三つの民と神のちからを継ぐ者たちの物語 ヴェアリアスストーリー

きみゆぅ

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第一章 セイシュの民が翔ける黎明の空

45 夢の声

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「立派な木だねぇ すごいおおきいねぇ」

「本当にすごいな。頂上が見えない!」

 その大木に感動しながらも、少し落ち着くと、次第に腹が減る。山の中で採った木の実で食事をすませ、空腹を満たした。

 サチがごろりと地面に寝転んで腕を組みながら、ずっとその大木と空をながめている。

 近くに水源は見えない。このような大きな木だとよっぽど立派な根っこがあるのだろうか。

「あ、疲れた」

 シフィルが首を左右にコキコキと曲げると、その大木の幹に少し遠慮するように丁寧に背を付けて寄りかかる。

 からだの疲れがきつい。満腹というにはほど遠い満足な食事ではなかったが、少し眠くなってきている。 

 眠い眼を擦りながら、うとうとして目を少し瞑り、軽く開いてぼーっと周囲をシフィルが見回していると、ふと動く何かが見えたような気がした。

 眼を細めしっかり見ようとするが、何もない。

「サチ!いま何かいなかったか? そのへんだけど?」

 シフィルが地面から隆起した根っこを指さしたが、そこのあたりにはなにもなかった。

 サチがその根に触れながら周囲を見回すが、何もない。

「もんちきじゃないの?」

 サチが適当なことを言う。そのサチにも睡魔が襲ってきているようである。

 夜通し歩き続けたのである。歩き慣れた山とはいえ、今回のように短時間で山を越えたことはないそうだ。
 足をポンポンと叩いて疲れを緩和させている。

 空腹を満たしたサチが木の周囲の草木の生えた部分に横になり、気持ちよくウトウトしたその時。

「シフィル何かいる! みどりのやつ!」

 サチが飛び跳ねて立ち上がると、シフィルが先程指したのと近い位置へと移動する。

 半分眠りに入っていたため、しっかりとは覚えていないが、緑色のなんかの生物みたいだったと説明する。

 自らに対しても半信半疑。夢かも、とうなずく。
 
 シフィルもその周りで何かを探すが、それらしいものはなにも無かった。虫一匹見つけることができない。

 シフィルとサチは高く昇ってきた太陽を避けるように木陰の草木の上で休むことにした。

 疲れからか、すぐに深い眠りに吸い込まれていく。

 未だにもんちきは降りてこない。おそらくもうとっくに木の上で夢の中だろう。


『よくきたせいしゅのちからをひくものよ』

 そこは、緑の大地と雲の無い晴れ渡った青空に覆われた幻想的な世界。

 もやもやの白色の濃霧の中に天空まで届くと思われるほどの巨木の一部分だけが確認できる。

 木の幹でさえも全体像がわからないぐらいの太さ。

 それ以外はあたりを見回しても地平線が広がるだけで、他には何もない。

 現実世界ではありえない、夢の中であるとすぐにわかる。

 まだ眠たい表情で周囲を見回すと、シフィルの横でサチが同じように不思議な現象を眺めている。

 そしてシフィルの肩にはもんちきがどこからか降ってきて着地した。

「あれ?ん?シフィル、今何か言った?」

 サチが目をこすりながらシフィルを重い瞼で見つめると、シフィルは首を横に振った。

 もんちきも首を横に振った。

「でも、おれも聞こえたぞ。」

 もんちきにシフィルもうなずく。

 それから少しの間、立ち上がってキョロキョロとその声の主を探すが、なにも見つからない。

「ここどこだろう?」

 眠る前とは全く違う風景。

 夢の中といっても納得できる。

 だが、それにしては意識もはっきりしているし、夢の中で夢の中にいると実感できるものだろうか。

 なんとなく、自らの頬をつねってみるが、確かに痛い。  

 なにやってるんだと、なんか恥ずかしくなる。 

 あらためて周囲を見回しても、この世界はこの巨木のためだけの世界なのだろう。
その他にはやっぱりなにも無い。

 眠る前の現実世界の赤土の大地にも立派な空へと届く大木が存在したが、それが小枝に感じるほど、この巨木は全体がわからないほど大きい。

『すこしはなしをしようか』

 やっぱり抑揚のない声が聞こえる。聞こえるというか、頭に響く。耳から聞こえているわけではなさそうだ。脳が直接に音を感じているような不思議な感じだ。

 その場の全員が耳を抑えて、その不思議な声が聞こえる原理を探ろうとするが、まったくわからない。

 やっぱり夢だと思った。

「この声。知ってる。そうか、やっぱりこれは夢だ。」

 シフィルがなんかすっきりした表情を浮かべて笑うと、もんちきの頭を撫でた。

 この声は最近よく聞く声。

 シフィルが寝ると決まって夢の中で聞こえる声。

 それにサチが首を傾げる。

「これは夢って、私にも聞こえてるんだけど。知り合い?この声は誰の声?」

「それはわからない。なんか、いつも夢の中で聞こえる声と一緒なんだ。」

 もんちきがシフィルの肩から飛び跳ねて、その巨木に移り、耳を立てた。

「この木がしゃべってるんだろうな、たぶん。他に何もいないからな。」

「そんな木がしゃべるなんて・・・でも、夢ならありか。そもそも、夢じゃなくても猿が話すんだからね、木が話す
のもありかもね。」

 サチは笑いながら、意志の疎通ができる白猿のもんちきをみて、あり得ない話ではないことを感じた。
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