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第一章 セイシュの民が翔ける黎明の空
51 面倒なことに巻き込まれた
しおりを挟む感動もつかの間、長く歩いた疲れで足がジンジンと痛くなる。
とりあえず、休みたい。
野宿する気にもなれないため、泊まるところを探すと同時に、水の村で旅の足しにと受け取ったものを換金する場所を探した。
さすが、簡易交換所が成り立ちの場所である。
あらゆるものを換金したり、物々交換ができるところが所々で営まれており、各々換金率が異なる。
宝石を高価で買い取るところ、木の実や魚を高価で買い取るところ、武具防具馬具を高価で買い取るところ、変わり種では人手を1日単位で買い取るところもある。
まず、設置されているレグランドフィア城内の地図を頼りに宿泊代の相場を探る。
「お店たくさんあるねぇ。」
サチがキョロキョロ歩きながら進むと、甘くおいしそうな香りのするところで足を止める。
「こんな広いところ初めてだ。いや、本当にすごいな。店もだけど人がたくさんで酔いそうだ。」
シフィルがサチの後ろで少し隠れるように、同じようにキョロキョロして歩く。
「こんなにお店がたくさんあると、困っちゃうね。」
「だな。どこに行っていいか、わからないよな。」
そんなことを話しながら、行き当たりばったりで、たまに同じ通りを3回行き来したりしていると、背後に嫌な気配を感じる。
「ダゥァァーン!!!!!」
その気配を察して振り向いたのと、不意に後ろから爆音が発せられたのがほとんど同じタイミングだった。
そして火薬の焦げた臭いがその周囲に充満する。
「え?」
「あ?」
シフィルとサチが瞬時に身を隠すように姿勢を低く保ち近くの建物に逃げ込むと、シフィルが剣の柄に手をかける。
ついたった今までに前方にあった、シフィル達が目指していた宿屋の屋根が吹き飛び、壁は剥がれ、屋内の家具が飛び散っている。
建屋そのものの形状はかろうじて残してはいるが、ほぼ全壊であった。
「何だ?敵の襲撃か?」
「あれが原因だね。」
慌てるシフィルとは対照的に冷めた表情でサチが指さした方向には、子供と大人の追いかけっこがあった。
偶然サチはすべてを見ていた。
子供が大砲で遊んでいたところ、誤って?大砲を撃ってしまい、それを偶然見ていた壊れた宿屋の主人がその子供を追いかけているらしい。
主人は食事中だったらしく、茶碗とハシを手に持って追いかけている姿はその被害には同情するが愉快だ。
周囲の人々も笑っている。
「面倒なことに巻き込まれるのは嫌だから先を急ごう。」
「そうだね。」
身をかがめて、それらを面白く見つめる群衆からこっそりと離れていくと、サチがシフィルの服の袖を少し強めにつかむ。
「シフィル来た!」
サチがとっさに叫んでシフィルの後ろに隠れる。
「何だ?」
シフィルがサチの指し示す方向に視線を向けると、大砲を撃ったと思われる子供がシフィルに駆け寄り、サチに並ぶようにシフィルの後ろに隠れた。
直感的に面倒なことに巻き込まれたくないと心配した先程の自分の姿を思い出す。
本当に嫌な予感がしたシフィルは、なんとかその子供を離そうとちからを込めたが、ぎゅっとしがみつく子供は離れない。
「おにいちゃん助けてくれよ~!おいらちょっと遊んだだけなのに『おかずにしてやる~』って、ハシ持って追いか
けてくるんだよ!変態だよ!」
シフィルは足元で助けを求めるその子供を全身の力を込めて強引に引き剥がすと、追いかけてきた宿屋の主人に手渡した。
観念したか、子供がその場に座り込み、大きな声で泣き出した。
いつのまにか、周囲にはさらに人が増え、シフィル達を中心とした円ができていた。
「ごめんよ~!おいら嫌だっていったのに、このお兄ちゃんが大砲撃ってこないとあの剣で斬り殺すぞって脅したんだ。だからしかたなく・・・ごめんなさ~い。」
子供の指はシフィルの剣を指していた。
「あ、面倒なことに巻き込まれた。」
思わずシフィルが気持ちを口に出すと、頭をガクンと下げて下を向く。
逃げようと試みるが、逃げようにも逃げられない。この子供の激しい泣き方にさらに人が集まる。
「おいおい兄ちゃんよ、こんな小さなチビを使ってそんなことしなくても。うちの宿は先日完成したばかりだぞ!どうしてくれるんだ!」
すごい剣幕で言葉が出ない。唖然として言葉に詰まっていた。
サチが『小さな』と『チビ』が両方とも同じ意味だと突っ込みを入れようとしたとき、少年の母親が駆け寄った。
高価そうなモフモフの毛皮のコートを身に纏い、指には10個の大きな指輪をしている。
顔は厚い化粧で原型がわからず、口紅で口の大きさが2倍程度になっているように思えた。
緊急事態にもかかわらず、シフィルはついつい笑いをこらえた。少し吹き出す。
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