三つの民と神のちからを継ぐ者たちの物語 ヴェアリアスストーリー

きみゆぅ

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第一章 セイシュの民が翔ける黎明の空

38 理不尽と感謝と決心

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 トントントンと、窓や扉から黒い鳥が入ってこないように木の板を打ち付けて建屋を補強する音が聞こえる。

 まだ上空では複数羽の黒い鳥が旋回しているが、明かに数は徐々に減ってきている。

「どういうことなの?」

 サチに走り寄ってきたチッチとポッポを抱きしめながら、すーっと現れたおばばへと問いかけた。

 その言葉に、シフィルは封印の布に覆われた火の原石を握りドキリとする。

「原石と言われるものは常に不思議なエネルギーを放出している。獣たちは特にそのエネルギーを鋭く感じ取り、本能的に奪おうとするらしい。そのため、常に封印しなくてはいけないものだそうな。だが、今回のような集団で襲うというのは異常な事じゃ。未だかつて、こんなのは経験したことがない。」

 封印の布で包み込んだ水の原石は、普通の石ころと同じようにおとなしく黙っている。

「これが原石・・・。おじいさまが使っているのは見たことがあるけど、こんなに間近で見るのは初めて。」

 ほんの少しだけ封印の布を開くと、うっすらと青色の光が漏れる。

 それをすぐにおばばが閉じる。

「気を付けなされ。原石は本当に必要な時以外は使ってはなりませぬ。獣と同じように、この青い光は人も虜にする。」

 おばばがサチの手の上から自分の手を重ねると、それにサチがうなずいた。

 少し離れたところで、シフィルがそれをじっと見ている。

「原石は人も虜にするんだってさ。」

「そうだぞ。原石はいつも争いの種になってきた。これからもたぶんそうだ。」

 ぽつりとつぶやいたシフィルにもんちきが答える。

 それにしても、水の村の民の視線が冷たい。

 まあ、水の村を滅ぼしたという火のちからが、火の原石がここにあるのだから、その気分はわかる。

 でも、火の村は水のちからで大打撃を受けた。それを考えると、一緒じゃないかと思った。

 なんか、一方的に冷たくされるのが理不尽に感じた。

 助けてあげたのに。
 感謝して欲しいと思った。
 死にそうになってサチを助けたことを褒めて欲しかった。
 感謝して欲しかった。

 そこに、その心を察したのか、おばばがシフィルに近づいた。

「この少年が暮らしていた火の村ファルスもイノシシの大群に村を滅ぼされたそうじゃ。火の原石が狙われてな。イノシシにしても、ここまで集団で襲い掛かってくるということは今まで無かった。やはり、何かが起ころうとしているようじゃ。良くないことが。」

 不安そうな顔で話す老婆の真剣な声に、皆が怯えた。

 シフィルともんちきも体がゾワゾワっと震えた。

「でも、その火のちからで水の村は滅びたんだ。火の村が滅びたのは自業自得じゃないか。」

「そうだ。火の奴らはいつも凶暴だ。暴力で物を片付けようとする。少し懲りたほうがいいんじゃないか。」

 口々に心無い声が飛び交う。

 シフィルも言い返そうと思ったが、その気力もなかった。

 傷口は痛いし、せっかく助けたのに逆に嫌な思いをしている。本当に嫌になった。

 痛そうな素振りで腹を抱えて、そのまま横になって目を瞑った。

「やっぱり、あの時旅立っておけばよかったな。」

 なんかシフィルの顔の前でペチペチ叩いているもんちきにしか聞こえない声でつぶやいた。

「シフィル、ちょっと起きろ。」

 もんちきがさらに強く顔をベチベチと叩く。

 うるさく鬱陶しい感じでシフィルが手でそれを跳ね除けながら目を開く。

「あの、ありがとう。」

 チッチがシフィルの前で行儀良く頭を下げた。

「わたしもありがとう。サチ様を救ってくれて。」

 ポッポもそれを真似るように、かわいいお辞儀をした。

 行儀悪く横たわっていたシフィルががばっと起き断ち上がると、背筋をピンとただして頭を下げて、お辞儀を返した。

 慌てて、水の民が二人をシフィルから離そうとする。

「危ないから。近寄っちゃだめよ。」

「そうだ、離れろ。」

 その言葉を聞いたポッポとチッチが笑った。

「だって、サルダ様から、なにかいいことしてもらったら、ありがとうって言うって教わったもん。」

「そうだよね。だからありがとうだよね。」

 ポッポとチッチが顔を見つめ合うと、再び輝く純粋な笑顔でシフィルに頭を下げた。

「あ、あの、えっと。どういたしまして。」

 素直に照れるシフィル。もんちきもシフィルの肩に昇ると、二人にお辞儀をして見せた。

 心がゾクゾクして鼓動が早くなるぐらい、泣きそうなぐらい嬉しかった。

 他のことなんてどうでもいいと思った。

「私からも、ありがとう。」

 ゆっくりとサチが近づき、ポッポとチッチの頭を撫でながら、お辞儀をした。

 封印の布で包み込んだ火の原石と水の原石が近づくと、封印の布に包み込まれているのにもかかわらず、弱い光を発した。お互いに呼び合っているようにも思える。

 それをじっと眺めるサチ。

「私、行こうかな。その結界のやつ。」

 ふいにサチがぽつりとつぶやいた。その言葉に周囲が驚く。

「なんか、私、水の原石を扱う能力があるみたいだし、また、みんなが傷つくの嫌だし・・・」

 自分を納得させるように話すサチ。少し目が潤んでいる。

 今度は誰も文句を言うものはいなかった。
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