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第一章 セイシュの民が翔ける黎明の空
53 火を纏う何か
しおりを挟む急に歓声が上がる。
統制の取れた動き、優れた体格、いかにも熟練者であることがわかる兵士たちが隊列を成して到着した。それも複数。
それを合図に、今まで戦闘していた兵士たちが安堵の表情を浮かべて、一目散に撤退して場を譲る。
走り去る素早さは今までの比ではない。が、どこか達成感を醸し出している。
それは防衛の本体であるレグランドフィアの正規兵を待つまでの繋ぎを立派に務めた満足感。
「盾を構え!各個作戦通り突撃!」
レグランドフィア守備隊と書かれた厚い光沢のある金属板で作られた鎧を身に纏い、同じ金属できた重厚な盾を身に構えた兵士たちが進み出ると、5人が一塊となり、巨大化したオオカミと対峙した。
また、同様に中央の無表情の男を10人の兵士達が剣を構えて一気に突入して攻撃した。
その兵士達の動作は素早く、作戦は練られているのだろうが、どことなくぎこちなさを感じさせる。
実戦に慣れていないのはすぐにわかった。
それでも先程まで戦っていた商人達と比べれば戦闘技術は雲泥の差で、戦略的な動きとその力強さで一気に巨大なオオカミを攻めたてていく。
巨大なオオカミが鋭いツメで襲い掛かると、それを前方3人が盾を隙間なく並べて地面に立て掛けるように固定して防ぎ、隙を見て残りの二人が持っている剣で応戦した。
金属で出来た盾はオオカミの爪を防いではいるが、巨大オオカミは体長の割に素早い動きで飛び跳ねて走り回って狙いを定めることができない。
剣を振り回しても空を切るだけである。
その巨大なオオカミの跳躍は兵士の身長の3倍以上であり、とても剣では届かない。
設置された大砲などの火器を放つ兵士もいるが、火薬の弾ける音で警戒されて回避され、一向に命中させられる気配はない。
それよりも、その目標を外した大砲の玉が住居を破壊する影響の方が大きく、使用を早々にあきらめる。
そんな状況で膠着し、少し時間が過ぎる。
ガラガラと大きな音を立てて一台の馬車が到着すると、荷台から商人が数人飛び降りて魚捕り用の頑丈な網を近くの兵士に投げ渡す。
同時に、その馬車を複数人の兵士が直ぐに護衛につき、襲い掛かる巨大なオオカミの突撃を遮る。
別の兵士がその魚捕り用の頑丈な網の両端を二人でピンと張って駆け回り、巨大なオオカミに巻き付かせて囲い、動けなくしてから、捕縛していく。
網で包まれたとしても激しく動こうとする巨大オオカミを盾を使って複数人の力で抑え込み、なんとか、それぞれ退治できていた。
ただし、中央の無表情な男と対峙した一隊は一太刀も与えられず、まともに近寄ることさえできていない。
見かけによらず、その男は猛獣の様に人並外れた素早さと力で兵士をはじき飛ばし、持っていた赤い剣で、金属の鎧を布きれのように切り裂いた。
それも、ほぼ位置を移ることなく、である。
シフィルたちは状況を見守っている。
兵士は策略的に動いているため、余計な手助けは逆効果になる可能性が高いと思ったからである。
と同時に、危なそうだし、近づきたくないという気持ちも大きかった。
「大砲隊構え!」
大きな声が響くと同時に、その男と戦っていた兵士が素早くその周辺から退却する。
『ダァーン!!!!!』
3カ所からだろうか、同時に激しい爆音が響いたと思うと、衝撃がその男を包み込む。
巨大なオオカミとは異なり、ほぼ位置を移動しないその男は、照準を付けるのは容易だった。
その衝撃で辺りを砂煙が舞い、一面を覆い隠す。
「盾を構え!突撃!」
その視界が悪い中に向かい、一隊10人が砂煙に向かって盾を突き立てて突進する。
対象は目視で確認できないが、全方位から円を描くように囲って一定速度で近づき、徐々に徐々にその円を小さくさせていく。
そしてほぼ中央に到達したところで、盾をもっていた逆の手で剣を握ると、一気にその男に向かってに突き刺した。
『しゅうぅぅぅ!』
剣先が対象に触れた瞬間、高温の蒸気が立ち込めて、嫌な高音を放ち剣が溶解する。
その熱はすぐに柄まで伝導し、とっさに兵士達は剣を手放す。
「盾をもっと強く叩きつけるように!全力だ!」
隊長と思われる人物が焦った口調で大きく叫んだ。
が、その男が大きく手を広げて周囲の盾をすべてを跳ね除けると、どこからか火が生まれてその男の周囲を包む。
その火が集まり炎となると、その男を覆い隠し、激しい炎が辺りを包み込む。
「大地の原石を差し出して欲しい。抵抗は無駄だ。」
その男が初めて言葉を口にした。
それは男の声というよりも、炎の中からの不思議な声。頭に響く声。
近くの兵士達が頭を押さえると、恐れる態度でその場から離れる。
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