三つの民と神のちからを継ぐ者たちの物語 ヴェアリアスストーリー

きみゆぅ

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第一章 セイシュの民が翔ける黎明の空

70 絶対徒歩で行くところじゃないって

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「あの、死にそうです。」

 先頭を小走りで移動するリヴィエラを、足をふらふらさせながら追いかけるサチは、脇腹を押さえながら、せがむようにつぶやいた。

 レグランドフィアを昼前に出発してから、夕方になるまで走り続けていた。日も落ちようとする時刻。

 途中のおやつタイムさえも不満をブーブー言いながら移動速度を落とさずに食べたぐらいで、一度も休憩を取らなかった。

 シフィルは既に話すことも出来ず足を機械的に動かした。顔色も悪い。

 それを気にせず、リヴィエラは走り続けた。

 草原と樹木が共生しており、視界がやや悪いが、走りやすい。といっても、こんなに走ったことは人生初めてである。

「死ぬ・・・」

 ついにサチがその場に倒れた。足をばたばたして、子供のように横になった。

「少し休もう、限界だ」

 サチに合わせるようにシフィルも横になった。両手を広げ、空を見上げた。

 リヴィエラも立ち止まると、周囲を見渡し、木々に覆われた周囲の一角を指さした。

 そこには、こちらを眺める一匹のライオンが奇妙な雄叫びをあげている。

「見ろ、この地域は猛獣の住処で、あのライオンは今仲間を呼んでいるところだ。襲われたくなければ走れ。」

 持っていた水で少し喉を潤したリヴィエラは、また走り出す。


「暗くなったら今日は移動を止める。それまで走れ。」

 振り返らずに発せられた言葉を、周囲のライオンが集まり出すのを見ながら聞いたシフィルとサチはしょうがなくまた走り出した。

 もんちきもシフィルの負担を減らす為、自分で頑張って走っている。

 それからしばらく走ったところで日没となり、ようやく本当に休めるようになった。

 日が落ちると周囲は完全に闇に覆われる。いつの間にかリヴィエラが起こした火を囲んで腰を落とした。
 ジンジンと痛い足を手で丁寧に揉んで筋肉をほぐすと、大きく息を吐いて全身の力を抜いた。

「今日はここで寝る。明日は明るくなる前に出発するから良く休んでおけ。」

 少し離れた場所に移動したリヴィエラの声が暗闇の中から響く。

 その声を聞かずに既に寝ているシフィルと、おいしそうに食後のお菓子をモグモグするサチ。

 近くの木をスルスルと登っていくもんちき。

 つかの間の休息も、ほとんど強制的に訪れた睡眠ですぐに終わり、そしてまた、日が昇る。



「疲れが抜けてない。足痛い。」

 夜が明けかけたところでリヴィエラから起こされたサチが寝言のように口をモゴモゴして言葉を発して体を丸める
 が、半ば強引に出発したリヴィエラを仕方なく追いかけてまた走り出す。

 こんな感じの強行軍でレグランドフィアをでてから3日後、草原を抜け、砂漠へと着いた。

 10日かかるといわれた道のりを約1/3で通り過ぎたことになる。そのころには既に足は棒のようになり、誰もが無口のままだった。

 シフィルもサチも、疲れたそぶりも見せないリヴィエラにただただ驚く。というか、思いっきりムカつく。

 草原を抜けると急に風が強くなり、砂が舞い始める。衣服にも砂がつき、靴にも砂が入る。

 大地から砂漠へと移り変わっていくとどんどん歩き難くなり、草原よりもさらに疲れた。

「少し休む。」

 リヴィエラが自分から休みを告げるのは初めてだった。

 それに驚きもせずにシフィルとサチは、心底疲れ切った表情でお互いに深いため息をつき、砂漠へ入る手前の草原に腰を下ろした。リヴィエラは立ったまま休む。

 周囲は見晴らしが良く、襲ってくる獣は見あたらない。

「ここから先は灼熱の砂漠という名があり、猛獣でさえ足を踏み入れない土地だ。水分の補給を取らないと本当に死ぬぞ。毒蛇、毒蠍、毒蛙など、小さいが猛毒を持つ生物が多数生息しているから砂漠に座ったりするなよ。」

 リヴィエラの説明を聞いて慌てて立ち上がるシフィルとサチ。

 砂漠を見渡すと、目印になる物がほとんど何もなく、ただ、太陽が照り輝いているだけである。

 リヴィエラが示した方向には地平線が見える。本当に何も建物がない。砂ばかりの情景である。

 その砂漠の上にモヤモヤした空気の揺らぎが、余計に熱さを予感させる。

「うへ~ ここ行くの?死なない?絶対徒歩で行くところじゃないって。」

 サチが先を眺めてみるが、何も見えない。

「この先にクリスタルレイクという湖がある。その近くに光の原石のあるオアシスがある。行くぞ。」

 リヴィエラは道具袋からコンパスと地図を取り出し、太陽の方向を確認してから、今度はゆっくりと歩き出した。

 シフィルとサチもその後を追いかけるが、今度は湖が先にあるとのことで足取りが少し軽かった。

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