三つの民と神のちからを継ぐ者たちの物語 ヴェアリアスストーリー

きみゆぅ

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第一章 セイシュの民が翔ける黎明の空

30 12日前 混乱と火と水

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「これは火の石か!」

「火の民は我らと手を組んだ。これが証拠だ。」

 サルダが自らが纏う水でその炎の柱を打ち消す。

 周囲には、徐々に水の村の民が集まり出している。

「本当にさようなら。」

 ムスクルスが、一度両手をサルダに見せるように前に出して指を広げて閉じると、再び広げる。

 そこには、先ほどまでは無かった火の石が指と指の間に、左右4個ずつ、合計8個挟まった状態で驚かせる。

 サルダが咄嗟に水の石にちからを込めて激しい濁流生み出してクスクルスへと放つが、その水が両手に触れた途端に、爆発音と蒸気に変化させ、広範囲を一瞬で白色が包み込む。

 その音で耳がキーンとなり聴力が奪われ、蒸気で視界も奪われてサルダがその場に立ちすくむと、水の村の若者が一斉に武器を手に持ち、ムスクルスへと襲い掛かった。

 ムスクルスが再び持っていた1つの火の石を自分の足元にたたきつけて炎を生み出すと、自らは素早くその場から逃れる。

 周囲は、まだ蒸気で全方位が霧がかかったように視界がゼロになる。

「逃げられたか!」

 村の若者が叫ぶ。

「狙いは水の原石だ。既に数人が守りに向かった。行くぞ。」

 サルダが動き出そうとした瞬間。今度はムスクルスに変わり、同じ黒いコートを纏った青年が立っていた。

「だから、×の地点には近づかないようにと警告をしたのです。」

 その青年は両目を瞑り、深刻な顔をした。

 そしてその青年がコートから火の石を取り出す。

 それは、先程ムスクルスが持っていた火の石よりも3倍程度大きい。

「皆様に色々研究を助けていただいたこと、一生忘れません。」

「待て!」

「私もこんなところでしくじる訳にはいかないんです。私の求める未来のために。」

 サルダが水の石にちからを込めて、その青年を水の膜で覆うが、青年はそれを無視して、持っていた大きい火の石を両手で強く握り、自らの足元に勢いよくたたきつける。

 石は広範囲に砕けて散ると、そこから一瞬で激しい爆発と炎が巻き起こる。

 サルダが放った水は一瞬で気化して薄い白色の蒸気へと変化する。

 その炎があらかじめ設置されていたのであろう導火線を通じて村の至る所へとその火の力を伝播させる。

 その導火線の先には膨大な量の火薬が埋まっており、そこで大爆発を巻き起こしているのは、遠くからでも感じられた。

 どこで、どのような爆発が、何か所発生したか全くわからないが、村全体に爆発音が複数回鳴り響き、大きく大地が揺れ、瞬く間に村全体が炎に包まれた。

「・・・もはや、これまでか。」

 サルダが水の石を強く掴みながらも、落ち着いて周囲を見回すと、既にムスクルスも青年も姿が見えない。

 周囲では爆発が小刻みに発生し、その火の粉が木製の住居に引火するのを繰り返し、激しい炎が巻き起こり、その火炎の旋風で蒸気と黒色の煙が混合して巻き上がられて、視界が極度に狭まる。

 その炎が誘導されて集まり、さらに強い爆発がいたるところで発生する。

 その場に倒れ込む人々、逃げ惑う人々。

 それをかばうように村長サルダは水の石に力を込めた。薄い青色の優しい膜が人々を覆い、火の勢いを弱めた。
が、それはわずかな間、しかも限られた範囲でしか効果は得られず、直ぐに炎の柱がその水を蒸発させた。

「炎の勢いが強すぎて消火が追いつきません!!」

「けが人が、誰か助けてくれ!!」

「水をかけろ!消火しろ!」

「逃げるんだ!!」

 どこからか、水の村の民の叫ぶ声が聞こえる。

「水の村は諦める。いったん避難だ!まず、命を保つことを第一に考えろ!若い者は年寄り子供を補助してやれ!」

 サルダが周囲を走り回る若者に告げると、そこから口伝えで避難を急ぐように指示が飛び交う。

 それを眺めながら少し混乱が緩和されるのを見届けると、自らが持つ水の石をじっと見つめる。

「これから火の勢いを弱める!そのすきに全員が逃げるんだ!」

 サルダの叫ぶ声に何が起こるかは理解できなくても、その言葉は誰もが信用できた。

「今まで世話になったな。」

 それは誰にも聞こえない心の声。

 再度、サルダは自身の水の石をじっと見つめる。

「水の石よ、すべてのちからを解放せよ!!」

 サルダが壊れるほど強く水の石を握り締めると、それを地面に強くたたきつけた。

 ガラスが砕ける音が響くと、青色の光が村中にあふれ出し、強い湿気を生み、黒い雲を作り出し、村中に雨を降らせた。

 人々の安堵する顔。瞬く間に火の勢いが弱まる。

 サルダは急ぎ自分の屋敷へと全速力で走り戻る。
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