三つの民と神のちからを継ぐ者たちの物語 ヴェアリアスストーリー

きみゆぅ

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第一章 セイシュの民が翔ける黎明の空

41 村を去る

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 この村から見張りに探知されず出るためには、隠し通路を通る必要があるらしい。

 水の村の周囲に生えている約3mの高さのセダカソウは、この村を覆い隠す役割や獣の侵入を遮るとともに、侵入者の探知の役目をしている。

 シフィルのようにばったばったと切り倒しながら村に入ってくる者はまれで論外だが、こっそりとセダカソウを通り抜けるものさえもその揺れから事前に感知し、それに備えるための監視役が今でも設置されているそうだ。

 ちょっと馬鹿にされているようで傷ついたシフィル。

 シフィルが水の村に入った際に既に村人に待ち伏せされていたことに納得がいった。

 先を進むサチの後をシフィルが追いかけて隠し通路を通っていく。

 その隠し通路は地面に穴を掘って作られた古いもので、石で舗装された階段を下り真っ暗な地下道を進む。

 幅は人が一人通るのがギリギリだが、高さはシフィルが普通に歩いても問題ないサイズである。

 この通路は、一度この村へ入った者が、他の者にこの村を紹介する時に、この通路も一緒に紹介することにより、口伝されていく。

 なので、水の村に旅人が多い時には、この地下道も混雑しており、とても隠し通路とは言えない状況だったそうだ。

 よくよく気付けば、誰が設置したかわからないが、『水の村への通路』と手造り感に満ちている看板が設置されていた。なんか、この道がメイン道路な感じがする。

 隠し通路を抜け、眩しい空に目を細めて地上へ出た2人と1匹。笑い声が響く。

 サチが足を止めて、水の村のある方向をじっと眺めた。

 長年サチが暮らした水の民の村ランドールを離れる。

 それをシフィル達は黙って待っている。

 地図を広げた。次はとうとう目的地の○印のところを目指す!



同時刻。 


 水の村の民は移住の準備を急ピッチで行っていた。

 準備といってもほとんどが焼失していて、荷物は少なかったが、それぞれ、いままで暮らしていた水の村の思い出となる品を抱えている。

 それ以上に、長年、先祖代々住んできた土地を離れる覚悟が必要であった。

 改めて水の村を眺める。

 透き通った冷たい湧水、肥えた土壌で採れた丸々太った野菜、なにも無い普通の日々。

 それが一瞬で崩れた日。

自然と涙が流れた。

 
 火の村への移住の交渉ということで、あの事件を知っているものは、足取りも気持ちが重い。

 水の村では、ある時期から今後の火の村との交流のためとして、村長サルダはあの事件のことを一切口外しないように指示をしていたため、若い者は、全く知らず、旅行気分でもあった。

 特にチッチとポッポは新しいところへ引っ越すと知って大喜びしている。

 火の村と水の村の仲が悪いとは知らなかった。

「早く行きたいね。」

「なんか、楽しみだね。」

「友達出来るかな。」

「なんか、わくわくするね。」

 チッチとポッポが大きく笑って騒いで走り回った。

 なんだかんだと準備に1日費やし、その翌日に水の村を出発した。

 結局水の村に残っていた20名のうち、10名が火の村への移住を希望したが、その希望者は、おばば以外は比較的若い者達ばかりで、過去の出来事を知っている者はいなかった。

 もんちきの記載した詳細の地図を頼りにサルダが先導して進み、とくに魔物に襲われることなく穏やかに順調に進み、6日後には火の村に到着した。

「疲れたよぉ。」

「もう少し頑張ろうね。」

 チッチが足取り重く肩で息をすると、ポッポが手をつないで引っ張って進んだ。

 特に村には看板もなにも無く、乱雑に設置された木製の杭をロープで繋いだ獣除けが張り巡らされているのが、村の敷地を示しているのだろう。

 入り口を探し当てその場でキョロキョロと待機をしていると、直ぐに村の奥から、複数人が剣を構えて飛び出してきた。

「誰だ!」

 おばばが前に進み出ると、両足をそろえて深く頭を下げた。

「こちらに、火の村ファルスの村長ファルス様とファルス村に住んでいたシフィル殿のお母さまが滞在されていると
聞いて尋ねてきたのですが。お取次ぎ願いませんでしょうか。」

 その丁寧なあいさつに逆に困ってしまったその見張り達は、お互いに顔を見合わせて考え込む。

「あの、ええと、ファルス様とシフィルのおかあさんは、一昨日ここを出立されました。しばらく戻らないといってましたよ。」

 おばばの丁寧な挨拶を真似るように、火の村の若者も頭を下げた。

「そうですか、わかりました。失礼します。」

 おばばは、再び深く頭を下げて、少し逃げるように立ち去ろうとした。

 過去の出来事を知らない水の村の若者は、なぜこのまま去るのかが理解できなかったが、おばばの様子を敏感に感じ、同じように何も言わず火の村へ背を向けた。

そこへ武装した火の村の民が駆け寄る。

 ファルス村の襲撃の情報から、この火の村も対外的な備えとして、いつでも戦闘ができるように準備をしていたのだろう。

 動きが機敏で、ピリピリとした表情をしている。

「怪しい奴らは捕らえろとの指示である。とりあえず、待たせておけ。」

 どこからか、低い声が響く。声がした方をおばばが目を細めて見た。知らない背丈の高い、体型のがっしりした中年の男だった。
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