63 / 104
第一章 セイシュの民が翔ける黎明の空
64 デコラの戦後処理 無事任務報告
しおりを挟むデコラ王国では、戦後処理が進められていた。
広間にデコラ国の旗織が掲げられており、壺や絵画、植物が飾られ、赤い絨毯が床に敷き詰められている。
玉座にデコラ王が深く座っており、その横に王妃が立ち、忙しそうに何かを兵士に指示をする。
左右に権力者がずらっと並び雑談して、少し離れたところに楽器奏者が勇ましい音楽でこの場を盛り上げている。
「アルマンプ総隊長が到着されました!」
入り口で待機をしていた兵士が大声で叫ぶと、勢いよく扉を開いた。
場が一瞬にして静まると、赤い羽根のついた兜を手に持ち、アルマンプ総隊長が胸を張って得意げな顔でゆっくりと進んでいく。
そして、デコラ国王の前に到達すると、片膝をついて深く一礼をした。
「レグランドフィア救出部隊総隊長アルマンプが報告致します。我々デコラ王国の兵士の活躍により、レグランドフィアを襲っていた化け物を退治し、無事任務を遂行いたしました。」
城外からは拍手と歓声が上がった。
そして、アルマンプが手を挙げて合図をすると二人の兵士が、レグランドフィアで探索部隊が奪った宝物を丁寧に持ち運んできた。
「こちら、戦闘中に破壊されるおそれがあったため、良心的に確保したものでございます。」
絵画や工芸品、指輪や首飾りのような宝石類が多数積んであった。
「そうか、そうか、良心的に確保したか!それでは我が城の宝物庫に良心的に保管してくれ!」
デコラ国王は上機嫌であった。アルマンプ総隊長の家にも既に宝物が保管され、周囲で歓声を上げる貴族達にも、宝が事前に分配されていた。
実は、今回のレグランドフィアへのマルスの襲撃で、多くの宝物が焼失してしまっていたので、このアルマンプの良心的確保というのも、あながち判断として間違っていなかったのである。
「こちらは、レグランドフィア国王から直接今回の救出の感謝としていただいたものです。」
アルマンプが胸から袋を取り出すと、金色に輝く宝石を自らの手に乗せた。
「おおぉ。これは素晴らしい。」
デコラ王が差し出した手にアルマンプが金色に輝く宝石を渡すと、デコラ王が光に透かして、その美しさに感嘆する。
「アルマンプ総隊長、よくやってくれた。我が国の誇りだ。」
そのデコラ王の満足な表情をじっと見つめると、アルマンプ総隊長も満足気に笑い、小さく涙を流した。
それから、アルマンプが武勇伝をかなり盛った内容で、デコラ王とその周囲に身振り手振りを交えて、時には持っていた剣を振りかざしてマルスを叩き切る仕草をしたり、壊滅したレグランドフィア軍をかばう芝居をしたり、一人でマルスをやっつける際に負った顔の傷を細かく説明したりと独演場であった。
やがて、それに嫌気がさした人たちが増えてきたころ、王の横で立っていたデコラ王妃が問いかけた。
「戦闘部隊が大きな被害を受けているようですが、これはどうしてですか?」
一斉に静まる。それは皆が気にしていたが、聞くに聞けなかったこと。
レグランドフィアから持ち出した宝物をこの場にいる貴族たちに配布したのは、このことを問わないことを裏で手を回したためであった。
さすがに、それをデコラ王と王妃にはすることができなかったが。
「あの部隊には、我が国最新鋭の水のちからを込めた石の矢や爆発する矢を与えたはずだが?」
デコラ国王の顔が急に厳しくなる。それを察したアルマンプは言葉に詰まる。
アルマンプが一瞬撃たれたように動きを止めると、にこやかに笑った。
「はい。レグランドフィアを襲っていた、マルスというやつが強くて、負傷を。」
「それでは、最新の兵器は役に立たなかったと?」
「いえ、そんなことは無いのですが。」
「では、なぜに、これまでの被害を受けたのですか?」
「あの、それは。」
「兵士の訓練不足ですか?」
「いえ、そんなことも無いのですが・・・」
「指揮官の指示が悪かったとか?」
「それは決してありません。私ほどの戦略家はおりませんから!」
「では原因は?」
「・・・」
アルマンプが困り果てて黙り込む。それをじっと祈るような目で見つめる複数人。
デコラの兵器開発部隊責任者とそれを販売する商人、それに関係する権力者たちの無言の圧力。
今回試した水の石矢と爆発矢は、それらの圧力を与える者達から今回の戦闘で成果を上げて、国内外に存在を知れ渡らせるという依頼を多額の資金でアルマンプは受けており、それは絶対に他言しないことも約束されていた。
他言しないように、といっても意外と周りは知っているのだが。
立て続けに繰り返される王妃からの質問攻めに困り果てたアルマンプは小さく顔を触った。
「実は、サイン部隊長が判断を誤ったためです。」
先程、レグランドフィアの宝物を運んできた片方が、両ひざをついてデコラ国王に告げた。
「なに?そうなのか?」
デコラ国王がギラギラした目でアルマンプに問うと、続いて先程の兵士が答えた。
「はい、言いにくいのですが、サイン部隊長が判断を誤りました。絶大な威力で素晴らしい性能の水の石矢と爆発矢
で、すんなりとマルスを倒したと勘違いしたサインは、すぐに隊列を解いて休憩させました。アルマンプ総隊長は、それは駄目だといったのですが、言うことも聞かずにです。」
腕を組んで怒った仕草をするその兵士に、冷静を保ちながらも手を震わせてその兵士の肩を叩くアルマンプ。
「総隊長の指示も聞かず?」
「いや、え、あの、あ、はい。」
デコラ国王の問いかけにしどろもどろになって答えたアルマンプは息をかみ殺して、一度目を瞑ると小さくうなずいた。
20
あなたにおすすめの小説
炎光に誘われし少年と竜の蒼天の約束 ヴェアリアスストーリー番外編
きみゆぅ
ファンタジー
かつて世界を滅ぼしかけたセイシュとイシュの争い。
その痕跡は今もなお、荒野の奥深くに眠り続けていた。
少年が掘り起こした“結晶”――それは国を揺るがすほどの力を秘めた禁断の秘宝「火の原石」。
平穏だった村に突如訪れる陰謀と争奪戦。
白竜と少年は未来を掴むのか、それとも再び戦乱の炎を呼び覚ますのか?
本作は、本編と並行して紡がれるもう一つの物語を描く番外編。
それぞれに選ばれし者たちの運命は別々の道を進みながらも、やがて大いなる流れの中で交わり、
世界を再び揺るがす壮大な物語へと収束していく。
転生先はご近所さん?
フロイライン
ファンタジー
大学受験に失敗し、カノジョにフラれた俺は、ある事故に巻き込まれて死んでしまうが…
そんな俺に同情した神様が俺を転生させ、やり直すチャンスをくれた。
でも、並行世界で人々を救うつもりだった俺が転生した先は、近所に住む新婚の伊藤さんだった。
『25歳独身、マイホームのクローゼットが異世界に繋がってた件』 ──†黒翼の夜叉†、異世界で伝説(レジェンド)になる!
風来坊
ファンタジー
25歳で夢のマイホームを手に入れた男・九条カケル。
185cmのモデル体型に彫刻のような顔立ち。街で振り返られるほどの美貌の持ち主――だがその正体は、重度のゲーム&コスプレオタク!
ある日、自宅のクローゼットを開けた瞬間、突如現れた異世界へのゲートに吸い込まれてしまう。
そこで彼は、伝説の職業《深淵の支配者(アビスロード)》として召喚され、
チートスキル「†黒翼召喚†」や「アビスコード」、
さらにはなぜか「女子からの好感度+999」まで付与されて――
「厨二病、発症したまま異世界転生とかマジで罰ゲームかよ!!」
オタク知識と美貌を武器に、異世界と現代を股にかけ、ハーレムと戦乱に巻き込まれながら、
†黒翼の夜叉†は“本物の伝説”になっていく!
世紀末ゾンビ世界でスローライフ【解説付】
しおじろう
SF
時は世紀末、地球は宇宙人襲来を受け
壊滅状態となった。
地球外からもたされたのは破壊のみならず、
ゾンビウイルスが蔓延した。
1人のおとぼけハク青年は、それでも
のんびり性格は変わらない、疲れようが
疲れまいがのほほん生活
いつか貴方の生きるバイブルになるかも
知れない貴重なサバイバル術!
最初から最強ぼっちの俺は英雄になります
総長ヒューガ
ファンタジー
いつも通りに一人ぼっちでゲームをしていた、そして疲れて寝ていたら、人々の驚きの声が聞こえた、目を開けてみるとそこにはゲームの世界だった、これから待ち受ける敵にも勝たないといけない、予想外の敵にも勝たないといけないぼっちはゲーム内の英雄になれるのか!
『異世界ガチャでユニークスキル全部乗せ!? ポンコツ神と俺の無自覚最強スローライフ』
チャチャ
ファンタジー
> 仕事帰りにファンタジー小説を買った帰り道、不運にも事故死した38歳の男。
気がつくと、目の前には“ポンコツ”と噂される神様がいた——。
「君、うっかり死んじゃったから、異世界に転生させてあげるよ♪」
「スキル? ステータス? もちろんガチャで決めるから!」
最初はブチギレ寸前だったが、引いたスキルはなんと全部ユニーク!
本人は気づいていないが、【超幸運】の持ち主だった!
「冒険? 魔王? いや、俺は村でのんびり暮らしたいんだけど……」
そんな願いとは裏腹に、次々とトラブルに巻き込まれ、無自覚に“最強伝説”を打ち立てていく!
神様のミスで始まった異世界生活。目指すはスローライフ、されど周囲は大騒ぎ!
◆ガチャ転生×最強×スローライフ!
無自覚チートな元おっさんが、今日も異世界でのんびり無双中!
鬼死回生~酒呑童子の異世界転生冒険記~
今田勝手
ファンタジー
平安時代の日本で魑魅魍魎を束ねた最強の鬼「酒呑童子」。
大江山で討伐されたその鬼は、死の間際「人に生まれ変わりたい」と願った。
目が覚めた彼が見たのは、平安京とは全く異なる世界で……。
これは、鬼が人間を目指す更生の物語である、のかもしれない。
※本作品は「小説家になろう」「カクヨム」「ネオページ」でも同時連載中です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる