三つの民と神のちからを継ぐ者たちの物語 ヴェアリアスストーリー

きみゆぅ

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第一章 セイシュの民が翔ける黎明の空

33 現実に戻る

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「おばばよく無事だったな。」

「私はサチ様の従者として逃れておりました。サルダの、夫の指示として。」

「でも、よくこんな細かくわかったな。」

「はい。生き残りの方々から聞いたのと、あとは、これが。」

 おばばが一通の手紙をもんちきの前に差し出した。

「この手紙が水の奥深くに沈められておりまして。いま、私が話した内容が詳細に記載されておりました。不思議な事にその手紙の筆跡は夫サルダの物でした。といっても、自分の最後の描写もあり、なんとも信じがたいことですが。」

「そうか。もしかして生きてるかもしれないな。」

「はい。そう願っております。」

 そして少しの沈黙。

 シフィルは差し出されたお茶を飲み干した。

 いつの間にか、熱々だったお茶が冷めてしまっていた。

 おばばが続ける。

「それから、5日後、あなた方がこの村に到着されました。皆が警戒することはしょうがないことでしょう。心の底からあの恐怖から立ち直れないのでございます。まだ、5日しか経っていないのですから。」

 言葉が出なかった。

 再び少しの沈黙。

 おばばがシフィルの湯飲みを持ち上げると、お茶を汲みに席を外した。

「葉の文様の黒いコート。火の村と同じかな。赤い石?まさか火の石を使った?火の民が裏切った?それは嘘だ。なんかよくわからないね。」

 シフィルはどうしていいか、正直よくわからなかった。

 軽い気持ちで立ち寄ったこの村に、正直来ない方がよかったと心底思った。

 とても一人で太刀打ちできない現実を突きつけられ、戸惑う。嫌な気持ちになった。

「昔、何度か水の村に来たことがある。湧水が冷たくてきれいでおいしかった。その水で育てた野菜はうまくてな。
好きな村だった。」

 もんちきが首をうなだれて悲しい顔をする。悔しがった。

 おばばが新しいお茶をもって戻ってくる。

「おばば。大変だったな。この村、おれ好きだったのにな。」

「過去形で話さないでくだされ。また、この村は生き返る。村は崩壊しましたが、湧水は無事でした。また、サチ様
も無事でした。水と水の一族、そして水の原石。これらが無事であれば、この村は生き返るはずですじゃ。」

「水の原石は無事だったのか。」

「はい。先ほどの手紙と一緒に、湧水の源泉に、なにか意志を持ったかのように沈んでおりました。今はサチ様が受
け継いでお持ちです。」

「サチ様?あの先程の女の子か?」

「サチ・ランドール。村長サルダ様の孫にあたる、正式な水の村の後継者ですじゃ。あなた方に色々話しかけた少女。あの方ですじゃ。」

 シフィルはその顔を思い浮かべようとしたが、思い出せなかった。ただ、腰まで伸びた長い髪が印象的である。

「サルダ様がいなくなった翌日にこの村に戻ったサチ様は、即日にこの村を継ぎました。今は変わり果てた20人程
度の小さな村。この村を継ぐ、それが良いか、悪いか、私には到底想像などできませんじゃ。」

 老婆が疲れた顔をすると、深く息を吐いた。

「おばば、ありがとう。今日は休もうか。」

「わかりました。明日は少しつきあっていただきます。サチ様にも紹介いたします。」

 おばばが部屋のドアを閉めて去っていくと、木を削った上に草を敷いて作った即席のベッドにゆっくりと横になった。

「なんか、いろいろ疲れたなぁ」

 シフィルは両の手のひらを重ねて頭の下に敷いて仰向けになると、天井を見上げた。

 よく見ると穴が開き、激しく焦げた跡が生々しく残っている。

 気づかなかったが、焼けた匂いがこの部屋に充満している。

 改めて、現実なんだと考えると、ブルブルっとからだが震えた。

「うぁ、いろいろ疲れたなぁ」

 もんちきが灯された明かりを消すと眠そうにシフィルによりかかった。

「今日は寝よう。」

「そだな。寝よう。」

 外からは絶えずかすかな足音と人の気配がする。

 まだ信頼されずに見張りがいるのだろうか、それとも護衛として誰かが守っているのだろうか。

 不安はあるが、あの人数で襲われたら、どう抵抗しても勝てないだろう。あきらめもつく。

 それよりも今は、野宿から解放されてゆっくりできることが嬉しかった。

 剣を頭の近くに置き、横になると、周囲に気を配るように努力をしながらも、意識を失うように眠りについた。

 疲れは思った以上に溜まっている。

 もんちきもシフィルの横で眠りについた。

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