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第一章 セイシュの民が翔ける黎明の空
63 襲撃の傷跡
しおりを挟む「レグランドフィア国王でございます。本日はカルゴの方々のご尽力により、なんとかレグランドフィアを外敵から守ることができました。アルマンプ様が近くを通りかかることが無ければ、我々は生きてはいなかったでしょう。なんとお礼を言っていいか。本当にありがとうございました。」
再びレグランドフィア国王が深く頭を下げた。
それに、アルマンプ総隊長がからだを硬直させて緊張し、軽く頭を何度も下げた。
「あい、いあや、嫌、いや、困っていれば敵でも助けるのは当然である。もちろんだとも。」
「さすが、アルマンプ様、懐が広い。」
「あ、そうか。まあ。お互い無事でよかった。」
再びアルマンプ総隊長が胸を張って笑うと、顔に大粒の汗を垂らして、それを両手で拭うと、カルゴ兵たちに隊列を整えるように手で合図をする。
慌てて、列を作り、撤退の形を作る。
「お待ちください。これをお持ちください。」
すると、レグランドフィア国王に駆け寄った兵士が手渡した袋をアルマンプ総隊長の目の前で開く。
中からは、金色に輝く宝石が複数転がっていた。
「うぉ!これは・・・」
「はい。今回の戦費としてお納めください。」
「うひょぉ!うおい。わかった。いただこう。」
上機嫌のアルマンプは。それを袋ごと受け取ると、格好よくヒラリと用意された馬にまたがる。
「あ!!」
勢いあまって落馬しそうになったアルマンプから、受け取った金色に輝く宝石が袋ごと零れ落ちると、それに必死に手を伸ばしてそのまま、顔から地面に落下する。
「大丈夫でございますか!」
慌てて近寄るレグランドフィア国王に対して、強打した顔面を抑えながら、大切に袋を胸に仕舞うと、レグランドフィア国王に手を挙げて応える。
「ふふふ、こういうおちゃめな面もあるのだよ。」
真顔のまま、アルマンプが目を瞑って服の埃を払うと、今度こそと、再び勢いよく飛び跳ね、それを今度は待ち構えていた兵士二人が抑える形でなんとか綺麗に騎乗する。
そして、なにも無かったようにすました顔で、隊列の先頭となり進んでいく。
「帰路の無事を祈っております。」
「うむ。貴殿にも達者な感じで無事が復興を。」
見送るレグランドフィア国王に手を挙げてから、アルマンプ総隊長はデコラへ向かい進んでいった。
「サイン部隊長、本当に救われました。ありがとうございます。」
リヴィエラが騎乗して自部隊を整えているサイン部隊長に近寄り、頭を下げた。
「正直、冷や冷やした。アルマンプ総隊長ならば、本当にレグランドフィア国王をあそこで葬る可能性があった。国のためであれば、なにをするかわからない奴だからな。」
「時間を稼いでくれたおかげで、穴から這い出ることができました。」
「・・・ただ、迷っている。私の判断が正しいのか、それとも、アルマンプ総隊長が正しかったのか。」
「少なくとも、兵士に危険な武器を使わせるのは違いますが。」
「・・・そうだな。」
「無能な指揮官は戦場で有能な部下を死なせる。アルマンプ総隊長がいる限り、また、同じことは起こるのではないでしょうか。」
「・・・」
そこに、レグランドフィア国王がゆっくりと近づく。
「今回多数の犠牲者を出してしまった。亡くなられたカルゴ兵士の方々へは、我々レグランドフィアからも多少なりとも弔い金を受け取っていただきたいと思っている。追って、カルゴへと使者を出す故、その節はよろしく頼みま
す。」
「戻りカルゴ国王へ伝えます。」
サイン部隊長が短く答えると、リヴィエラとレグランドフィアに一礼をして、部隊を引き連れて去っていった。
「カルゴがこの先、イルエスタに滅ぼされることがあれば俺の責任か。どうすればよかったのだ。」
サインの胸がズキンと痛むと、深く息を吐いた。怖かった。
傷跡はかなり深かった。
レグランドフィア城は住民の協力もあり懸命な消火を行ったが、かなり広範囲が延焼してしまっていた。
城下町まで黒い煙が覆い、周辺は灰が降り注いだ。
この灰により、農作物に大きな被害を与え、家畜も病んだ。
城に保管していた食料や衣類は燃え、最低限の生活に必要な物の確保に追われた。
レグランドフィアの人的被害(城民含む)は、重傷者4人、軽傷者35人、奇跡的に死者0人
デコラ王国の人的被害は 重傷者34人 軽傷者54人 死者8人であったが、その大半は自らの持っていた武器の暴発の影響であり、自滅といえる。
それから、まもなく、城内外からレグランドフィア復興運動が起きた。
城下町の商人団が無償で、食物や衣類の寄付を行い、建築家や建設団が無償で城の復旧に昼夜を問わず作業を進め、城を建設した。
皆が一体となり、復旧作業を進めたが、元の生活に戻るには、まだまだ時間がかかりそうである。
その直後、デコラ王国より、降伏を勧める文書が届いた。
降伏すれば、属国として、援助・支援するが、断れば即座に戦闘を行う用意があるという脅迫的な内容であった。
それを即座にレグランドフィア王は断る。
遅くても独立した一国として再建させる、強いレグランドフィア王の意志であり、この出来事により、さらにレグランドフィアは団結を深める。
ただし、デコラ王国に武力侵略されるかの懸念があり、打つ手を探っているところであった。
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