない。また、いざという時以外は使用してはいけない。」
ファルス長老がシフィルが首から提げた袋を軽く握った。
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