三つの民と神のちからを継ぐ者たちの物語 ヴェアリアスストーリー

きみゆぅ

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第一章 セイシュの民が翔ける黎明の空

34 朝の水の村の議論

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「シフィル起きろ シフィル起きろ おばばが呼んでるぞ!」

 もんちきが顔をペチペチ繰り返し叩きながら声をかける。

 眩しい光を浴びてようやく目覚めると、既に日は高い位置にあり、よく眠った満足感とだるさがある。

 初めての旅はやはり精神的にも、肉体的にも辛い。足も腕もいろいろ痛いし、もう少し眠っていたい。

 宿泊したこの部屋は、壁からも屋根からも扉からも、穴っぽこを通して直接太陽の光が入り込んでいる。
晴れてよかった、雨が降ったら大変だなと思った。

 シフィルの腹の上で飛び跳ねるもんちきを振り払うと、少し寝すぎたと反省しながら素早く身支度を整えた。

 辺りを見渡すと誰もいない。表の人の気配も消えている。

「朝早く、おばばが村長の家に来てくれと言ってた。大きな建物が村長の家だとさ。もうだいたいの場所はわかるぞ。おばばと探検してきたからな。昔の記憶を思い出してきた。」
早起きしたもんちきは、既に村中をおばばと散歩をして歩いたらしい。

「起こしてくれればいいのに・・・」

「気持ちよさそうに寝てたからな。おばばが起こさなくて良いってさ。」

 不満そうなシフィルをにやりと笑ってごまかすもんちき。

 少し乱暴にもんちきを肩に乗せ、警戒しながらゆっくりと表に出て周りを見渡すと、昨日は暗闇の中だったので気付かなかったが、村全てが焦げた跡で想像以上に瓦礫が飛散した跡がひどい。

 焦げた臭いも未だ強い。

 簡易に修復した建物も確認できるが、人口20人の村では、復旧は大変困難であろうことは予想が付いた。

 もんちきの案内でしばらく歩いていくと、焦げて真っ黒くなってはいるが、唯一破壊されることなく残った建物にたどり着く。

 木造ではあるが壁を土で覆って補強してある3階建ての建築物で、他の家屋と比較して明らかに頑丈な造りで大きい。

 それに沿うように建屋の後方に少し広めの土砂で濁った川がゆっくりと流れている。透明な湧水。ここがおそらくおばばの言っていた水の原石が沈められていたところだろう。

 屋根の上に羽の壊れた風車があり、今にも落下しそうにバタついている。

 後方の川には水車の残骸があって、その荒れた水の流れで白い水しぶきを上げている。

 あれが村長の屋敷だともんちきが指をさした。人々が集まって何やら話し合っているのがわかる。

 建物の入り口に近づくと、見張りの男が偉そうに胸を張って、シフィルを招き入れて一階の広間に行くよう指示をする。

 一礼して素直に従った。

 村長の屋敷は外装は黒く焼け焦げて入るものの、中は全くの無傷で、衣類や食器等の生活用品で溢れている。

 その状況から、村人の多くはここで暮らしているのが容易に想像できた。

 老婆はなぜこの村長の屋敷で暮らさないのであろうか?という点は率直に疑問に思った。

 屋敷には既に大勢の村人が集まっている。20人程度だろうか。

 入り口の見張り曰く、重要な決めごとのため、すべての村人が集まっているとのこと。

 案内された通りに、屋敷に進み入ると、言い争いの声が聞こえる。

「水は涸れ、木々は枯れもうこの村は終わりですのじゃ 新たなところに移った方がよいのじゃ」

 おばばの強い声が聞こえる。それを抑えるように口々に意見が飛び交う。

「先祖代々の土地を離れるのは良くないことだ」

「どこへ移る?他の民に頭を下げろと言うのか!!」

 このままここに留まるか、新しい土地へ移るかの議論をしている。

 興奮したその集団の威圧感に圧倒され、少しこの場に隠れてその様子を見ることにした。

「確かにこの水の濁り具合では作物を育てるのは難しいかもしれない。」

「だったら、他から川を引くとか、湧水をどうにか復活させるとか。」

「この人数でそれは無理だろう。」

「でも、我らは長年ここに住んできた。サルダ長老がご健在であれば、この場で踏ん張るという選択をするのではな
いか?」

「だが、いないのだ。我らで判断をしなくてはいけない。」

「このまま、ここに留まるのがいい。もう疲れた。このままここで余生を終えたい。」

「ここに残っても先はありゃせんぞ。特に若いものには。」

「そんなこと言ったって、どこにも行く当てなんて無いし。同じ水の村って言っても、知っている人いないし。」

 紛糾した議論が進むが、どうにも結論にたどり着くとは思えない。

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