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第一章 セイシュの民が翔ける黎明の空
50 レグランドフィアの仕組み
しおりを挟む四方を平原に囲まれているため、荷物を多く積んだ馬車の交通の便が良いことも商人の行き来が盛んな理由であり、ここまで大都市になった一因らしい。
現在では、舗装された道でレグランドフィア城と四方の城下町は繋がれており、それ以外にも複数の幹線道路が発達している。
ただし、移動に便利と言うことは逆に攻められた際に守るのが困難で、戦争には適していないのは昔と変わらない。
この城が今なお征服されずにいられるのは、厚い城壁だけでなく、住民の戦争への厚い理解があったためだそうだ。
というのも現在、レグランドフィアへ出店するためには、重い税金が課され、その税金の額は、この辺りでは最も重いらしいが『金で安全が買えるなら』という考えがレグランドフィアの商人団にはあり、文句を言う人は少ない。
また、四方に分散した城下町にも訓練の積まれた護衛団が配置されており、仮にレグランドフィア城が攻められた場合には、その背後を突くように城下町から最短距離で移動する訓練を繰り返している。
その訓練は定期的に実施され、基本はレグランドフィアの関係者もここへ訪れた旅人も全員参加が基本の大掛かりなものである。
厚い城壁には焼けこげた跡があったり、弓が刺さっていたりと戦争の数多の傷跡が残っており、戦争の生々しさを残しているのは、未だに争いが続いていることを示しているのだろう。
シフィルは第一印象では、この城が本当に戦争に耐えられるのか、信じられなかった。
たしかに城壁は厚くて高いが、人の出入りが激しく内通者がいくらでも侵入できる城では、とても争いをするには向いていないと感じた。
だが、レグランドフィア城内に入ってみるとすぐにその考えが覆される。
レグランドフィア城の護衛である兵士が複数人で巡回警備をしており、それだけでなく独自に兵士を雇っている店も所々にある。
さらに、レグランドフィア城内では民間人が緊急時に戦闘に参加することになっており、その役割分担表が至るところに設置され、その訓練も定期的に行われている日程が示されている。
城内には見たことのないピカピカに整備された大砲や大型の銃が木や土の下など、比較的わかりやすい位置に保管され、直ぐにでも戦闘に入れる態勢になっていた。
隠されている武器に落書きがされていたり、飾り付けされていたりと、既に生活の一部になっているようだ。
おそらく、長年実践では使われていないのであろう。慣れとは恐ろしい物だと感じた。
「ホントすごいな。これ。見たことないものばかりだ。」
シフィルが笑いながら周囲をキョロキョロキョロと大きく見渡す。
5階建ての金属で出来た建物があり、土で出来た平坦の建物もあり、その中間の高さの趣のある彫刻のされた木造の建築物もある。
色々な文化が混ざり合っているのであろう、その建物の建築様式も多種多様で、統一感が無いといえばそれまでだが、飽きることなく面白い。
商店街で販売されるものも見たことが無いものが多く、すべてが興味深かった。
まさに、火の村を出立して、初めてのどきどきする衝撃、これが冒険の醍醐味だと感じた。
「実は来たことあるんだ。小さいときに連れられてきたから、あまり覚えてないけどね。」
シフィルの新鮮な反応とは違い、落ち着いているが目を輝かせているサチ。
そんな話をしながらブラブラ歩いていると、ふとシフィルとサチが目を合わせてから立ち止まり、周囲を警戒する。
「この感じ・・・?」
原石を使用するときの独特な雰囲気を感じることがこの城に入ってから何度かあり、油断せず、警戒しながら城を歩いていると、ようやく、その謎が解ける。
修理中の建物を泥でペタペタと形を整え、丁寧に刷毛で仕上げを終えた職人が手を挙げて合図をすると、そこに走り寄ってきた、先程の職人と同じ衣服の男が金色の石を近づけて少し力を込める。
その金色の石がわずかにピカリと光を発し、それに照らされた土が白色の光沢の金属に変わる。
何か金属を操る特別な石であろうか。
今度は、その白色の光沢の金属を、別な職人が何かの白色の液体を布に付着させ磨いてピカピカにしている。
別のところでは、土を固めたブロックを何か特殊な石でカチカチにして、建物の一部分として使用している。
いろいろとセイシュの民のちからを活用しているようだ。
いずれも、強いちからは感じない。原石ではなく、原石からちからを移した石のようである。
その特殊な石で固めた建材を運ぶのはヒュムであろうか。太い腕とたくましい体格で台車をうまく使い器用に一度に山ほど運んでいる。
その技術にはシフィルとサチが思わず拍手をついしてしまったほどの熟練された技術である。これだけ見てもこの城は面白い。
セイシュの民とヒュムがうまく融合しているようだ。このようなところがあるのだと初めて知った。
服装や持ち物、立ち居振る舞いなどから、いろいろな民族が融合し、新しい文化を創り出しているのがわかった。
いままでこんな事を考えたことがなかった。世の中広い。
火の村や水の村と違い、とても技術力が高く少し怖く感じた。
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