三つの民と神のちからを継ぐ者たちの物語 ヴェアリアスストーリー

きみゆぅ

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第一章 セイシュの民が翔ける黎明の空

52 侵入者

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「プラグちゃん!どうしたの?」

 厚化粧で重そうな顔が動いた。化粧が厚すぎて顔の表情が判らない。

 サチは既に笑いがこらえきれず、大声で笑っている。子供の名前はプラグというようだ。

 シフィルが笑いをこらえながら、事情を説明すると、目を大きくして驚き、プラグをジッと見つめた。 

「うちのプラグちゃんがそんなことをするなんて信じられませんわ。本当はあなたがかわいい私のプラグちゃんを脅したのでしょ?最近ちょくちょく姿をみないとおもったら貴方みたいな不良と遊んでいたのね?そうとわかったら役所へつきだしてあげるわ。覚悟しなさい!」

 何かを自分の中で納得したプラグの母は、強引にシフィルの腕をとると、ぐいぐいと引っぱって役所へ連れて行った。

 ここは、悪い人たちを正す場所のようで、お前たちにはお似合いだと笑いながらプラグの母は説明した。

 シフィルもそこで事実を説明すれば良いかと思い、素直に着いていく。興味本位で着いてきた者が数人いる。

 その人たちに証言してもらえば、解決するだろう。

 足取り重く嫌々歩いていくと、黒い金属を壁とした、頑丈そうな建物についた。

 立派な『レグランドフィア役所』という看板が設置されており、そこでは、役所で働く者達があわただしく動いていた。

 だが、それは異様な雰囲気だと気づくのはそれからすぐである。

 軍隊のように重装備をした一隊が、大きな掛け声を発すると、真剣な顔で城へ駆けだしていった。

 それを避けたプラグの母が残っていた役所の担当者に近寄る。

「お役所さん!この人たちが私のかわいいプラギュ・・・・」

 プラムの母を遮るように役所から一人シフィルに駆け寄り、腰に構えた刀を指さした。

「失礼ですが、旅の方ですか?剣を身に着けて・・・戦えますか!?」

 真剣な顔での問いかけであったため、素直にシフィルはうなずいた。

「城が魔物に襲われています。もしよろしければ協力してもらえませんか?」

 城に駐在している兵士だけでなく、明かに商人の姿で戦いが似合わない者、シフィルと同じ旅人と思われる者も城に向かって駆け出している。

 何か、非常事態が発生しているのはすぐに理解できた。

「え?あ、わかりました。じゃあ。あ、行きます!」

 明かに年上の役所の担当者が深く頭を下げて頼み込むのに断り切れなかったシフィルは、サチを見ると軽くうなずき、すぐさま告げられた城の方向へと走り出した。

 当然、この面倒くさいプラグの母から逃げるという意味合いも含んでいる。

 含んでいるというか、それが目的だった。

 もんちきはおとなしくシフィルの肩につかまり、周りをキョロキョロと探っている。

 プラグの母はシフィルを追いかけて走り出したが、直ぐにぜいぜいと息が苦しくなり、その場にうずくまる。

 プラグも興味からシフィル達を追いかけて城へ走り出した。


 レグランドフィア城は、その中央部に王族の住居があり、商人を含む一般人は立ち入り禁止のエリアである。

 そこは城門以上に強固な壁で仕切られており、レグランドフィア王国の中で最も警備が頑丈だそうだ。

 しかし、その王族の住居へと続く城門は強い力で強引にこじ開けられたように、破損して変形し、プラプラと外れて開いていた。

 その王族の住居内でところどころ黒い煙があがっているのが見える。

 何者かがすでに侵入しているのであろう。

 王族の住居外では、設置された大砲などの火器の準備をしているが、その住居内で逃げ遅れている王族への影響を懸念しているようで、ただ状況を見守り、突入のタイミングを図っていた。

「シフィル!すばやい黒いのがいるぞ」

 他の兵士に促されるように、こじ開けられた城門を通り抜け、城内の丁寧に手入れされた草花が咲く中庭に足を踏み込むと、もんちきが指で示す場所に、シフィルの身長と同程度の巨大な黒色のオオカミが暴れていた。

 正直なところ、どこかで逃げ出そうといていたが、そのタイミングを逸してしまっていた。

 特徴的なのはツメが鋭く太く異常に発達しており、庭に植えられた木々をその爪で切り裂きなぎ倒している。

 その切れ味も驚くべきものではあるが、それよりも恐ろしいのはバカ力だろう。

 重い鎧と盾を装備している兵士が、オオカミの突進を受けて、笑ってしまう程に宙を舞って飛んでいったのは恐怖である。

 辺りを見回すと同程度の大きさのオオカミが合計10匹程度だろうか、突入した護衛兵たちと既に戦闘を始めていた。

 そして、それらの中心にいるのが、見た目はシフィルと同程度の年齢に見える無表情の男が、聞いたことのない言葉、言葉というよりも口から発する音でそれらを操っているようであった。

 当然護衛兵達はその男を狙って責め立てるが、その度に巨大なオオカミがそれを妨げる。

「距離を取って弓矢で攻撃だ!」

「いや、あの中央の男を全員で攻めよう!」

「いったん撤退したほうがいいのでは?」

 わかりやすい混乱の状況。それでも個々がバラバラに頑張っている。

 それもそうだろう。よく見ると当番制で戦闘に駆り出されている者や、武器の使い方の分からない商人も混ざっている。

「こりゃ、難しいね。」

 そのオオカミから離れるように距離を取って全体を眺めているシフィルの横で、サチがぽつりとつぶやく。

「まあ、あの巨大なオオカミには、俺らも勝てないと思うけど。」

 シフィルがうなずいた。
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