三つの民と神のちからを継ぐ者たちの物語 ヴェアリアスストーリー

きみゆぅ

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第一章 セイシュの民が翔ける黎明の空

36 みずのちから

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「全員地面に伏せてくれ!」

 淡い赤い光を発していた火の原石は急に強い赤の光を発し、さらに光が強くなっていく。

 一瞬、その光にひるんだ黒い鳥が、今度はその火の原石を目掛けて突撃してくる。

 サチがポッポとチッチの上に覆いかぶさるように地面に伏せたのを確認すると、火の原石に満ちたちからを放出させた。

「うりぁあああ!!!!」

 火の原石から炎が吹き荒れて火の壁を作り出すと、それをそのまま前方へと押し出す。

 激しい熱風が巻き起こり、黒い鳥に襲い掛かる。

 本能的に察したのか、その熱風を上空へと避ける黒い鳥がほとんどで、焼かれ落ちたのは数羽であったが、サチたち付近から黒い鳥を追い払うことはできた。

 シフィルがサチの近くまで走り寄ると、サチが右足を負傷して薄っすらと血がにじんだ個所を手で押さえている。

 シフィルは、再度火の原石にちからを込めて、自分たちの周りに炎の渦を多数作り出すと、わずかな安全地帯を作り出す。

「サチ、大丈夫か!?」

「チッチとポッポを抱えて屋敷へ。私が時間を稼ぐから。」

「え?どうやって?」

 サチが封印の布に覆われた水の原石を握り締め、わずかに布を開いた。青い光が漏れる。

 徐々に、火の渦が薄くなり始める。

「あれ・・・どうしたんだ?」

「シフィル。おそらく近くに水のちからがあるからだ。原石はお互いを干渉する。」

 もんちきがシフィルのポケットから顔を出す。

 そしてサチへと飛び跳ねると、持っていた傷薬を負傷した右足へと塗っていく。

「この薬はよく効くやつだからな。」

「ありがとう。」

 サチがもんちきの頭を撫でると、照れる表情をするもんちき。

 周囲を守る火の渦が薄くなると、次第に黒い鳥が鋭いくちばしを光らせて再び襲い掛かってくる。

「俺が周囲を守るから、サチは二人を連れて屋敷へ。怪我をしてたらあの鳥を食い止められないだろ。」

 素直にサチがうなずく。

「じゃあ、いくぞ。」

「うん。」

 シフィルが駆け出してサチから距離をとって火の原石にちからを込めると、上空に向かって無造作に二発、三発と炎を連射して鳥を追い払う。

 さらに上下左右に炎の塊を放射して全方位の黒い鳥を威嚇する。

 だが、あらゆる角度から攻撃してくる黒い鳥に狙いが定まらず、効果が薄く苛立つ。

「サチ、今だ。行くぞ。」

 もんちきがサチの肩から飛び降りて地面に着地すると、屋敷へと向かって飛び跳ね走る。

 サチが立ち上がると、チッチがサチの右手を握り、ポッポがサチの左手を握り、二人が先導してサチを引っ張っていく。

 苦悶の表情で右足をかばいながら、サチが二人に引かれながら進んでいく。

 水の村の民も少し離れたところから、矢を射って鳥を追い払おうと試みるが、これだけの数の黒い鳥を追い払うには無力であった。

 ターゲットが二つになった黒い鳥はサチの水の原石とシフィルの火の原石に猛烈に尖った鋭いくちばしを突き付ける。

 シフィルが動きながら、サチ達をかばう様に炎を放射し、なんとか屋敷へと到着する直前。

「あわっっ!!」

 黒い鳥の鋭いくちばしがシフィルの火の原石を持っている右手の厚い皮の服を切り裂く。

 即座に左手に火の石を持ち直すが、すぐに左手も傷つく。

 また、同時に右わき腹の皮の服も引き裂かれ痛めると、その衝撃で火の原石を落としてしまう。

 その転がる火の原石にシフィルが、からだごと覆いかぶさるように受け止めるが、そのまま倒れこんでしまう。

 守る炎が消えるとすぐに、尖ったくちばしがサチと子供たちを襲いかかる。

 チッチが倒れこんでしまうと、それを助けようとしたポッポもチッチの上に倒れ込んでしまう。

「チッチ!ポッポ!」

 その瞬間、サチが左足で大地を強く蹴ってその勢いでポッポの上に自分のからだを空に向けて仰向けに重ね、水の原石を封印の布から完全にむき出しにして念じた。

「おじいさま 私たちを守って!」

 封印を解かれた水の原石は強く青い光を発し、凍りつく冷気を上空に向かって巻き起こした。

 空気中の水滴が冷やされて、黒い鳥に付着した水が凍り付き、羽ばたきを止め、約20羽の鳥が墜落した。

 残りの黒い鳥も少し距離を保って逃げるように上空を旋回し、様子をうかがう。

 この隙に、水の村の民が走り込みポッポとチッチを抱きかかえて屋敷へと連れ戻すことに成功すると、それを追ってサチとシフィルも屋敷へと到着する。

「大丈夫か!」

 チッチとポッポの父親と母親が走って近付き二人を抱きしめる。

 2人とも、よっぽど怖かったのだろう。顔をくしゃくしゃにして大泣きしている。

 サチもすぐに水の村の民に囲まれて、傷の手当てを受ける。

「・・・」

「大丈夫か。この傷薬はよく効くからな。」

 裂け目の付いた皮の服を脱いだシフィルにもんちきが傷薬を塗りこむ。

 明かにシフィルに近づこうとしない水の民。

 火のちからへの恐れ。明かに敵視する視線。襲い掛かってきそうな態度。

「まあ、そうだよな。」

 シフィルが苦笑いする。そして、薬のしみる感覚に痛い顔をする。
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