三つの民と神のちからを継ぐ者たちの物語 ヴェアリアスストーリー

きみゆぅ

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第一章 セイシュの民が翔ける黎明の空

42 少女

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「どうした?」

 火の村の奥から、一人の老人がゆっくりと姿を現す。

「村長、なんかファルス長老の知り合いらしいのですが。」

 村長と呼ばれた赤い派手な鎧を身に纏い、手には杖の先端に赤色に輝く石を取り付けた武器を持ち構えた老人が、ぎょろっとした大きな目で周りを見渡す。

 おばばの顔がわずかに曇る。

「これは懐かしい。」

 わざとらしく大声をあげて両手を広げると、おばばの顔を見つめてニヤッと笑った。

「我々はこれにて失礼いたします。」

 視線を伏せておばばが何度も頭を下げると、そのまま下がる仕草をする。

 その派手な鎧の老人はおばばに近づくと、腕を強く掴んだ。

「これはこれは。水の村の村長サルダの婦人様。そして火の村ファルスを滅ぼす手助けをした水の村の方々。今度は我々を滅ぼしに来たか。」

「水の村も滅びました。火のちからで。だが、我々は火の民を攻めることはしませぬ。すぐに立ち去りまする。」

「そう言って隙をついて襲うつもりであろう。」

「こんな小さな子を連れて襲うなど決してありませぬ。どうせ話しても通じ合えないのも理解しておりまする。これ
にて失礼。」

「では、持ち物をすべて置いていきなさい。そうすれば、見逃してあげましょう。」

「我らは財産すべてを失いました。今所持しているのはわずかに残った形見の品。これはどうか許していただきた
い。」

「駄目だ。この村を襲う武器を隠しているのではないか?火の村の長として、村を守るために必要なことだからな。」

「ですから、この状態で襲いはしませぬ。」

「信じられない。私は水の民は信じられぬ。昔からな。」

「・・・昔からと?」

「そうだ。昔から水の民は嫌いだ。滅ぼしたいぐらいにな。」

「・・・もしや、はるか昔、火の罠を道中に仕掛けたのは・・・そのために同族を犠牲にしたのか!。」

 火の村の村長が派手な鎧をガチャガチャとさせながら、そのおばばの言葉に一瞬喜ぶ表情を浮かべて、恐ろしい顔で笑うと小さくうなずいた。

 おばばが睨みつけるように強い視線を投げると、自らのからだの動きを抑制するように深く息を吐く。

 そして、諦めたようにちからを抜くと、おばばは持っていた手荷物をそのまま地面に置き、他の者へも同じようにするように合図した。

 よく状況がつかめていない者も多いが、おばばの切羽詰った態度から、身の危険を感じ、その派手な鎧の老人の要求に応えるように、最低限の食糧や水以外をすべてその場に差し出した。

「すべてだ。食糧や水、身につけているものも置いていけ。」

「生きるのに必要なものは許して欲しい。」

 おばばが、深く頭を下げる。

「なら、頼む態度が違うのではないか?」

 火の村の村長が地面を指さす

 サルダ婦人はその場にひざをつき、頭を地面につけた。それを見て、一緒にいた水の村の者も同じようにその場に土下座をして、許しを請う。

 チッチとポッポもそれを真似る。

 鎧姿の老人が優越感に浸り大声で笑うと、おばば達の前に立ち、地に伏している者達を見下ろした。

「すべてだ。食糧や水、身につけているものも置いていけ。」

「それは・・・」

「チッ、言うことが聞けないのか。」

 言うと、チッチの頭を掴み、地面にたたきつけた。

 あわててポッポがチッチに駆け寄るが、ポッポも杖の赤い石の部分で強く叩きつけられる。

 チッチもポッポもおどろた表情で地面に転がり、黙って泣くのを我慢している。

「私はどうなっても構いませぬ。他の者はこのまま立ち去ること許して欲しい。ここでこの子供達に何かがあれば、ファルス長老とシフィル殿、もんちき殿にあわせる顔が無い!」

 おばばは声を振り絞って大きな声で叫び、すぐに着ていたものを脱いだ。それを見て他の者も身につけているものを脱ぎ下着姿になった。

 そして食糧や水、すべてを火の村の長の足元に置き、さらに地面に頭をつけて懇願する。

「本当に脱ぎやがった。私の望みは火の民の繁栄。水の民の滅亡。それだけだ。」

 火の村の長は、おばばの頭を勢い良く蹴り飛ばすと、さらに持っていた杖で殴りかかった。

 鬼のような表情で、一心不乱に襲い掛かる火の村の村長を、慌てて火の村の若者がそれを押さえ込もうとするが、跳ね除けられる。

 我慢の限界を感じた水の村の民もおばばを守りながら剣を抜く。


一触即発の状況。


 一部始終を遠くから見ていた少女がいた。

 目には涙をためて、からだは震えている。

「ひどすぎる。子供とおばあちゃんに。そのほかの人にも。」

 その横で、その父親も少女の手を握り、じっとその様子を見つめている。

「そうだな。」
 
 あまりの仕打ちに言葉が無かった。

「助けたい。」

「そうだな。シフィルの知り合いなら、なおさらだ。」

 少女はうなずくと、ゆっくりと右手を天にむけて伸ばした。するとその先に一羽の鷹がどこからか舞い降りる。

 少女は胸のポケットから白色の粉を取り出すと、鷹の羽に練りこむ。

「その粉はあなたには大丈夫。あの人達を助けてあげて。」

 少女は左手の指先を鷹の頭に軽く乗せると、火の村の村長の方へ向けた。

 鷹は少女の目を見ると、少しうなずき、ゆっくりと舞い上がる。

 そして静かに一周その少女の上空を旋回してから、一度強く羽ばたいて、火の村の長の真上に移動する。そして強くバサバサと大きく羽ばたいた。

 羽から白い粉が細かい雪のように緩やかに周囲に舞い散る。

「ん?」

 何事かとじっと上空をぎょろっとした目を大きく開いて見つめる。

「ぐぅあ・・目が~!!!!」

 いきなり火の村の村長は目を押さえ全身を震わせて倒れ込み、その場にうずくまった。

 そして鼻や口から吸ったその粉でむせて、何度も大きな咳をして苦しむ。

 そこにいた皆に粉が降り注いだが、一番影響が大きかったのは最も近くにいた村長で、水の村の民は、地に頭をつけていたため、その粉の影響が少なく、急に何が起きたのかがわからない状況であった。

 他の火の村の若者も、その村長の苦しむ様子から毒を疑って、直ぐにその場から退避する。


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