三つの民と神のちからを継ぐ者たちの物語 ヴェアリアスストーリー

きみゆぅ

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第一章 セイシュの民が翔ける黎明の空

25 セダカソウ刈り

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 まず、火をおこす。

 火の村ファルスでは、常に絶やすことのない種火を代々、どの家庭でも保管しており、それを用いて火を活用するが、ここではこっそりと火の原石を使った。

 火を起こすのは獣対策でもあり、暖をとれるし、食物も焼ける。火のありがたみを改めて感じた。

「はあ、なんか疲れたな。」

 シフィルが固い干した肉をモグモグと食べると、沸かした湯でそれを飲み干した。

「そうだな。」
 
 もんちきがどこからか紫色の木の実を両手いっぱい持ってくると、それを一つシフィルに渡して、自分もボリボリとかじった。

 それをシフィルも口に含んで、酸っぱい味に顔をしかめる。

「まあ、冒険初日としては、無難な感じかな。」

「そうだな。この方向がわかるの便利だな。」

 もんちきが、コンパスの針をじっと見つめる。

「安心だね。方向がわかるって。これ、どうなってるんだろうね?」

「たぶんコンパスよりも火の原石のちからだろうな。すごいな。」

「すごいと思うよ。だって、このコンパスもそうだけど、火も簡単に起こせるしさ。どういう原理なんだろう?前に

じっとこの火の原石を見たら、結晶のような硬い透明な石の中で炎が燃えているみたいだったんだよね。」

「本当に、どうなっているんだろうな。」

 そんな答えのわからないことや、冒険初日の感想などを話しながら、やがて疲れから眠気が襲ってくる。

 シフィルは、やわらかい草を探しては火の近くに敷き詰め、纏っていた服を頭からかけて姿を隠すように、そこに寝 転がった。 

 もんちきは、その近くの木の上に登り、眠りについた。

 やがて、火は燃やす物が無くなり自然に消える。そして辺りは闇に包まれた。

 翌日も朝早くから歩いていた。

 高い木が生えている森の小道をコンパスの針の指す方角へ、ただただ歩くだけである。

 一日目の新鮮な旅というのは既になく、それよりも昨日たくさん歩いた疲れが既に蓄積して、足もだるく痛かった。
 
 無言のままずっと歩いていると、やがて太陽は高く昇り、それから少し傾いた。 

 いくら歩いても景色も変わらなくなり、二日目にして既に飽きてきた。
もんちきもシフィルの肩にのって何をしゃべるでもなく、ただ周囲をキョロキョロ眺めている。
 
 そしてたまに地面に飛び降りてからだを動かすと再びシフィルの肩に戻るのを繰り返す。
そんな調子で二日目が終わり、三日目も日が昇り、高くなり、下がり沈みかけたころ、ようやく新たな変化が訪れた。

 道が途中で途切れ、シフィルよりも背丈の高い細く、密集した草の中を進むようになっていた。

『セダカソウ』という種類で、大人の背丈程度に成長する植物である事は勉学で習っていた。

 葉が鋭く尖り、下手をすると皮膚など簡単に切り裂く危険な植物である。

 ただし、ここにあるセダガソウはシフィルの3倍程度の高さがあり、幹も太く、明らかに異常繁殖している。

「すごいな。これ、こんな高い植物は初めてだ。」

 シフィルがセダカソウの茎に触れて揺らすと、花粉のような粉が降ってきて、それを手で弾く。

 もんちきが、セカダソウに飛び移って摑まるが、尖った葉で足を痛めるとすぐにシフィルの肩に戻る。

「シフィル、これ危ないぞ。」

 もんちきがゆっくりとセダカソウの葉に触れる。

「とげがすごいな。気をつけよう。」

 シフィルが持っていた鋼鉄の剣を抜いて、草刈りをする様に一直線に進んでいく。

 このセダカソウの生え際を渡る回り道ルートも見つけてはいたが、コンパスの針は、このセダカソウを真っ直ぐに指していたし、これはこれで面白く、退屈しのぎにはなる。

 すっぱりと抵抗をしない草を切り進むこの状況は、どこか旅立つ前の格好いい自分を思い起こさせる。

「ティアアァァ!」

 少し駆けだしながら、勢いをつけて剣を前に振りかざして、先の植物を切り刻む。

 シフィルが通った道以外は、どこも周囲を草で覆われており、何も見えない。

 退屈のうっぷんを晴らすように、両手で持った剣を振り回してばったばったと草刈りをしながら進んでいくと、やがて晴れた空が赤く染まり、暗闇に変わった。

「今日はここで野宿か。」

 すっかり暗くなると、前後左右だけでなく上下も含めて状況が全く分からなくなる。

 考えなく振り回していた腕は既に十分疲れている。それでも丁寧に鋼鉄の剣の刃先に付着した植物の液体を拭き取る。

「ここは痛いから嫌だな。ん?あれは?」

 もんちきがシフィルの肩から頭の上に昇ると、背伸びをして、じっとその先を見つめる。

「シフィル、もうちょっと進もう。あれは光じゃないか?」

 シフィルが剣を使ってもんちきが指す方向へと進むと、確かにその闇の中から、小さな明かりが微かに感じられる。

 その光に近づくと、気付かれないように、丁寧にセダカソウを手で分けるように進んでいく。

 ちょっと痛いのを我慢して、身をかがめて進んでいく。

 そこでコンパスの針がゆっくりと回転を始めると、そこが水の文様の場所であることがわかった。
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