三つの民と神のちからを継ぐ者たちの物語 ヴェアリアスストーリー

きみゆぅ

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第一章 セイシュの民が翔ける黎明の空

65 嘘と陰謀

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 周囲が一斉にざわつく。

 それをデコラ国王が手を挙げて静かにさせる。

「実は、サインが私の指示に従わなかったのはその後もです。これは裏切りです。命令違反です。最終的には私が説得し、事なきを得ましたが、戦闘中に指揮官が命令を無視してはいくら優れた私でも戦うことができません。まあ、この状態でも私が総隊長だから勝てたのですが。この顔を見て下さい。実は戦闘で追ったのではなく、その時にサインに殴られた跡です。」

 開き直り。覚悟を決めたか、すがすがしい顔をするアルマンプ。

 顔を国王にじっくりと近づき見せると、そこには、青く腫れた顔があった。大変痛々しく、同情を引くには有効であった。

 城内がざわめきたつ。

 落馬した時に負傷した跡だとは誰も口が裂けても言い出せない雰囲気。アルマンプの必死な表情。

「お待ちください。サインは我が国の忠臣であり、優秀な兵です。意味なく命令に背き裏切るなど考えられません。」

 進言したのは、同じ部隊長として双璧をなすサラエンという女性であった。
 彼女もサインと近い考えを持ち、この国の腐敗を憂う人物であった。

 なんとなく、アルマンプの慌て具合とその近くの兵士の堂々としたセリフ、その他の一部の観衆の態度から、偽りの言葉がいかにも真実になっているとの疑念をいただいた。

 サインもサラエンもこの国では人徳もあり、信頼も厚い人物であり、いわゆる貴族たちには煙たがれる存在である。

「証人がいます。」

 ふいに、先程の兵士が声を上げた。

「へ?」

 アルマンプが驚いた声を漏らすと、咳払いをしてごまかす。

 その横には、兵士の姿をした男が一人、立っていた。

「彼は私と同じく、あの戦場で最後まで勇敢に戦っていました。」

 兵士が深くうなずく。

「そなたが見たままを、そのまま話せ。嘘偽りは許さんぞ。」

 デコラ国王が落ち着いた表情で声を荒げる。

「サイン部隊長が、魔物を倒したと勘違いし、兵士に鎧を外させました。その後、魔物が息を吹き返し、襲いかかってきました。アルマンプ総隊長が必死に敵を持っていた剣で食い止めましたが、兵士が多数死傷しました。その罪をなすりつけようとサイン部隊長がアルマンプ総隊長と言い争っていました。これは確かです。」

 兵士が言い終わると、アルマンプが兵士を立たせ、出て行かせた。

「サイン部隊長が判断ミスをしなければ、我が国は誰一人、軽傷者もいなかったでしょう。どんなに装備が良くても部下が無能ではどうにもなりませんな。無能な部下が貴重な上官を殺す、そんな前例になってもおかしくない状況でした。私だから何とか勝利することができたのです。あと、素晴らしい性能の水の石矢と爆発矢のおかげでもあります。」

 アルマンプが両手を広げて商人の方にチラッと視線を流すと、強く手を叩いてそれに賛同していた。その商人達が手で追加報酬の合図を出すと、ニヤっとアルマンプが笑う。

「このミスは大きいのではないか?」

「死罪ですな!」

「そうです!許したら国が乱れます!」

 興奮した人々が口々に叫ぶ。立ち上がり叫ぶ者もいる。暴れている者もいる。

 アルマンプがキョロキョロとその状況に慌てると、両手でそれを抑える仕草をするが、まったく見向きもされない。

「いや、そこまでしなくてもいいのでは・・・え・・・」

 そのアルマンプの声は観衆の興奮した声にかき消された。


 その異様な雰囲気の場を逃げるように、証言をした兵士を追いかけて、サラエンはその場を離れた。

 そして、デコラ城を駆け足で脱出するところで、その兵士を捕まえる。

「ちょっと話があるんだけど、いいかな」

 サラエンは、腰に装着していた細長い剣を兵士の首に当て、人気の無いところへ連れて行った。

 城の倉庫にあたる部分で、周囲に人影はない。おびえた兵士は素直に応じる。

「私を知ってるよね?」

 首元に突きつけられた剣を気にしながら、小さく何度も何度もうなずく。

「レグランドフィアを襲った敵の姿は?」

「あ、はい。人の形で、おおきくて、赤い剣をもっていました。」

 兵士はおびえながら答えた。

「他に特徴は?わたし見てないから知りたくて!」

「他にですか?・・・・・他にですか・・?えーと、あの、目と口も大きくて身体も大きくて、すごい野蛮な感じ
 で、手あたり次第攻撃をしていました。」

「そう。他には?どんな攻撃をしてきたの?」

「なんか、口から火を吐いて、ガオーと叫んでました。ドスンドスンとゆっくり歩いて。」

「・・・それ怪獣?」

 サラエンが首を傾げると、指で何かを合図する。

 陰から隠れていた一人の兵士が姿を現した。左手に強いやけどを負い、杖をついて歩いてきた。

「嘘です。身体が大きくても素早く、野蛮と言うよりも、戦いたくないと言うことをいっていました。この兵士の言うことは嘘です。」

 サラエンは持っている剣をさらに首元へ近づけながら、兵士の顔に、サラエンの顔を近づけた。

「彼ね、私の部下だけど、今回はレグランドフィア救出に本当に行っているの。私のこと知ってるんだよね?それで私に嘘をついたの?勇気あるじゃん!!!」

 持っていた剣を素早く振り抜くと、髪の毛を数本切り裂いた。兵士は腰を抜かし、その場にしゃがみ込む。

 その兵士の肩に右足を乗せ、剣を頭に刺すように素振りをする。

「手元がくるったらごめんね。それとも嘘つきましたって修正する?国王の前で!」

 兵士はただ黙るだけであった。

 なにか周囲が騒がしい。

「サラエン!こんなところでなにやってる!」

 サラエンの上官が息を切らせて走り近づいてくる。

「この兵士が嘘ついていることが判りました。これでサインを助けられます。」

「もう遅い!国王は今回の件、サインを即刻処刑せよとのことだ。」

「なっ!!!!おかしい!こんな重要事項が即座に決められるなんて・・・」

 サラエンは慌てて走り出した。
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