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第一章 セイシュの民が翔ける黎明の空
61 ただの冷え性
しおりを挟む氷に亀裂が入ると、マルスが全身に力を込めて体を震わせて、周囲を覆う氷を弾き飛ばす。
マルスが穴の中の狭い空間でゼイゼイと荒い息をすると、まだ凍り付いているサチをじっと見つめる。
「なんだこいつは。」
マルスが両手に高熱の炎を纏うとサチに向ける。
「てぃあああああああああああああああああああ!!」
わざと気を引くようにリヴィエラが大声をあげると、穴の中に飛び込み降下する。
それを見上げるマルスの右肩にリヴィエラが持っていた青色の石が括られた矢、デコラ兵が放った水の矢の一本を突き刺した。
そして反対の手に持っていた、黒色の石が括られた矢をマルスの腹に突き刺すと、サチを守るように地面に伏せる。
「な・・・・」
マルスが左手でその矢を抜こうとした瞬間、黒色の石がマルスの体内で小型の爆発を起こす。
穴全体がオレンジ色に輝いて、激しい熱が渦巻くと、マルスは全身に再び炎を纏い、上昇気流を作り出して吹き飛ぶように穴から脱出する。
そのままマルスを包む炎が一カ所に集まり始め、球体になると、小さな炎の塊となる。
そこにマルスの姿はない。摩訶不思議な現象である。
「侮った セイシュの民が、水が、大地が」
炎の球体から声が聞こえる。それはマルスの声。
「3原石が共にあるとは・・・この機になっても、おまえ達は結界を張って・・・愚かな・・・真実を、歴史の流れを、現実を自分の目で見よ・・・」
炎の球体は、その場から上昇すると見えなくなった。
「無事か!!!!!」
慌ててレグランドフィア王がその穴の中に飛び込む。
もんちきもその後を追い、少し遅れてシフィルも飛び込む。
「なんとか。」
リヴィエラが頭をフラフラさせながら立ち上がる。
あれだけの爆発に巻き込まれたのに、無事な自分が信じられないでいる。
衣服に付着した氷の結晶がパラパラと落ちると、自分の足を握る手にようやく気付く。
サチがリヴィエラの足を掴んで、氷の幕を張っていたのだろうと容易に推測できた。
リヴィエラが慌てて丁寧にサチの周囲に付着した氷を爪で引き裂くように掻き割ると、サチの服を払って氷の粒と汚れを除く。
そして、リヴィエラがサチの顔を触ると、その冷たさに驚く。
「死んでるかもしれない!」
「ただの冷え性。」
目を瞑ったまま、からだをピクリとも動かさずにサチが小さく口を動かす。
慌ててリヴィエラがあたふたしながら、サチを抱きかかえると、ゆっくりと丁寧に背負う。
そのタイミングを見計らったかのように、ロープが投げ入れられた。
リヴィエラが見上げると、地上からデコラのサイン部隊長が覗き込む様に、ロープを垂らして、手で掴めと合図をしている。
言われるとおりにリヴィエラが右手にロープをグルッと巻いて強く掴み、反対の手で背負ったサチを支える。
クイックイッとリヴィエラが二度引っ張って合図をすると、地上から呼応する声が複数聞こえて、ズルズルと擦られながら地上へと引き上げられていく。
「冷え性ってからだが冷たい奴のことではない。」
リヴィエラが呟く。
そこに兜に赤い羽根を付けたアルマンプ総隊長が護衛を引き連れて到着する。
何事かとその穴にゆっくりと近づくと、驚いた表情をする。
「サインよ、よくやった。レグランドフィアの王を捕らえたか。これは表彰ものだ。」
曇った顔をしたサイン部隊長が引き上げる速度を速めるように兵士に指示をすると、それを遮るようにアルマンプ総隊長がサインとその兵士達を取り囲んで静止させた。
また、近寄ろうとするレグランドフィアの兵士を威嚇するように兵士を配置する。
「なにをしている?せっかく捕らえた者たちを。」
地上まであとわずかなところまで到達していた空を見上げるリヴィエラと、穴を覗き込むアルマンプ総隊長の視線が合う。
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