三つの民と神のちからを継ぐ者たちの物語 ヴェアリアスストーリー

きみゆぅ

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第一章 セイシュの民が翔ける黎明の空

79 ゆめの世界で

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「サチーンこの先行きたくないみたいね。」

 馬から下りたサチは、転げているシフィルに近づいて心配そうに頭をツンツンした。
 サチが上機嫌で仲良くなったその馬にサチーンという名前をつけたと説明したが、背中を強打したシフィルの耳には届かない。

 諦めるように、サチーンの手綱を近くの木に結び付けた。

「シフィル、ここで寝ても世界樹ネットワークは使えないぞ。」

 もんちきが飛び跳ねてシフィルの顔に乗ってパンパンと額を叩くと、小さくうめき声をあげて背中を抑えながら、上半身をゆっくりと起こして頭を振る。

 サチがシフィルの馬の手綱を掴んでサチーンの隣の木に縛り付けると、持っていた水をシフィルに渡した。

 目を瞑ってシフィルが水を口に含むと、ブクブクとうがいをしてそのまま飲み込んだ。

「ふぁぁあ。本当に死ぬかと思った。」

「でも、お馬さん早いよね。歩いて移動したのが馬鹿らしいよね。」

 最初から馬が有ればこんなに移動が楽であったと、改めて実感する。
 ぱさぱさに乾いた赤い土は滑りやすく、背中をさすりながら歩くシフィルには辛かった。

 以前進んだ記憶をたどり、よどんだ、曇った空気の中を進んでいくと、世界樹ネットワークのある木に迷うことなくたどり着いた。


 もやもやの白色の濃霧の中に存在する、神秘的な巨木の幹に触れる。

 やはり、何度見てもこの全体像さえわからない巨大な樹木には感動を覚える。その木の幹に腰を下ろして、背をつける。

「ここで眠れば世界樹ネットワークを通じてウィレム様とファルス様と会話できるのね。」

 サチが目をつぶりながら言った。眠気と疲れですぐにでも熟睡しそうなフラフラな状態。
 その横でシフィルも目をつぶり、頷いたが目をつぶったサチには見えない。

「ここから先はできればオレに任せて欲しい。」

 もんちきも目をつぶりながら言った。

 そして全員がすぐに眠りに落ちていく。

 不思議なぐらいに簡単に、3人とも、深い眠りの世界に入っていった。



 眠りながら覚醒する。

 周囲を霧のような煙のような、もやもやした白いものが覆い尽くすと、現実と夢をつなぎ合わせる。

 そのもやもやが濃い白色から透明に近い白色に、そして徐々に白い世界から色づいた世界に変わり、緑に覆われた世界に一本だけ立派な大樹が現れる。

 その巨木に背を付けて座っていたのを思い出すと、自らをその世界に存在させる。

 シフィルとサチがいる。もんちきはその木に寄りかかるように立っていた。

 そうだ。以前来たのと同じ状況だ。少しづつ思い出す。

『よくきた』

 抑揚のない声が聞こえた。どこかで聞いた声。頭に直接響く声。

「ウィレム様とファルスと話がしたい。」

 もんちきがその声と対話するようにどこかへと向けて声を発する。

 シフィル達は息をのんで、その状況を素直に黙って、身動きせずに見守っている。

『おまえたちがきたらよぶようにいわれているすでによびかけている』

 頭の中に響く感じが不思議で少し気持ち悪い。

 そしてしばらくすると、初めはうっすらと、やがてはっきりと緑の衣を纏ったウィレムの姿が現れた。

「よく無事に戻ってくれた。」

 ウィレムは笑顔で迎えてくれた。その他にも見たことの無い影が複数。ファルスの姿は見えない。



「原石は4つ集まりました。それぞれを扱える者も把握できています。」

 もんちきが答えると、ウィレムが喜ぶ顔をした。ただ、どこかモヤがかかってぼやけた感じの表情ではある。

「そうか、それはすばらしい。だが、何かあったのか?」

 もんちきの曇った顔でウィレムが何かを察したように問いかけた。

「はい。少しウィレム様のお考えをお聞かせ願いたいと思います。」

 真剣な目つきで話しかけるもんちきにウィレムは頷いた。

「結界を張ることに反対する勢力がいることをご存じですか?」

 再び小さく頷くウィレム。

「レグランドフィアという大国が筆頭となり結界外の国との結びつきを強化して勢力を拡大しようとしているのは聞いている。奴らは勢力拡大のため、結界を張られては困るのであろう。現時点ではセイシュの民に太刀打ちできるちからを持っておらんからな。」

 真剣な表情で、切羽詰まった表情で迫るもんちきにファルスが丁寧に諭すように答えた。

 もんちきが続ける。

「ウィレム様はセイシュの民を集め戦力を拡大していると聞きますが。」

 急な質問に少し戸惑いが見えたが、ウィレムは小さく息を吐いて少し考えてから、落ち着いて答えた。

「仮に結界が消えた場合、我々セイシュの民は結界外の者やこの地のレグランドフィアなどのヒュムと争うことは容易に予想できる。奴らは我らの原石を求めるだろうからな。それに対抗するためには、あくまで我々を防衛する手段として、緊急時に連携できるように努力はしている。」

 もんちきはその場に座った。それにあわせてウィレムも座り込む。

「セイシュの民が連携できるようになるのでしょうか。今までばらばらに暮らしていた民が急に他の民を信用できるか心配です。」

「それについては、火の村ファルスと水の村ランドールが滅ぼされたことにより、さまざまなセイシュの民が連携を望みはじめた。保身のためといえばそれまでだが。私はただその代表となっただけで、この連携はセイシュの民全体の意志だ。今はぎこちないかもしれないが、その結びつきを作るのも私の仕事だと思っている。」

 もんちきは困った顔をした。そしてそのまま黙ってしまう。
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