45 / 104
第一章 セイシュの民が翔ける黎明の空
45 夢の声
しおりを挟む「立派な木だねぇ すごいおおきいねぇ」
「本当にすごいな。頂上が見えない!」
その大木に感動しながらも、少し落ち着くと、次第に腹が減る。山の中で採った木の実で食事をすませ、空腹を満たした。
サチがごろりと地面に寝転んで腕を組みながら、ずっとその大木と空をながめている。
近くに水源は見えない。このような大きな木だとよっぽど立派な根っこがあるのだろうか。
「あ、疲れた」
シフィルが首を左右にコキコキと曲げると、その大木の幹に少し遠慮するように丁寧に背を付けて寄りかかる。
からだの疲れがきつい。満腹というにはほど遠い満足な食事ではなかったが、少し眠くなってきている。
眠い眼を擦りながら、うとうとして目を少し瞑り、軽く開いてぼーっと周囲をシフィルが見回していると、ふと動く何かが見えたような気がした。
眼を細めしっかり見ようとするが、何もない。
「サチ!いま何かいなかったか? そのへんだけど?」
シフィルが地面から隆起した根っこを指さしたが、そこのあたりにはなにもなかった。
サチがその根に触れながら周囲を見回すが、何もない。
「もんちきじゃないの?」
サチが適当なことを言う。そのサチにも睡魔が襲ってきているようである。
夜通し歩き続けたのである。歩き慣れた山とはいえ、今回のように短時間で山を越えたことはないそうだ。
足をポンポンと叩いて疲れを緩和させている。
空腹を満たしたサチが木の周囲の草木の生えた部分に横になり、気持ちよくウトウトしたその時。
「シフィル何かいる! みどりのやつ!」
サチが飛び跳ねて立ち上がると、シフィルが先程指したのと近い位置へと移動する。
半分眠りに入っていたため、しっかりとは覚えていないが、緑色のなんかの生物みたいだったと説明する。
自らに対しても半信半疑。夢かも、とうなずく。
シフィルもその周りで何かを探すが、それらしいものはなにも無かった。虫一匹見つけることができない。
シフィルとサチは高く昇ってきた太陽を避けるように木陰の草木の上で休むことにした。
疲れからか、すぐに深い眠りに吸い込まれていく。
未だにもんちきは降りてこない。おそらくもうとっくに木の上で夢の中だろう。
『よくきたせいしゅのちからをひくものよ』
そこは、緑の大地と雲の無い晴れ渡った青空に覆われた幻想的な世界。
もやもやの白色の濃霧の中に天空まで届くと思われるほどの巨木の一部分だけが確認できる。
木の幹でさえも全体像がわからないぐらいの太さ。
それ以外はあたりを見回しても地平線が広がるだけで、他には何もない。
現実世界ではありえない、夢の中であるとすぐにわかる。
まだ眠たい表情で周囲を見回すと、シフィルの横でサチが同じように不思議な現象を眺めている。
そしてシフィルの肩にはもんちきがどこからか降ってきて着地した。
「あれ?ん?シフィル、今何か言った?」
サチが目をこすりながらシフィルを重い瞼で見つめると、シフィルは首を横に振った。
もんちきも首を横に振った。
「でも、おれも聞こえたぞ。」
もんちきにシフィルもうなずく。
それから少しの間、立ち上がってキョロキョロとその声の主を探すが、なにも見つからない。
「ここどこだろう?」
眠る前とは全く違う風景。
夢の中といっても納得できる。
だが、それにしては意識もはっきりしているし、夢の中で夢の中にいると実感できるものだろうか。
なんとなく、自らの頬をつねってみるが、確かに痛い。
なにやってるんだと、なんか恥ずかしくなる。
あらためて周囲を見回しても、この世界はこの巨木のためだけの世界なのだろう。
その他にはやっぱりなにも無い。
眠る前の現実世界の赤土の大地にも立派な空へと届く大木が存在したが、それが小枝に感じるほど、この巨木は全体がわからないほど大きい。
『すこしはなしをしようか』
やっぱり抑揚のない声が聞こえる。聞こえるというか、頭に響く。耳から聞こえているわけではなさそうだ。脳が直接に音を感じているような不思議な感じだ。
その場の全員が耳を抑えて、その不思議な声が聞こえる原理を探ろうとするが、まったくわからない。
やっぱり夢だと思った。
「この声。知ってる。そうか、やっぱりこれは夢だ。」
シフィルがなんかすっきりした表情を浮かべて笑うと、もんちきの頭を撫でた。
この声は最近よく聞く声。
シフィルが寝ると決まって夢の中で聞こえる声。
それにサチが首を傾げる。
「これは夢って、私にも聞こえてるんだけど。知り合い?この声は誰の声?」
「それはわからない。なんか、いつも夢の中で聞こえる声と一緒なんだ。」
もんちきがシフィルの肩から飛び跳ねて、その巨木に移り、耳を立てた。
「この木がしゃべってるんだろうな、たぶん。他に何もいないからな。」
「そんな木がしゃべるなんて・・・でも、夢ならありか。そもそも、夢じゃなくても猿が話すんだからね、木が話す
のもありかもね。」
サチは笑いながら、意志の疎通ができる白猿のもんちきをみて、あり得ない話ではないことを感じた。
33
あなたにおすすめの小説
炎光に誘われし少年と竜の蒼天の約束 ヴェアリアスストーリー番外編
きみゆぅ
ファンタジー
かつて世界を滅ぼしかけたセイシュとイシュの争い。
その痕跡は今もなお、荒野の奥深くに眠り続けていた。
少年が掘り起こした“結晶”――それは国を揺るがすほどの力を秘めた禁断の秘宝「火の原石」。
平穏だった村に突如訪れる陰謀と争奪戦。
白竜と少年は未来を掴むのか、それとも再び戦乱の炎を呼び覚ますのか?
本作は、本編と並行して紡がれるもう一つの物語を描く番外編。
それぞれに選ばれし者たちの運命は別々の道を進みながらも、やがて大いなる流れの中で交わり、
世界を再び揺るがす壮大な物語へと収束していく。
転生先はご近所さん?
フロイライン
ファンタジー
大学受験に失敗し、カノジョにフラれた俺は、ある事故に巻き込まれて死んでしまうが…
そんな俺に同情した神様が俺を転生させ、やり直すチャンスをくれた。
でも、並行世界で人々を救うつもりだった俺が転生した先は、近所に住む新婚の伊藤さんだった。
『25歳独身、マイホームのクローゼットが異世界に繋がってた件』 ──†黒翼の夜叉†、異世界で伝説(レジェンド)になる!
風来坊
ファンタジー
25歳で夢のマイホームを手に入れた男・九条カケル。
185cmのモデル体型に彫刻のような顔立ち。街で振り返られるほどの美貌の持ち主――だがその正体は、重度のゲーム&コスプレオタク!
ある日、自宅のクローゼットを開けた瞬間、突如現れた異世界へのゲートに吸い込まれてしまう。
そこで彼は、伝説の職業《深淵の支配者(アビスロード)》として召喚され、
チートスキル「†黒翼召喚†」や「アビスコード」、
さらにはなぜか「女子からの好感度+999」まで付与されて――
「厨二病、発症したまま異世界転生とかマジで罰ゲームかよ!!」
オタク知識と美貌を武器に、異世界と現代を股にかけ、ハーレムと戦乱に巻き込まれながら、
†黒翼の夜叉†は“本物の伝説”になっていく!
世紀末ゾンビ世界でスローライフ【解説付】
しおじろう
SF
時は世紀末、地球は宇宙人襲来を受け
壊滅状態となった。
地球外からもたされたのは破壊のみならず、
ゾンビウイルスが蔓延した。
1人のおとぼけハク青年は、それでも
のんびり性格は変わらない、疲れようが
疲れまいがのほほん生活
いつか貴方の生きるバイブルになるかも
知れない貴重なサバイバル術!
最初から最強ぼっちの俺は英雄になります
総長ヒューガ
ファンタジー
いつも通りに一人ぼっちでゲームをしていた、そして疲れて寝ていたら、人々の驚きの声が聞こえた、目を開けてみるとそこにはゲームの世界だった、これから待ち受ける敵にも勝たないといけない、予想外の敵にも勝たないといけないぼっちはゲーム内の英雄になれるのか!
『異世界ガチャでユニークスキル全部乗せ!? ポンコツ神と俺の無自覚最強スローライフ』
チャチャ
ファンタジー
> 仕事帰りにファンタジー小説を買った帰り道、不運にも事故死した38歳の男。
気がつくと、目の前には“ポンコツ”と噂される神様がいた——。
「君、うっかり死んじゃったから、異世界に転生させてあげるよ♪」
「スキル? ステータス? もちろんガチャで決めるから!」
最初はブチギレ寸前だったが、引いたスキルはなんと全部ユニーク!
本人は気づいていないが、【超幸運】の持ち主だった!
「冒険? 魔王? いや、俺は村でのんびり暮らしたいんだけど……」
そんな願いとは裏腹に、次々とトラブルに巻き込まれ、無自覚に“最強伝説”を打ち立てていく!
神様のミスで始まった異世界生活。目指すはスローライフ、されど周囲は大騒ぎ!
◆ガチャ転生×最強×スローライフ!
無自覚チートな元おっさんが、今日も異世界でのんびり無双中!
鬼死回生~酒呑童子の異世界転生冒険記~
今田勝手
ファンタジー
平安時代の日本で魑魅魍魎を束ねた最強の鬼「酒呑童子」。
大江山で討伐されたその鬼は、死の間際「人に生まれ変わりたい」と願った。
目が覚めた彼が見たのは、平安京とは全く異なる世界で……。
これは、鬼が人間を目指す更生の物語である、のかもしれない。
※本作品は「小説家になろう」「カクヨム」「ネオページ」でも同時連載中です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる