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第一章 セイシュの民が翔ける黎明の空
72 毒蠍 ライラへ
しおりを挟むサチに水を頭にかけても特に反応がない。
「リヴィエラ様、この子の左手首をご覧ください。」
警備兵が掴んだサチの手首に小さく黒い点が2カ所、それも大きく腫れており、その黒い点の周囲は青く変色し始めていた。
「毒蠍の尾の毒か!それも2カ所!」
リヴィエラは持っていた短剣でサチの手首を細かく丁寧に引き裂くと、黒色の液体がピュっと噴き出る。
黒い毒部分をクリスタルレイクの水で洗い流した。黒い毒部分が洗い流されると、今度は赤い血が流れ出す。
そして持っていた薬草でその傷部分を覆った。
「リヴィエラ様、毒蠍の尾の毒は1カ所刺されても致命傷になります。それが2カ所ではもはや、応急処置ではどうにもなりませぬ。」
諦めた表情でその兵士が嘆く。
「この村に医者は?すぐにここへ呼んでくれ。」
「それが、今は不在なのです。」
「不在?最低一人は医者が駐在しているはずだが?」
「実は、その医者が頭が痛いといってレグランドフィア城へ帰ってしまったのです。なので、だれも今はいません。」
「納得できない理由だが。まあ、わかった。だったら、近くの町に行く。」
「はっ。近くにライラという村があります。そこには名医がおりますので、ぜひそこで手当を受けた方が良いか
と。」
「そうか、我らの目的地もそこだ。急ぐ。馬の手配を頼む。」
「はい。」
すると、警備兵は一頭の馬の手綱を引いてきた。その馬はひづめが大きく発達しており、砂漠でも砂に足を取られないで走ることができる、数少ない砂漠馬という馬種とのこと。
大きさも通常の馬より一回り大きく筋肉質で、暑さに強く、給水も少なくて良いという優馬である。
その砂漠馬にサチを落ちないように結びつけ、リヴィエラが鞍にまたがった。
「おまえはこの馬のひづめの後を追ってこい。もんちきも馬に乗れ!」
「へ?」
目を丸くして固まっているシフィルに手を振って素直に馬に乗り、心配そうにサチを見守るもんちき。
はぐれたら終わりと悟って、すぐさまサチの荷物を持ち、砂漠馬を追いかける準備をするシフィル。
「よし、行くぞ!」
強く馬の腹に力を入れ走り出すリヴィエラ。
力強く走り出す砂漠馬は、砂漠を草原のように走り出した。
リヴィエラも容赦なくスピードを出すように手綱を捌いて砂漠馬を操る。
それに応えるように、トップスピードで走り続ける砂漠馬。
そのスピードに振り落とされないように、必死に意識の無いサチを押さえるもんちき。
あまりの砂漠馬の早さに置いていかれたシフィル。
しかも砂漠馬の蹴りだした砂が目に入り、目をつぶってしまった次の瞬間には、その馬を見失ってしまっていた。
幸い、砂漠馬は強く砂を蹴り上げるため、砂漠にその通った跡が残り、それを目印にして追いかけることは出来るが、風がその跡をだんだんと薄くしていく。
慌てて走り、その砂漠についた蹄の跡を追いかけるシフィル。見失ったら死ぬという確信があったので、本当に必死に走った。
リヴィエラが手綱を操る砂漠馬は砂漠をまるで草原を走るように疾走した。
大きな蹄が砂を蹴る度にちから強い振動で砂煙をまき散らす。
ライラまでの移動は、わずかな距離しか離れていないと感じさせるぐらいで、あっという間に到着した。
クリスタルレイクからライラまでは、所々人工的な目印が設置されており、初めての移動でも迷子にならないだろう。
他にも往来者が多数いて、みんな同じ砂漠馬を利用した馬車での移動であった。徒歩の人は誰も居ない。
これなら、シフィルも徒歩でも迷子にならないだろうという安心があった。
ライラは人口約60人で、オアシスを除くと、この砂漠では最も大きな村である。
この砂漠でしか採れない作物や鉱石があるため、それらを買い取りに来る商人の往来が多数あり、比較的生活には苦労しない。
また、クリスタルレイクの水を販売するために採取に来る商人の宿場町の役割もしている。
そのため、毎日100人程度がクリスタルレイクとライラを往来しており、砂漠にある村としては異様なほど栄えている。
また、このライラは医療技術が大きく発展しており、それを目当てに訪れる者も少なくない。
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