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第一章 セイシュの民が翔ける黎明の空
32 12日前 絶望の記憶
しおりを挟む「なんなのだ?貴様らは。なぜ、あの氷から抜けられた?」
「私の仲間になれば教えてやらんでもない。どうじゃ?」
ムスクルスが不気味な笑みを浮かべる。
「だから断るといっているだろう。」
サルダが水の原石にちからを込めると、自らのからだを細かい氷の粒が覆う。
それからすぐに水のちからが地面を凍らせ、青年とムスクルスを氷が瞬時に覆い二人を氷漬けにする。
氷漬けの青年が、サルダの方向を向いて、笑みを浮かべている。
そしてすぐに内部から氷が溶解し、両手に力を込めると氷が粉砕した。
「あなた、あまり頭良くないですか?」
青年が笑うと、胸から赤色の石を取り出した。
「そうか。火のちからか。」
「わかりました?二回目で。」
「・・・火の民がお前たちに味方したか。火が裏切ったか。」
「正直に申し上げましょう。私は頭が悪い人は嫌いです。理性的でなく、何をするかわからない。もう、終わりにし
ましょう。」
その青年がムスクルスに視線を向けると、考える仕草をしてから、小さくうなずいた。
青年が取り出した赤く光る石がその手のひらの上で『バチ』っと嫌な音を立てて砕け、炎が生まれる。
そのまま両手で青年が炎を掴むと、それを地中へと埋め込んだ。
地面がゆらっと小さく揺れる。
「なにを・・・逃げろ!」
サルダが叫ぶと同時に、村のあらゆるところから破裂音が響いた。
地面が揺れ、地割れが走り、空を見上げると天まで届くような炎が5カ所から上がっていた。
悲鳴が、叫び声が聞こえた。建物が崩れる音が聞こえた。炎がすべてを焼き尽くす音が聞こえた。
絶望の音が聞こえた。
それは火薬とは比にならない炎の勢い。赤く光る火の力を含んだ石、それもかなり大きいものを複数使用しているのだろうということは理解できた。
その炎から発せられた放射熱は温度差から激しい風を巻き起こし、雨雲をすべて吹き飛ばす。
それだけでなく、目を空けられない熱風と火の粉、破壊された建物を巻き込んで、大きな旋風が所々に発生している。
おそらく、その設置した5か所というのは、炎の柱の相互作用を計算して場所を選定したのだろう。
水の研究をするといって、この時のための地形を探査していたのだとしたら。
サルダが首を振って、全身に力を込め、自らを奮い立たせる。
「ワシには水の原石がある。代々受け継いできたこの水の原石が。」
「あなたの敗因は、水の原石だけに頼ったこと。その化石頭では無理でしょうか。」
地に存在するすべてをエネルギー源に変えて燃焼させた炎はさらに拡大を続け、空には火の塊と火の渦が舞い、すべてを焼き尽くそうとしていた。
サルダが両手で水の原石を持ち、最後にその炎に抵抗するちからを生むために全身全霊を、すべてを込める。
「水の原石よ!そのちからを・・」
どこからか、銃声が響くと、サルダの手から水の原石が零れ落ちた。
「・・・・!!!!」
そこに青年が走り込むと、水の原石へと右手を伸ばす。
触れる間際でその右手が冷たく凍り付く。
サルダが水の原石へと右手を伸ばす。
青年は胸から左手で赤い石を取り出し、右手を解凍すると、そのまま赤い石をサルダへ高速で投げ破壊した。
わずかにサルダの右手は水の原石に触れることができない。
火の渦がサルダを包み込み、火の渦でできた強い熱風はサルダのからだを上空へと吹き飛ばした。
そのまま村全体が炎で包まれ、あらゆるものが焼き尽くされた。
それからすぐ、葉の文様の黒のコートを纏った者達は姿を消した。
火が消えたのは、燃やす物がすべて無くなった、翌々日(今から6日前)であった。
まだ、所々に白い煙が燻る。
さらにその翌日。
サルダの指示でこの惨劇から逃された一人の少女と付き添った9名が水の村へ戻る。
全て焼き尽くされ、死体を発見できた数のほうが圧倒的に少なかった。
それには村長のサルダも含まれる。人口70人程度の村であったが、この出来事での生存者はたった21名だった。
このような内容を、おばばはシフィル達に告げた。
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