三つの民と神のちからを継ぐ者たちの物語 ヴェアリアスストーリー

きみゆぅ

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第一章 セイシュの民が翔ける黎明の空

57 レグランドフィアの王

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「貴方は誰?」

 声を発したのは、どこか気品が、高貴さが溢れる女性であった。

 薄手の金色のローブを身に纏っており、髪には金色の髪飾りが装飾されている。

 その女性の隣に黒い短いひげを生やした男性。作業着に近い衣服の上下で、その女性とは対照的に動きやすい格好。

「サチです。こっちがシフィルです。あなたは?」

 とっさにサチが自己紹介を始めた。隠れていた2人が顔を見合わせ、少し笑う。

「私はレグランドフィア王のレグランドフィア34世、これは妻だ。やっぱり敵ではなさそうだ。」

 急にシフィルとサチが直立不動になる。一国の王となど話したことがない。

 そういわれれば、普段着の格好でも王様の威厳があるような気がしてきた。少し疑ってしまっているが。

 もんちきがシフィルの肩の上から、状況を説明した。

 それを驚きもせずに、聞き入っている。

「そうか、我が城の兵士は立派に戦ったのだな。デコラに援軍を頼んだか・・・。」

 王や王妃が隠れていたこの扉は、内側からは開かないらしい。安全確保のため、強引に閉じこめられていたとのこと。

 それをサチが好奇心から開いてしまったのだ。

 その時、再び、先ほどよりは弱いが、破裂音と揺れを感じた。

「城外が気になる!もんちきさん、シフィルさん、サチさん、古文書庫から直接城外に出る通路があります。よかったら、付き添ってもらえませんか?」

「はい!」

 正直、シフィルもサチも嫌だった。巻き込まれるのは嫌だ。絶対に面倒なことになる。

 状況に流され、ついつい『はい』と言っていしまったことを深く後悔する。悔やんでもしょうがないが。

 そもそも、レグランドフィア王という権力者に逆らうという選択肢も無かったが。

 抜け道も床に隠し通路があり、それが、城外へ続いているとのこと。

 レグランドフィア国王が先頭となり、頑丈に石が組み合わさって悠々と立って歩ける大きさの通路を早足でどんどんと先を進んでいく。

 この通路も、さきほどレグランドフィア王が隠れていた場所も、この城が壊れても壊れないという設計らしい。

 サチとシフィルは、ここなら安全と隠れ場所を見つけた気がしてお互いにうなずく。

 それでも、わざわざ逃げるため隠れようとしたこの場所から、あえて戦場である表へと向かっていくのは足が重い。

 しかも国王に何かあれば、その責任を取らされてしまうだろうか。責任が重い。

 そんなことを考えながらも無言のまま、古文書庫から城外へ抜ける抜け道を進んだ。


 もんちきに促されてシフィルとサチが先頭になり、レグランドフィア王と王妃がそれに続く。

 通路は頑丈だが、光が僅かで視界が悪い。壁を触りながら進んでいく。
 昇ったり、降りたり、大きなカーブがあり、狭い通路でしゃがんだりと大変である。
 足下には埃が溜まり、たまに小さな虫が集まって飛んでいたり、しばらく使用していなかったのがわかる。

 そしてしばらく歩いてようやく明かりが見え始めた。

 レグランドフィア王は城外のことが気になって急ぎ足になる。

 その逆でシフィルとサチは足取りがさらに重くなる。

 まだ、戦闘が続いているのではないか、それに巻き込まれたくないと怖く感じた。

 隠し通路の出口は、木々に覆われた庭で、ちょうど木の枝が重なって隠れるため、誰にも見られずに、城外に出ることができた。


 もんちきが先に出口から飛び出して周囲をキョロキョロと見回して、敵の気配がないことを頭の上で手で丸を作り合図を出す。

 シフィルがゆっくりと身を潜めて外に出ると、その位置は、襲撃してきた炎を纏った男とデコラ兵との戦場の上方であり、見下ろすように状況が把握しやすかった。

 木の陰に身を隠しながら眼下の戦闘を覗き込むと、炎を纏った男が中央で、その男と同じように炎を纏った大きなオオカミを手で操るように両手を振って、近寄る兵士達を撃退している。

 炎を纏った大きなオオカミは、与えられた合図でからだを強く震わせて、大きく吠えて威嚇し、勢いよく草原をかけるように縦横無尽に兵士たちに襲い掛かっている。

 ここから視認できる、駆け回っている大きなオオカミは4頭で、その付近に複数匹、地面に横たわっているのをみると、兵士たちもやられてばかりではいなのがわかる、が。

「やけに、黒い鎧の兵士が倒れてるね。さっきはいい感じだったのにね。」

 サチが身を乗り出して眺めると、吹き飛ばされたように一部の黒い鎧の兵士がまとまって地面に倒れているのがわかる。

 黒い鎧を纏ったカルゴのサイン部隊長が盾を構えた兵士たちを指揮して、その倒れた兵士達をかばう様に守りの戦いをしている。

 それと離れた場所で個別に金属光沢のある鎧を纏ったレグランドフィアの兵士たちがその大きなオオカミに対して弓を射り、剣をふるう。

「本当にカルゴの援軍が来てくれたのか!」

 レグランドフィア国王が少し興奮する表情で、その戦闘を眺める。

 カルゴの兵士の半数は倒れ、レグランドフィアの兵士の多くは少し距離を取って、安全な少し離れた位置から弓を射ている。

 隊列の乱れた兵士が必死に弓矢で応戦しているが、全く歯が立たない状況。

 状況は、良くない。勝ち目が無いように見える。


「みんな!がんばれ!レグランドフィアもデコラも連携して欲しい!この侵略者を防ごう!!!!」


 その時、レグランドフィア王が立ち上がり、大声で叫んだ。

 そして高い位置から急勾配を駆け下り、その戦場へと全速力で進み出る。

 一瞬時間が止まったように思えた。
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