三つの民と神のちからを継ぐ者たちの物語 ヴェアリアスストーリー

きみゆぅ

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第一章 セイシュの民が翔ける黎明の空

35 南の広場にて

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「シフィル近いぞ。」

 村の南側へと進むと、地面がひどく焼け焦げ、いまだに煙が燻っている場所へ到着する。

 まだ、あの時から、何も手が付けられていないのだろう。

 いびつな形で瓦礫が積み重なっていたり、地面がえぐれたままになっている。

 その地面に小さな新しい足跡を見つけた。

「サチのかもしれない!」

 その足跡の進む先を追いかけていくと、人影が見える。

 隠れるように、醜く折れた太い木の幹に寄りかかって地面に座り、水の原石の弱い光を覗き込んで泣いていた。

 辺りはすべて焼け焦げた跡しかなく、近くに2mほどの大きさの石がある。

 ここがおばばの話にあった南の広場、まさにあの水の村の惨劇の起きた場所なのだろう。

 不気味な雰囲気にシフィルが全身を震わす。

 ということは、ここでサチの祖父であるサルダ村長が亡くなったのであろうか。

 シフィルに気づいたサチは、立ち上がり逃げようとするが、もんちきがシフィルの肩から飛び降りてサチのフード付きの服に飛びついてサチを捕まえる。

 サチは服を脱ぎ捨て逃げようとするが、もんちきがサチの顔まで素早く昇り目隠しすると、ようやく諦めたように静かになった。そして、今度はサチの顔から肩にスルスルと移っていく。

「何?」

「え、いや。」

「ん?」

「あの、水の原石にこの布をかけないと。なんかあれみたいで。」

「あれ?」

 かみ合わない会話を続ける二人。

 そこからもんちきが少し離れて歩いていると、何かを見つける。

「シフィル誰かいるぞ。」

 一目散にそこを離れてシフィルの肩に戻り周囲を警戒するもんちき。シフィルとサチも会話を止めて周囲を見回す。

 遠くから、ここに駆け寄ってくる小さい影が2つ。

 それに気づいたサチが駆け寄ろうとした瞬間、上空からものすごい速さでサチを目掛け降下してくる鳥がいた。

 黒色の細長い羽根の鳥を咄嗟にサチは手で払って避けたが、金属ナイフの刃先のように尖ったくちばしがサチの手をかする。 

 水の原石を持っている手の甲にうっすらと血を滲ませる。

 目標をはずした鳥は滑空して綺麗に旋回し、上空へと戻る。

「早く封印の布で水の原石を覆って!どうもなんか原石はなにかエネルギーが出てるらしいから!」

 シフィルが封印の布であるサルダの手紙を手渡すと、サチは言われた通りに水の原石を包む。

 すると、水の原石から青色の淡い光が消える。

 サチの足元に小さい影が到着する。

「サチ様!みつけた!」チッチという名札を付けた女の子がサチに抱きついた。

「僕の方が先だよ!」ポッポという名札を付けた男の子がその上から抱きついた。

 子供たちをそっと抱きしめるサチ。

「サチ!子供たちをつれて逃げよう!さっきの鳥がどんどん集まってきている!」

 空を見上げると黒い鳥がぞくぞくと集まり始めていた。

 そして威嚇するように、たまにシフィル達に向かって急降下し、上空へ舞い戻っていく。

 事態がわからない子供たちも、怯え、サチに抱きつく。怖さで少し涙も見える。

「北の家まで行きましょう。みんな、走れる?」

「うん。」

 涙声のまま、走り出す子供たち。それをかばいながら走るサチとシフィル。

 上空には黒い鳥が徐々に集まっていた。既に20羽ぐらいが上空でシフィル達の上空で円を描いている。

 時折急降下してくる鳥たちを避けながら、南の広間から中心部を抜け、北の村長の家へと走り抜ける。

 サチを探していた水の民がその空の異様な状況に気付くのと、サチが駆け寄ってくるのに気付いたのはほぼ同じタイミングだった。

 それと大群の鳥のさえずる声が徐々に近づくのは恐怖でしかない。

 既に上空には50羽に増えていた。

 異常事態を察した水の民は、弓矢を手に取って空へと放つが1,2羽追い払ったところで全く影響が無い。

「早く屋敷の中へ!」

 襲い掛かる鳥を剣で振り払いながら、シフィルが片手でチッチを抱きかかえて、サチがポッポの手を引いて走る。

 もんちきはシフィルの服のポケットにスポっと入り隠れている。

 屋敷が近づくにつれて、どんどん鳥が急降下して襲い掛かる頻度が格段に上がる。

 鳥たちが屋敷に逃げ込むシフィル達をその前に仕留めようと、意思を持って動いているように思われた。
黒い空が迫ってくる。

「あっ・・!」

 ポッポの顔に黒い鳥の羽が触れると、驚いた拍子にポッポがサチの手を離して、バランスを崩してその場に転んでしまう。

 サチが反転してポッポを助けに戻ると、そこを上空で待機していたすべてと思われる黒い鳥が一斉に急降下してきた。

 羽ばたく音がうるさく耳に痛い。

 サチがポッポを抱きかかえて再び走り出すが周囲をおびただしい数の黒い鳥に覆われて動けなくなる。

 シフィルも振り返る。

 戻ってサチを助けるか、チッチだけでも屋敷に届けるか。

 持っている剣で追い払うか、火のちからをここで使うと後々面倒か。

 瞬間の判断に迷ったが、チッチが全身に力を入れてシフィルから強引に離れると、そのまま黒い鳥に囲まれているポッポの元へと大声で叫びながら、拾った枝を振り回しながら戻り走っていく。

「そうだよな。」

 少しうれしそうに、ぽつりと強くつぶやくと、シフィルは封印の布から火の原石を取り出し、神経を集中して念じた。


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