三つの民と神のちからを継ぐ者たちの物語 ヴェアリアスストーリー

きみゆぅ

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第一章 セイシュの民が翔ける黎明の空

69 なぜ皆が助け合い 協力し合うと考えないのか

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 用意されていた食事が終わり、旅の準備が整ったのを見計らった様に、リヴィエラが勢いよく部屋へと入ってきた。

 リヴィエラは短剣を腰に差し、緑色の旅装束に薄い茶色の皮のマントを纏っていた。

 また、封印の布で覆った大地の原石も持参している。

「準備ができたら行くぞ」

 睨み付ける様にシフィルとサチを見ると、部屋を出て行った。

「無愛想」

 サチが頬を膨らませて不満を顔に表すと、お菓子を袋いっぱいに詰める。

 シフィルも食べ物を袋に詰め込み、慌てて追いかけて行った。

 もんちきは、シフィルの肩に乗って、まったりとしたままパクパクとお菓子を食べている。

 そのまま城外へ進み、誰に挨拶をすることもなく、南のオアシスへと歩いた。

 シフィル達が今まで旅してきた約2倍の速度であろうか。

 少し小走りになりながら歩き、どうにかリヴィエラとはぐれないようにするのが精一杯であった。

 シフィルとサチは目を合わせ、泣きそうな顔になった。

『ひーん』嘆くような声がサチから漏れた。

「ほら、やっぱり面倒なことになった。」

 シフィルの心の声が口からこぼれた。



 誰も居なくなった王の間でレグランドフィア王とショカが二人きりで難しい顔をしている。

 周りを見渡してもだれもいない。入り口に兵士を立たせ、誰も入らないようにする。

「正直あの二人についてどう思うか?仲間にすべきだと思うか?」

 レグランドフィア王は、周囲に誰もいないのを再度確認しつつ、椅子に深く座り、声を静かに話した。

「火のマルスとの戦いを見る限り、原石は使えるが、使いこなせてはいません。しばらく様子をみて、使いこなせる
 ようであれば仲間に、見込みが無ければ、原石を奪うべきです。」

 ショカも羽扇子を口元に当てて話した。

「ただし、彼らが結界を張るといっているのは厄介だぞ」

「結界は張らせません。そのためにリヴィエラ様に見張りとして同行してもらいました。・・・徒歩で。また、光の原石を扱うリザ様は賢い方と聞きます。説明すれば納得してもらえるでしょう。問題は、あのもんちきと呼ばれたサブヒュムです。どうもセイシュの民と深いつながりがあるようですので。」

 ショカの説明を聞いたレグランドフィア王は椅子に深く座り直した。

「セイシュの民はどうしても結界を張るつもりか。」

「変化を嫌うセイシュの民は自分を守る為だけに結界を張りたがっています。いまだにセイシュの民は純血である自分達だけが特別だと思っているのでしょう。そんなの昔の話であることを未だ認めず、結界外の民も認めない。」

 立っていたショカを座らせたレグランドフィア王は深くため息をついた。

「なぜ、皆が助け合い、協力し合うと考えないのか?」

 口元を羽扇子で隠してショカが笑う。

「このレグランドフィアが特殊なのです。セイシュはセイシュのみ、デコラ王国のようなヒュムの国はヒュムのみが栄えようと考えています。他もそうです。」

「それはなぜだ。」

「自分の民族が一番だと思いたいのでしょう。また、他の民を信じられないというのも本音でしょう。まあ、みんな怖いのです。他の民が。」

「怖いか。」

「それと優越感が欲しいのだと思います。」

「ふむ。」

「まだ、このレグランドフィア以外では、ほぼ知られていないのです。セイシュの民とヒュムが血を混ぜた子供は50%の確率でセイシュの民のちからを引き継ぐことができることを。」

「我々からすれば、セイシュとヒュムの子供はちからを維持することがあるというのが当然の知識なのだがな。セイシュのちからを無くした者も知識やちからで役に立つ。そこに優越はない。それがわからないのか。」

 腕を組みながらレグランドフィア王は目を閉じた。

「このレグランドフィアを建国したレグランドフィア王1世は、大地の民の純血セイシュの民であったが、ヒュムと結婚し、子を授かった。それ以降、特に種族にこだわらず、すべてを受け入れてきた。レグランドフィア王の子供であるリヴィエラも大地の民の血とヒュムの混血であったが大地の原石を扱う能力に極めて秀でた特殊な存在であった。また、レグランドフィアに住むセイシュとヒュムの混血の民は、セイシュの能力を継ぐ者も、無くしたものも、皆、何らかの形で国に貢献している。」

「それをわかりたくないのです。種族全体が過去からの考えを変えるというのは無理です。不可能です。」

「はっきり言うのだな。いずれ争うことになるのか、セイシュともヒュムとも結界外の民とも」

「なるべく争いたくはありませんが、最悪の事態を想定するとそれもあり得るでしょう。今はちからを蓄えることです。味方を増やし、各種技術開発を進めます。結界外との協力含めて、情報を集めているところです。」

 レグランドフィア王はそのまま目を閉じていた。

 ショカは静かに外へ出て、ドタバタと修復を進める兵士達をじっと眺めた。

「セイシュとヒュムと結界外と我々レグランドフィア、すべてが均等な国力をもてば、けん制効果で争いも容易に起きない、か。均等に・・・我が国が最も難しい立場だ。綺麗なことを言ってもそれに戦力が伴わなければ、所詮はうわごとと同じ。王もわかっているのであろうな。その無力さを。」

 ショカは空を見上げた。雨が降りそうな暗いどんよりとしており、まるでレグランドフィア王の心を表しているかのようであった。

「だから戦力を蓄えるのだ。」

 王の間で一人、レグランドフィア王が怖い顔でぽつりとつぶやいた。
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