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第一章 セイシュの民が翔ける黎明の空
58 マルス
しおりを挟むレグランドフィア兵もデコラ兵も、その炎を纏った男まで一瞬静止してそのレグランドフィア王の走る様子を眺めていた。
レグランドフィア兵もデコラ兵も一斉に歓声があがり、士気があがる。
「レグランドフィア王、ここは危険だ。下がった方がいい。」
デコラのサイン部隊長が当たり前のようにレグランドフィア兵に指示を出して、戦場でその炎を纏った男と対峙しているレグランドフィア王を守るように兵を動かす。
それに素直に従うレグランドフィア兵。
少し離れてシフィルとサチもなんとなく、安全地帯から駆け下りてレグランドフィア王の後ろにつく。
「そなたは誰だ?見覚えはない。我はレグランドフィア王、レグランドフィア34世である。なんの用だ?」
レグランドフィア王が自らの前を空けるように指示を出すと、炎を纏った男の真正面に向い立つ。
慌てて、サイン隊長が、屈んだ状態で盾で守るようにレグランドフィア兵に正面を守るように指示をする。
それにも素直に従い、ちょこちょこと焦る仕草でレグランドフィア兵が王を守る。
「ほう、レグランドフィア王か。大地の原石をもらいにきた。こんな素人のような兵士をいたぶる趣味はない。素直
に渡せばだれも傷つくこともない。」
「まずは名を名乗れ。最低限の礼儀もわきまえていないのか!」
「ふむ。セイシュごときが生意気に。我はマルス。炎を生む者とでもしておこうか。」
「マルス?炎を生む者?」
「別に理解する必要はない。ただ、お前たちは大地の原石を渡せばいい。」
「断る。そもそも私は持っていない。持っていない物は渡せない。」
「持っていないだと?ここにあるはずだが。」
「ないものはないのだ。このまま去れ。」
「そうはいかない。あまり手荒なことはしたくないのだが、素直に応じないのであればしょうがない。」
マルスと名乗った男が手で合図をすると、少しの間おとなしくしていたオオカミが急に全身を震わせて遠吠えをあげ、一直線にレグランドフィア王へと向かって突進し、牙をむく。
それをカルゴ、レグランドフィアの兵士が盾を構えて防ぐと、マルスは一歩後ろへと下がってレグランドフィア王との距離を離した。
「さて、どこまで我にあがなうことができるか。」
オオカミが周囲で暴れ回ると、多方面から盾を構える兵士達に突進していく。
それをマルスが自身の周囲に炎が浮かび上がり、それを上空全方位へと打ち上げる。大小バラバラな炎の塊がジュウジュウ焼ける音を立てて上空から落下すると、すぐに兵士たちが怯え、その場から徐々に後退っていく。
その火の塊は落下すると、地面で消えることなくその場で弱くくすぶっている。
「後退だ!」
「駄目だ!待機だ!」
咄嗟にサイン部隊長が兵士を下がらせる指示を発するが、それを遮ったのが後方の比較的安全な場所まで下がっていたアルマンプ総隊長だった。
「ここは危険です!」
「レグランドフィアの王が下がっていないのに我々の兵を退くことができるか!デコラ王を貶める気か!」
「ぐっ・・・」
さらに自身はゆっくりと後退して最前線を離れるアルマンプ総隊長の離れていく声に苦い顔をしながらも、サイン部隊長が手を挙げて兵士をその場の待機に指示を変えると、レグランドフィア王を守るように細かく陣形を入れ替える。
「カルゴの将よ、あのオオカミの退治を頼めないか?倒せないまでもここから離して欲しい。」
レグランドフィア王がゆっくりとサイン部隊長へと近づくと、視線を周囲で飛び跳ねては激しく襲い掛かる4匹のオオカミに固定した。
炎を纏う姿は、直視すると目を瞑ってしまう程の眩しさである。
「それは構わないが。」
「あのマルスという男はこちらで対処する。そのために分断して欲しい。」
「では我らは本当にここから離れるぞ。大丈夫か?」
「当然だ。レグランドフィアはレグランドフィア兵が守る。当たり前のことだ。」
「わかった。」
サイン部隊長がうなずくと、小さくレグランドフィア王へと礼をしてすぐに、黒い鎧を纏ったカルゴ兵たちの元へ駆け寄る。
「よし、けが人の手当てとあのオオカミの撃退部隊に分ける。」
そこへ、レグランドフィアの商人たちが医薬品をもって駆け寄り、手当てを始める。
「私たちは正直、武器の扱いは得意ではありません。でも、手当てぐらいはできます。手当は我々に任せてください。」
テキパキと、とはいかないが、見知った程度の知識でなんとか手当てを進める。
「そうか。では、ここは頼む。」
そして、サイン部隊長が手を挙げて弓を一斉に構えさせると、暴れるオオカミを指し、一斉射撃を命じた。
「我らの役目はオオカミの駆除だ。撃て!引き付けるぞ!」
そのサイン部隊長の指示で概ねの状況を把握したデコラ兵は、マルスからそのオオカミを離すように配置し、威嚇と退避を繰り返して戦場を移していく。
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