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第一章 セイシュの民が翔ける黎明の空
71 クリスタルレイクへようこそ
しおりを挟む進めど、進めど同じ景色が続き、太陽が体力を奪う。
「サチ、生きてるか?」
シフィルの問いかけになんとかうなずくサチ。
「灼熱の砂漠って名前が良くないよね、暑そうだもん。つめたい砂漠とか名前付ければ少しは涼しいのにさ。」
もはや何を言っているのかわからないサチ。水分の補給だけは絶えず続けているが、全て汗からでてしまっている感じがする。
リヴィエラからは、汗をかかないようにしろとも言われているが、それは無理だった。
からだを全身コートで覆って太陽の光を防いではいるが、日差しはその中までも貫通させて攻撃してくる。
それでも、クリスタルレイクを目指し、歩き続けた。やがて、夜になり、急激に気温が下がり歩きやすくなった。
寝転がると砂漠の毒生物に襲われる可能性が高いとのことで、そのまま、もうすぐクリスタルレイクに到着するというリヴィエラの言葉を信じ、ゆっくりと一歩ずつ歩き続けた。
砂に足がとられて、今まで以上に足が痛くなる。
夜が明け、昼になったころ、ついに草が生えはじめ、木々が生息する地帯となった。足も自然と速くなる。
やがて、目の前に大きな湖が現れた。
予想していたよりも大きい。その湖を囲む様に商店が立ち並び、少し離れて住居や宿泊所、警備兵の詰め所が設置されている。
ジリジリ焼ける太陽の日差しは気になるが、普通に立派な街がそこに現れた。
砂漠を渡らなければ到達しないにもかかわらず、そこそこの賑わいの状況。一部商店は人でごった返しているところもある。
大きな『クリスタルレイクへようこそ』と記載された看板は砂埃で汚れてかすんでいる。
「おー大きいなぁ。」
激しい太陽の日差しを浴びながら、集まる人ごみをかき分けて湖へと直行すると、シフィルが素手で水をすくって喉を潤す。
からだの中に水が入っていく感触が分かった。本当に生き返った気がした。
サチも瞬時に裸足になって湖に飛び込み、あたまから水をじゃぶじゃぶとかぶっている。
もんちきは湖に入り、泳ぎだした。
このクリスタルレイクはこの砂漠に住んでいる者の命とも言える。それは獣類も同じである。
水の補給所として、この湖を中心として約99%の砂漠に住む者がここに集まっている。そしてこの砂漠を横断する者達も必ず寄る場所である。
「う~ 生き返る!」
シフィルもサチも疲れが吹っ飛んだ。リヴィエラが水筒に水を入れているのをみて、慌てて同じように水筒にいれる。
「でも、こんなに暑い砂漠の中で、どうしてこんなに水が冷たいんだ?それに、この水を他でもたくさん使っているけど減らないみたいだし。」
シフィルが湖の前で腰を下ろし、リヴィエラに尋ねた。
「そんなくだらんことを聞くな。ここは大きなわき水だ。それもかなりの量が地下からわき出ているらしい。」
もんちきが泳ぎ終わってからだをふるわせ、水をブルブルと払うと小さな指先でその湖の一部分を指した。
そこは、地面からブツブツとフツフツと砂利が循環しているのが見える。まさに水が湧いている場所なのだろう。
それが、あっちにも、そっちにも多数存在していた。
周囲を見渡すと、大きなタルをもち、クリスタルレイクから水をくんでいく者がたくさんいる。
昔からこの湖を奪うために争いが絶えなかったためらしい。
安全管理のため、レグランドフィアの兵が警備している。
だが、警備と言っても、子供と仲良く話したり、おぼれる者がいないか、湖にゴミを捨てる者がいないか、湖におしっこをする者はいないか、住むものがいないかという監視がほとんどのようで、武器も携帯せずに泳げるように軽装をしていた。
バカンスの真っ最中にしか見えない。
その警備兵がリヴィエラを見て、深く頭を下げると、それに気付いたリヴィエラも軽くあたまを下げる。
「さて、そろそろいくぞ。光の原石はもうすぐそこだ。」
水筒を荷物のなかにしまい、立ち上がったリヴィエラをみて、シフィルともんちきも立ち上がる。
だが、サチは動かずに、下を向いて名残惜しそうに湖を見ているだけであった。
「サチ!いくぞ!もうすぐだ!」
元気づけるようにシフィルも言ったが、サチは動かなかった。
そして、そのまま湖の中にゆっくりと小さな波を立てて倒れ込こんだ。
慌てて荷物を置いて湖に入るリヴィエラ。
驚いて叫んだシフィルの声で異変に気付いた警備員も駆けつける。
湖の中から助け出したサチは、意識がもうろうとしており、ほとんど呼びかけにも答えない。周りもざわめきだす。
何か危険があるのではないかと、警備兵が周辺から人を離す。
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