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第一章 セイシュの民が翔ける黎明の空
49 ようこそレグランドフィアへ
しおりを挟む草原地帯はガスの霧が無くなり、深呼吸すると、すがすがしい。緑の香りにからだを震わす。
今まで、あまり肺に吸い込まないように小刻みにしか呼吸していなかったが、深く深く気持ちよく呼吸を繰り返す。
太陽が眩しく輝き、鳥たちや動物が姿を現すようになった。
もんちきも元気を取り戻し、草原で器用にくるくると回転しながら進んでいる。
「ようやくぬけたみたいね」
少し足を止めたサチがつぶやいた。後ろを振り向くと、ガスの霧に覆われた赤土地帯が見える。
ここからだとあの大木はぼやけて完全に隠れて見えないし、不気味なモヤモヤのガスが湧き出るその赤土の大地に近寄る気も起きない。
「もしかしてあのガスは、世界樹ネットワークのあの木を隠しているのかな・・・」
シフィルが独り言のようにつぶやくともんちきは首を傾げた。
どうも違うらしい。
そんなことを気にせず、サチはスタスタと歩いていく。
慌ててシフィルともんちきも追いかける。さっきまでの赤土に比べたら、草の上は歩きやすい。ふかふかして快適なぐらいだ。
川も近くに流れており、水分補給にも困らない。
サチが弓で魚を捕り、シフィルが鹿を狩り、食料とした。
火を焚き、炙って食べる。食べられる野草を見つけ、自給自足にも慣れてきた。
疲れない歩き方も判ってきたし、周囲の警戒の仕方も判ってきた。
立派な旅人になってきたと思いながら進んでいくと、赤土を抜けてから約8日目にして、ようやくレグランドフィアの城へ着いた。
「おっきいね~」
人通りの激しい道の上でサチが立ち止まって声を上げると、すぐさま後ろから人がぶつかって通行の邪魔だと怒っている。
それに軽く頭を下げて、そのまま人の流れに逆らわずに歩いて進み、城の入り口に設置された案内板で再び足を止めた。
目立つようにきれいな文字で『ようこそレグランドフィアへ』というあいさつ文と、簡単な周辺地図とレグランドフィア城の案内図が詳細に記載されている。
それによると、レグランドフィア城が中心にドーンと存在し、それを囲むように東西南北に城下町が離れて存在しているようだ。
人口は約3000人らしいが、その分布など詳細は記載されていないし、全体数なのか、レグランドフィア城だけなのかもわからない。
案内板の隣の看板にレグランドフィアの成り立ちという説明文があり、細かい文字がびっしりと記載され大変読みにくい。
正直読む気にもならない。
その内容は、かみ砕いて理解すると以下のような内容であった。
レグランドフィアは、小さな集落同士が物々交換をするために作られた共同の簡易交換所が成り立ちである。
やがて、その交換所の付近に住居を構える者が多くなり、村になり、さらに大きくなっていった。
だが、大きくなればなるほど、襲撃の的となる。
勢力の大小問わずに絶えず襲われては交換所の商品を奪われて廃業し、落ち着いたころに再開するということをしばらく繰り返す。
当然、襲われるたびに防柵を設置し、護衛を配置し、罠を備え、襲撃に対する対応は継続していたが、実際のところは襲撃を早く察知するために、各所に櫓を設置して見張りを配置し、発煙により危険を察知して、いざというときは品物を抱えて逃げるというのが主な対応であった。
理由はわからないが、繰り返し、繰り返し襲われても、それでもこの場所から交換所を移動させることは一切なかったという。
それからさらに時間が流れた。
ついに、やがてその襲撃を跳ね返す勢力が現れる。
それが大地の一族であった。
大地の一族はその不思議なちからでその襲撃を撃退すると、そこに住む者や交流に訪れていた者と協力して、周囲に頑丈な壁を建設した。
それがそのまま現在のレグランドフィア城の城壁へと活用されている。
また、独自に軍を構えて防衛をするとともに、交換所で得た金銭の一部を税金として回収し、それらを壁の建設費用や軍費に費やした。
それにより、交換所で商いをする者だけでなく、護衛として雇われる者も集まり、壁の建設にかかわる技術者が集まり、壁の材料を販売する者が現れ、それらの者に飲食物を提供する者が現れ、飲食物の新しい原料を持ち込む者が現れ、大地の民と交流のあった他のセイシュの民も現れた。
セイシュの民、ヒュム問わず、多種多様の者たちが集まり、色々な技術が混ざり合い、独特な文化が生まれた。
やがて、大地の一族を主君とした統治が生まれ、それが国となった。
地域の貿易拠点として、経済の中心地となり、さらに大きく発展していき、現在に至る。
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