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第一章 セイシュの民が翔ける黎明の空
68 光の原石を探して
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レグランドフィア襲撃から数日後の朝、復旧作業中の王の間にシフィルとサチが呼ばれていた。
生活に関係の強い調理場や医療室、対外的な備えのための武器庫などの復旧を優先させているため、王の間といっても簡易に建設された小さな建屋であり、その質素さに驚きもした。
王、王妃ともに庶民に近い、動きやすい服装で埃まみれではあるが、その威厳を感じることができる。
特にレグランドフィア国王は腕まくりをして、汗が額に滲んでいることから、さっきまで復旧作業をしていたのだろうと予想が付く。
その隣に王子であるリヴィエラ、王女セシールが立ち、そのほかにも何人か庶務を行う者だろうか、慌ただしく走り回り、何かを記載し、小屋を飛び出していくなど絵にかいたようにドタバタしている。
それらを横目にレグランドフィア国王まで近づくと、王妃が果物の用意されたテーブルへシフィルとサチに座るように丁寧に促す。
「今日は呼び出してすまなかった。先日の礼をさせていただきたくてね。」
「はい!」
シフィルとサチが声を合わせてレグランドフィア国王に緊張した声で応えると、小さく一礼をして、素直に椅子に座る。
もんちきはピョンと飛び跳ねてから、シフィルのヒザの上に座った。
それを追ってレグランドフィア国王と王妃達が同じテーブルにつくと、それを見守るように、数人がテーブルを囲んで様子をうかがっている。
まず、レグランドフィア王から、今までの旅の経緯や目的を問われたため、シフィルが火の村や水の村のこと、結界のこと、いままでのことを簡単に伝えた。
「そうか、話には聞いていたが、そなたたちも大変だったのだな」
レグランドフィア王が深くうなずくと、その横で王妃が小さく笑った。
レグランドフィアには情報部隊があり、絶えずレグランドフィア周辺のみでなく、かなり離れた場所までも偵察し、その状況を把握しているため、既に火の村や水の村の情報は入っていたらしい。
「そこで、結界を張るために大地と光の原石と火を含め扱える人を探しています。」
「水もね。」
シフィルの言葉の後にサチが付け足した。
「ショカよ、この事案はそなたに一任しておる。代わりに話せ。」
少し離れた場所に立っていた青年、シフィルたちよりもそこそこ年上だろうか、緑色のローブを身にまとい、長い黒髪が特徴的な人物にレグランドフィア王が尋ねた。
「光の原石の場所は把握しております。また、それを扱える者も共にいるでしょう。」
ショカと呼ばれた男は、羽扇子を広げながら落ち着いて答えた。それはとても低い声で透き通る声。
シフィルとサチは喜んだ。こんなに直ぐにわかるとは思ってもみなかった。
「このレグランドフィアを南に10日程歩くと砂漠が広がります。それからしばらく南に歩くとオアシスの町があります。そこに光の原石があるはずです。ただし、その砂漠には野生の凶暴な生物が住んでいますので、気を付けて下さい。」
シフィルも火の村で受け取った地図を広げた。たしかにその地図にも、このレグランドフィアの遙か南に砂漠が描かれているが、特に文様など特徴的な記載はなかった。
だが、ようやく見つけた手がかりである。進路が開けたような気がした。
「そしてリヴィエラも共に同行させたいのだが。彼は数回そのオアシスへ行ったことがあるから、頼りになるはずだ。」
レグランドフィア王からの突然の申し出は、なんか嫌だったが、その場の雰囲気に逆らえずにシフィルはただ頷いた。
先日のマルスと名乗った者との戦闘での活躍を目の当たりにしたこともあり、頼れる仲間は心から歓迎したいが、どうも、性格的に合うかが心配だった。
シフィルがリヴィエラに軽く頭を下げるが、リヴィエラは気付いていないのか特に視線を合わせず外を見ていた。やっぱり嫌な感じだった。
すでにリヴィエラは聞かされていたようで、何の反応も示さない。
その横で王女セシールが悲しそうな、心配そうな顔をして、ただ黙っていた。
「光の原石を手に入れたら、またここに来て下さい。現在いろいろ調査していることがありますので。」
言うとショカは羽扇子をぱちんと閉じて手を打ち、部屋の隅へと戻っていった。
それに合わせるように、リヴィエラが立ち上がり、シフィル達の前に立った。
「一緒に行かせてもらう。よろしく。」
真顔であいさつすると、そのままリヴィエラは部屋を出て行った。
シフィルとサチは少し不満そうな顔で、その去って行った後姿に頭を下げる。
「御礼と言ってはなんですが、旅に必要な物をこちらで準備させていただきました。どうか、ご活用ください。」
王妃が立ち上がり、隣の部屋へと案内をする。
そこには、食料や薬、飲み水などが用意されており、また、食事も、豪勢とは言えないが、普段の旅では到底、口にすることの出来ない物がそろっていた。
特に甘い菓子など、どれくらい食べていなかっただろう。
「ありがとうございます!」
御礼をするのと同時にサチが口に団子を頬張る。
ありがたく頂き、旅の支度を整える。
もんちきも喜んで食べていた。
色々あったが、助けてよかったと心から感じた。至福の時。
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