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第一章 セイシュの民が翔ける黎明の空
67 この国と共に生きていく
しおりを挟むそれからしばらくして、サインは一部の側近とその家族を連れてレグランドフィアへ向かった。
他の者は、デコラの者にばれないように、分割してレグランドフィアへ家族を連れ、移動することになった。
この事件の約2日後には、サインの部下100名、サラエンとその部下約100人がレグランドフィアに到着した。家族を含めると600人程度の人口が移動した計算になる。
サインの家族は、一番最後の移動となった。当然、デコラの疑いの目を少しでも避けるためである。
デコラ王国が人口流出に気付いたのは、そのすぐ後で、見張りを多数立てて怪しい動きをする者をきつく取り締まったが、その時点でほぼ移動希望者はデコラを抜け出していた。
これは、サインと懇意にしていた複数人が裏から手を回してくれたため、極力気付かずに秘密裏に進めることができていたためである。
デコラからの移住者は、特に食物など、必要最低限のものはすべて持っていったため、住むところを提供すれば、直ぐにでも生活が始められた。
レグランドフィア城では、復興のちからとして、素直に喜んで受け入れ、彼らのために、東地区と南地区の中間に東南地区を即座に作り、仮設住宅を建設した。
また、彼らの中には、武器・防具工や、教授など、新たな技術や知識をレグランドフィアにもたらすものも多く、かつての敵として、はじめはぎこちなかったが、復興という同じ目的を共有し、すぐにうち解けるようになった。
こうして、この国は異文化を取り入れ、発展していくのである。
サインとサラエンには、デコラ王国での肩書きである部隊長と同等の位が与えられ、連れてきた部下をそのまま、自分たちの部下とさせた。
これは、サインとサラエンを信頼しているからできることであり、裏切るということを考えてはいないということである。
それからさらに数日後。
サインとサラエンが、作業の休憩時間として兵士の宿舎で久々にゆったりとしている。
レグランドフィアでは、兵士達も土木作業員と一緒に城内外の復旧に駆り出されており、慌ただしくずっとドタバタしていた。
「復旧作業はどうだ?サラエン」
「よく、ここまで破壊されても復旧しようと考えるよな!原型がないじゃないか。」
サラエンは、飲み物を一気に飲み干すと、あきれ顔だが、笑っている。
そして真顔になると、横に座ったサインの顔をじっと見つめた。
「吹っ切れたようだな。」
流れた汗に砂埃が付着して、それを手で拭っているサインに対して、サラエンが揶揄うように笑った。
それに対し、少し首を傾げて笑って返すサイン。
「まだ、迷ってはいる。だが、目の前にやるべきことが、やりたいことがあるとすべてを忘れられるような気がする。」
「やりたいことか。この死ぬような忙しさが。」
苦笑いのサラエン。照れるように下を向いて同じく笑うサイン。
「なあ、サラエン、オレは今、初めて自分の主人に巡り会えた気がする。」
「ああ、私もだ、サイン。初めてレグランドフィア王に面会したときの言葉が忘れられない。」
『この国は皆の国だ。共に発展し、共に生きよう。この国に高価なものはないが、そなたたち一人一人がこの国の宝物だ。』
「なんか、恥ずかしいな。」
「ああ。でも、この国と共に生きていく。」
「ああ。」
そして、サインとサラエンは互いに復旧作業へと戻っていった。
リヴィエラは、こうして有能な人材を確保しただけでなく、デコラ王国というレグランドフィア復旧の妨げになる敵国の弱体化に成功したのである。人口2500人程度のデコラ王国にとって、600人の流出は大変な打撃であった。
サイン隊とサラエン隊を失ったデコラ王国は他国に戦争を仕掛けるちからなく、弱体化したレグランドフィアを侵略する好機を逃した。
すべてはレグランドフィアの策略であり、リヴィエラの手柄であった。
このようにして、レグランドフィアは復旧を成し遂げ、セイシュとヒュムの共存する国として、確固たる地位を築いていくのであった。
なお、デコラ王の前でサインを貶めた兵士が、それからすぐにデコラから姿を消したのを、サインもサラエンも知ることは無かった。
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