35 / 104
第一章 セイシュの民が翔ける黎明の空
34 朝の水の村の議論
しおりを挟む「シフィル起きろ シフィル起きろ おばばが呼んでるぞ!」
もんちきが顔をペチペチ繰り返し叩きながら声をかける。
眩しい光を浴びてようやく目覚めると、既に日は高い位置にあり、よく眠った満足感とだるさがある。
初めての旅はやはり精神的にも、肉体的にも辛い。足も腕もいろいろ痛いし、もう少し眠っていたい。
宿泊したこの部屋は、壁からも屋根からも扉からも、穴っぽこを通して直接太陽の光が入り込んでいる。
晴れてよかった、雨が降ったら大変だなと思った。
シフィルの腹の上で飛び跳ねるもんちきを振り払うと、少し寝すぎたと反省しながら素早く身支度を整えた。
辺りを見渡すと誰もいない。表の人の気配も消えている。
「朝早く、おばばが村長の家に来てくれと言ってた。大きな建物が村長の家だとさ。もうだいたいの場所はわかるぞ。おばばと探検してきたからな。昔の記憶を思い出してきた。」
早起きしたもんちきは、既に村中をおばばと散歩をして歩いたらしい。
「起こしてくれればいいのに・・・」
「気持ちよさそうに寝てたからな。おばばが起こさなくて良いってさ。」
不満そうなシフィルをにやりと笑ってごまかすもんちき。
少し乱暴にもんちきを肩に乗せ、警戒しながらゆっくりと表に出て周りを見渡すと、昨日は暗闇の中だったので気付かなかったが、村全てが焦げた跡で想像以上に瓦礫が飛散した跡がひどい。
焦げた臭いも未だ強い。
簡易に修復した建物も確認できるが、人口20人の村では、復旧は大変困難であろうことは予想が付いた。
もんちきの案内でしばらく歩いていくと、焦げて真っ黒くなってはいるが、唯一破壊されることなく残った建物にたどり着く。
木造ではあるが壁を土で覆って補強してある3階建ての建築物で、他の家屋と比較して明らかに頑丈な造りで大きい。
それに沿うように建屋の後方に少し広めの土砂で濁った川がゆっくりと流れている。透明な湧水。ここがおそらくおばばの言っていた水の原石が沈められていたところだろう。
屋根の上に羽の壊れた風車があり、今にも落下しそうにバタついている。
後方の川には水車の残骸があって、その荒れた水の流れで白い水しぶきを上げている。
あれが村長の屋敷だともんちきが指をさした。人々が集まって何やら話し合っているのがわかる。
建物の入り口に近づくと、見張りの男が偉そうに胸を張って、シフィルを招き入れて一階の広間に行くよう指示をする。
一礼して素直に従った。
村長の屋敷は外装は黒く焼け焦げて入るものの、中は全くの無傷で、衣類や食器等の生活用品で溢れている。
その状況から、村人の多くはここで暮らしているのが容易に想像できた。
老婆はなぜこの村長の屋敷で暮らさないのであろうか?という点は率直に疑問に思った。
屋敷には既に大勢の村人が集まっている。20人程度だろうか。
入り口の見張り曰く、重要な決めごとのため、すべての村人が集まっているとのこと。
案内された通りに、屋敷に進み入ると、言い争いの声が聞こえる。
「水は涸れ、木々は枯れもうこの村は終わりですのじゃ 新たなところに移った方がよいのじゃ」
おばばの強い声が聞こえる。それを抑えるように口々に意見が飛び交う。
「先祖代々の土地を離れるのは良くないことだ」
「どこへ移る?他の民に頭を下げろと言うのか!!」
このままここに留まるか、新しい土地へ移るかの議論をしている。
興奮したその集団の威圧感に圧倒され、少しこの場に隠れてその様子を見ることにした。
「確かにこの水の濁り具合では作物を育てるのは難しいかもしれない。」
「だったら、他から川を引くとか、湧水をどうにか復活させるとか。」
「この人数でそれは無理だろう。」
「でも、我らは長年ここに住んできた。サルダ長老がご健在であれば、この場で踏ん張るという選択をするのではな
いか?」
「だが、いないのだ。我らで判断をしなくてはいけない。」
「このまま、ここに留まるのがいい。もう疲れた。このままここで余生を終えたい。」
「ここに残っても先はありゃせんぞ。特に若いものには。」
「そんなこと言ったって、どこにも行く当てなんて無いし。同じ水の村って言っても、知っている人いないし。」
紛糾した議論が進むが、どうにも結論にたどり着くとは思えない。
20
あなたにおすすめの小説
炎光に誘われし少年と竜の蒼天の約束 ヴェアリアスストーリー番外編
きみゆぅ
ファンタジー
かつて世界を滅ぼしかけたセイシュとイシュの争い。
その痕跡は今もなお、荒野の奥深くに眠り続けていた。
少年が掘り起こした“結晶”――それは国を揺るがすほどの力を秘めた禁断の秘宝「火の原石」。
平穏だった村に突如訪れる陰謀と争奪戦。
白竜と少年は未来を掴むのか、それとも再び戦乱の炎を呼び覚ますのか?
本作は、本編と並行して紡がれるもう一つの物語を描く番外編。
それぞれに選ばれし者たちの運命は別々の道を進みながらも、やがて大いなる流れの中で交わり、
世界を再び揺るがす壮大な物語へと収束していく。
転生先はご近所さん?
フロイライン
ファンタジー
大学受験に失敗し、カノジョにフラれた俺は、ある事故に巻き込まれて死んでしまうが…
そんな俺に同情した神様が俺を転生させ、やり直すチャンスをくれた。
でも、並行世界で人々を救うつもりだった俺が転生した先は、近所に住む新婚の伊藤さんだった。
『25歳独身、マイホームのクローゼットが異世界に繋がってた件』 ──†黒翼の夜叉†、異世界で伝説(レジェンド)になる!
風来坊
ファンタジー
25歳で夢のマイホームを手に入れた男・九条カケル。
185cmのモデル体型に彫刻のような顔立ち。街で振り返られるほどの美貌の持ち主――だがその正体は、重度のゲーム&コスプレオタク!
ある日、自宅のクローゼットを開けた瞬間、突如現れた異世界へのゲートに吸い込まれてしまう。
そこで彼は、伝説の職業《深淵の支配者(アビスロード)》として召喚され、
チートスキル「†黒翼召喚†」や「アビスコード」、
さらにはなぜか「女子からの好感度+999」まで付与されて――
「厨二病、発症したまま異世界転生とかマジで罰ゲームかよ!!」
オタク知識と美貌を武器に、異世界と現代を股にかけ、ハーレムと戦乱に巻き込まれながら、
†黒翼の夜叉†は“本物の伝説”になっていく!
世紀末ゾンビ世界でスローライフ【解説付】
しおじろう
SF
時は世紀末、地球は宇宙人襲来を受け
壊滅状態となった。
地球外からもたされたのは破壊のみならず、
ゾンビウイルスが蔓延した。
1人のおとぼけハク青年は、それでも
のんびり性格は変わらない、疲れようが
疲れまいがのほほん生活
いつか貴方の生きるバイブルになるかも
知れない貴重なサバイバル術!
最初から最強ぼっちの俺は英雄になります
総長ヒューガ
ファンタジー
いつも通りに一人ぼっちでゲームをしていた、そして疲れて寝ていたら、人々の驚きの声が聞こえた、目を開けてみるとそこにはゲームの世界だった、これから待ち受ける敵にも勝たないといけない、予想外の敵にも勝たないといけないぼっちはゲーム内の英雄になれるのか!
『異世界ガチャでユニークスキル全部乗せ!? ポンコツ神と俺の無自覚最強スローライフ』
チャチャ
ファンタジー
> 仕事帰りにファンタジー小説を買った帰り道、不運にも事故死した38歳の男。
気がつくと、目の前には“ポンコツ”と噂される神様がいた——。
「君、うっかり死んじゃったから、異世界に転生させてあげるよ♪」
「スキル? ステータス? もちろんガチャで決めるから!」
最初はブチギレ寸前だったが、引いたスキルはなんと全部ユニーク!
本人は気づいていないが、【超幸運】の持ち主だった!
「冒険? 魔王? いや、俺は村でのんびり暮らしたいんだけど……」
そんな願いとは裏腹に、次々とトラブルに巻き込まれ、無自覚に“最強伝説”を打ち立てていく!
神様のミスで始まった異世界生活。目指すはスローライフ、されど周囲は大騒ぎ!
◆ガチャ転生×最強×スローライフ!
無自覚チートな元おっさんが、今日も異世界でのんびり無双中!
鬼死回生~酒呑童子の異世界転生冒険記~
今田勝手
ファンタジー
平安時代の日本で魑魅魍魎を束ねた最強の鬼「酒呑童子」。
大江山で討伐されたその鬼は、死の間際「人に生まれ変わりたい」と願った。
目が覚めた彼が見たのは、平安京とは全く異なる世界で……。
これは、鬼が人間を目指す更生の物語である、のかもしれない。
※本作品は「小説家になろう」「カクヨム」「ネオページ」でも同時連載中です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる