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第一章 セイシュの民が翔ける黎明の空
26 廃墟 ひとはいる
しおりを挟む「町がある。水の村か。」
もんちきを頭の上に乗せて、静かに警戒をしながら、さらにセダカソウをかき分けてその明かりの方向へ近づくと、複数の建物と、微かな明かりが見える。
地図の水の文様から、水の民の村だと確信した。
異常繁殖したセダカソウは、この村を覆い隠す役目をしていたのだろうか。
到着まで5日程度の距離を予定していたが、3日で着いてしまったのは、地図があてにならないのか、自分の足が速かったのかは不明だが、まずは目標としていた水の文様の場所についたことを素直に喜ぶ。
だが、さらに進むとその喜びは一瞬で消えた。
「何だこれ・・・?」
近づくにつれて徐々に焦げた匂いが鼻につき、焼けて黒く炭化した建物が崩壊してペッチャンコになっているのが見える。
その隣の建物も。先の建物も崩れ落ちている。水車も軸が外れ、川の流れは破片で堰止められている。
地面には所々に血の跡。
火の村ファルスは外敵に襲われたという表現がふさわしいが、ここは、すべてを破壊つくされたように見えた。
周囲の明かりが点々とその夜を照らすが、人の姿は全く見えず、もぬけの殻のようである。
本当にここに人がいるのだろうか。生きている人がいるのだろうか。
そもそも、今ここにいるのは水の民の村を崩壊させた奴らかもしれない。
建物の残骸に身を隠しながら少しずつ警戒しながらも村の中へと進んでいく。
中央に近づくにつれて建物の形は殆ど見えず、村と言うよりも平地に近い感じで、何かの残骸だけが確認できるだけである。
もんちきがシフィルの肩の上でピンと急に背筋を伸ばす。
「シフィル、気を付けろよ。何かの気配は感じるぞ。」
「言われなくてもわかってるよ。」
もんちきはシフィルの耳元でささやくと、シフィルは姿勢を低くして身を隠してそっと周囲を深く見回す。
村をじっと眺めるが動くものは見当たらないため、鋼鉄の剣を身構え、用心深く身を潜める。
もんちきはシフィルの肩の上から後方を見張る。
既にすっかりと暗くなったその闇では、わずかな明かりでは、ほとんど何も見ない。
「あなたは誰?」
不意にどこからか、女性の声が聞こえた。辺りを見回してもどこにも姿が見えない。
背筋が凍るような感じがした。心臓の鼓動が速くなりそれが全身を脈動させる。ハッと息をのむ。
この雰囲気では本当に幽霊というのが存在すると思って怖かった。
「ここには何もないですよ。」
再びどこからか、同じ声が聞こえた。微かな声。
剣を構えながらも、敵ではないことを察した。敵だったら既に背後から襲われて終わっていただろう。それを想像してまた、ぞーっとした。
もんちきがこっそりシフィルに左から聞こえることを告げると、完全に固まっていたからだが緩んでふと我に返り、剣を振りかぶり、その方向へ身構える。
その瞬間、一斉に松明がシフィルの周囲を囲み、急に明るくなることで、目がくらんだ。
シフィルの身構える方向と、ちょうどその背後、そして自分の右手側に合計3本の松明がシフィルを取り囲み、それと同時にそれぞれ弓矢を構えた者が2人確認できた。すっかり囲まれている。
反射的に剣を構えてはいたが、その松明で照らされた暗闇の奥に目をこらすと、子供を抱く母親らしき人、年寄りらも見守っている。
やっぱり、敵意を持っているとは思えなかった。
「あの、すみません。道に迷いました。偶然、この村にたどり着きました。よろしければ一晩泊めて頂けないでしょうか。」
シフィルは剣を鞘にしまって、降伏するように両手を挙げてから、肩に乗るもんちきを頭の上に乗せ換え、周囲に小さく頭を下げた。
周囲にざわめきが起こる。火の村から来たことを隠そうと、もんちきがシフィルにこっそりと告げていたので、それに従った。
「子供です。どうしましょう?」
弓を構えた男が誰かへ問いかけた。
シフィルは瞬時に左手を密かに服の中へ入れた。首から提げた封印の布をいつでも外せるように、火の原石を使えるように身構えた。その動きが周囲を警戒させる。
もんちきは、シフィルの頭の上で、周囲をきょろきょろしている。
「もう、この村には何もないですよ。」
闇から、一人の姿が見えた。フードを被っており、顔は見えないが、背丈、声より推測して女であることはわかった。長い黒色の髪が腰のあたりまで垂れて揺れている。
「すぐにでも立ち去りなさい。」
その女性が大きなため息をついてから、右手の人差し指を上げて弓を構える男へ指すと、下へ降ろす仕草をする。
そしてシフィルをのぞきこむように一度、強く睨むように視線を合わせるとすぐに背を向けて歩いてゆく。そして 立ち止まる。
「夜に放り出すわけにもいきませんから。見張りを付けてもよければ、一晩に限り宿泊を認めます。明朝すぐに村を出て行きなさい。」
一度歩みを止めると、振り返らずに再び歩きだした。
「いけません!また同じ事を繰り返すのですか?」
「直ぐに殺すべきです!さもなければ追い返すぐらいしないと!」
口々に強い口調の言葉が飛び交う。その中で、もんちきをじっと見つめるものがいた。
周囲から隠れるように、それでももんちきが気付くように小さく手を振っている。
もんちきもそれに気付く。
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