三つの民と神のちからを継ぐ者たちの物語 ヴェアリアスストーリー

きみゆぅ

文字の大きさ
81 / 104
第一章 セイシュの民が翔ける黎明の空

81 死にたくなければ、殺すしかないよね

しおりを挟む
 シフィルが馬に話しかけるが、当たり前のように通じず、そのまま走り続ける。どこか怯えているような走り。

「後ろだ。追いかけてくる。」

 もんちきがシフィルの首に両手を回して強く握り、大きく叫ぶ。

「ぐぇぇぇぇ苦しい・・・」

 見たことのない形状の鎧を纏った騎兵がこちらに向かって槍を構えて近づいてくる。
約10人程度であろうか、シフィル達よりも少し大きな黒い馬に乗ったその者達は、ぐんぐんシフィル達との間を詰めてくる。

「雷よ、矢となりあの者を排除せよ!」

 追っ手の男が持っている石が透明に光った瞬間、雷がシフィルの横を通り抜けた。運良く外れたが、その先でえぐれた地面に顔が青ざめる。

 さらに追い撃ちが続く。

 シフィル達はスピードをあげて逃げようとするが、先程の落雷音で騎馬が怯むと、さらに差が狭くなる。

「風よ、大気を切り裂け!」

 風の流れが急に変わったかと思うと、突風が吹き、空気が収縮されて風の刃がシフィルを襲う。
それもどうにか馬が勝手に避けてくれている。馬が揺れることなく走ることを信頼してサチは水の原石を取り出し、構えた。

「水よ!追い払って!!」

 水の原石が青く光ると、その原石を取り巻くように水が溢れだして、追いかけてくる騎兵に水が高速で水の塊が降り注ぐが、騎乗での動きにはまだ慣れずに、グラグラして体勢を崩し狙いが定まらない。

 追っ手はさらにスピードを上げ、シフィル達を捉えようと周囲を囲い込む。

「炎よ、なんとかしてくれ!」

 シフィルが左手で手綱を強く握って後方を振り向くと、右手で掴んだ火の原石にちからを込める
放射線状に炎が放射されるが、シフィルも慣れない騎乗での動きで、関係ない方向へと炎が飛んでいく。

 それはそれで予想できない方向へ放射される火の渦で1騎撃退できたのは、運がよかったためだろう。

「シフィル、逃げるぞ。ジグザグで逃げよう。直線だと狙いを付けられる。」

「そんなこと言ったって、囲まれているし!逃げようがないって!」

 そんな相談をしている間にも周囲に雷が降り注ぎ、風が吹き荒れて動きが鈍くなる。
 
 慌てるシフィル達を無視するように、すっーとサチが走るサチーンの手綱を離して鞍に直立すると、背負っていた弓を取り出して構える。

 サチーンも上下運動をなくして直線的に進み、サチのバランスが崩れないように一定殿速度を保つ。
 矢の無い弓をそっと引き絞ると、水の原石が青い光を発して透明な氷の矢が生まれる。そしてそれをさらに引くと、狙いを定めて躊躇なく放つ。

 氷の矢が追手の胸の鎧を貫通すると、そのまま吹き飛ばす。
直立する右足にサチーンの手綱を絡ませて、蹴るようにちからを込めて器用に反転させると、さらに氷の矢を二連続で放って、二人を貫く。

「サチ、スゲーな・・・」

「いいから逃げようよ。また囲まれるよ。」

 感嘆するシフィルに開いた道を指さして、サチがその方向へと逃げるように自ら急ぐ。
それに遅れないようにシフィルも追いかける。

 そのとき、どこからか騎馬隊が20騎程度、シフィル達へ高速で近づいてきた。
サチが再び弓を構えるが、その鎧は見覚えがあった。レグランドフィアのものである。

「シフィル殿、レグランドフィアのサインと申す。ここは我々に任せ、退却されよ。」

 黒い鎧を身に纏ったサインという兵士は騎乗したまま、弓を兵士に構えるように指示をすると、追手に向かって一斉に撃ち放った。

 馬も兵士も訓練されており、サインが示す手の合図により、瞬時に陣形を変えていった。まさに熟練の兵士達というのが感じられる。

 その翻弄する動きの中で、サインが変わった形をした先端の矢を放つと、ゆっくりと蛇行しながら激しい引っかき音をたてて相手に飛んでいく。すると、追手の騎乗している馬がその音に驚き、暴れ始めた。制御できず、ばたばた落馬していく。

 
 そこへ、もう一隊別のレグランドフィアの騎馬隊が10騎駆けつけると、手際よくその追手を取り押さえて縄で縛り拘束した。

 追手が持っていた光る石を取り上げると、不思議な箱にしまう。

「レグランドフィアのサラエン隊、片づいたよ。石も確保。8名捕獲。3名はどうにもならない状態だ。」

 サイン達は、その追手の乗っていた馬を集め、音の鳴る矢を回収した。
 シフィル達の乗っていた馬は、激しい音にも驚かずに一直線に進んでいった。かなり訓練された馬だ。サチが驚いて落馬しそうになったが、サチーンがうまく対処しており、それをよろこんだサチがサチーンの顔をヨシヨシとすっごく撫でている。

「全員捕まえるようにとの指示だったのだがな。」

 サインが絶命している追手3名を地面に並べると綺麗に正し、両手を合わせた。その3名はいずれもサチが矢を放った者達だった。

「まあ、仕方ないよね。死にたくなければ、殺すしかないよね。」

「・・・まあ、そうだが。」

「あっちから仕掛けてきたからね。」

 悪びれる様子もなく、青色に未だ輝いている水の原石をじっと見つめる少女に、いくつもの戦場をくぐっているサインが少し恐怖を感じた。

「こいつらは、この周辺を縄張りにしている盗賊だ。これで少しは被害が無くなるだろう。うちらも排除が目的だったからね。」

 サラエンがサチを見て笑うと、サチも返すように笑ってから小さく首を傾げる。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

炎光に誘われし少年と竜の蒼天の約束 ヴェアリアスストーリー番外編

きみゆぅ
ファンタジー
かつて世界を滅ぼしかけたセイシュとイシュの争い。 その痕跡は今もなお、荒野の奥深くに眠り続けていた。 少年が掘り起こした“結晶”――それは国を揺るがすほどの力を秘めた禁断の秘宝「火の原石」。 平穏だった村に突如訪れる陰謀と争奪戦。 白竜と少年は未来を掴むのか、それとも再び戦乱の炎を呼び覚ますのか? 本作は、本編と並行して紡がれるもう一つの物語を描く番外編。 それぞれに選ばれし者たちの運命は別々の道を進みながらも、やがて大いなる流れの中で交わり、 世界を再び揺るがす壮大な物語へと収束していく。

転生先はご近所さん?

フロイライン
ファンタジー
大学受験に失敗し、カノジョにフラれた俺は、ある事故に巻き込まれて死んでしまうが… そんな俺に同情した神様が俺を転生させ、やり直すチャンスをくれた。 でも、並行世界で人々を救うつもりだった俺が転生した先は、近所に住む新婚の伊藤さんだった。

『25歳独身、マイホームのクローゼットが異世界に繋がってた件』 ──†黒翼の夜叉†、異世界で伝説(レジェンド)になる!

風来坊
ファンタジー
25歳で夢のマイホームを手に入れた男・九条カケル。 185cmのモデル体型に彫刻のような顔立ち。街で振り返られるほどの美貌の持ち主――だがその正体は、重度のゲーム&コスプレオタク! ある日、自宅のクローゼットを開けた瞬間、突如現れた異世界へのゲートに吸い込まれてしまう。 そこで彼は、伝説の職業《深淵の支配者(アビスロード)》として召喚され、 チートスキル「†黒翼召喚†」や「アビスコード」、 さらにはなぜか「女子からの好感度+999」まで付与されて―― 「厨二病、発症したまま異世界転生とかマジで罰ゲームかよ!!」 オタク知識と美貌を武器に、異世界と現代を股にかけ、ハーレムと戦乱に巻き込まれながら、 †黒翼の夜叉†は“本物の伝説”になっていく!

世紀末ゾンビ世界でスローライフ【解説付】

しおじろう
SF
時は世紀末、地球は宇宙人襲来を受け 壊滅状態となった。 地球外からもたされたのは破壊のみならず、 ゾンビウイルスが蔓延した。 1人のおとぼけハク青年は、それでも のんびり性格は変わらない、疲れようが 疲れまいがのほほん生活 いつか貴方の生きるバイブルになるかも 知れない貴重なサバイバル術!

最初から最強ぼっちの俺は英雄になります

総長ヒューガ
ファンタジー
いつも通りに一人ぼっちでゲームをしていた、そして疲れて寝ていたら、人々の驚きの声が聞こえた、目を開けてみるとそこにはゲームの世界だった、これから待ち受ける敵にも勝たないといけない、予想外の敵にも勝たないといけないぼっちはゲーム内の英雄になれるのか!

修復スキルで無限魔法!?

lion
ファンタジー
死んで転生、よくある話。でももらったスキルがいまいち微妙……。それなら工夫してなんとかするしかないじゃない!

『異世界ガチャでユニークスキル全部乗せ!? ポンコツ神と俺の無自覚最強スローライフ』

チャチャ
ファンタジー
> 仕事帰りにファンタジー小説を買った帰り道、不運にも事故死した38歳の男。 気がつくと、目の前には“ポンコツ”と噂される神様がいた——。 「君、うっかり死んじゃったから、異世界に転生させてあげるよ♪」 「スキル? ステータス? もちろんガチャで決めるから!」 最初はブチギレ寸前だったが、引いたスキルはなんと全部ユニーク! 本人は気づいていないが、【超幸運】の持ち主だった! 「冒険? 魔王? いや、俺は村でのんびり暮らしたいんだけど……」 そんな願いとは裏腹に、次々とトラブルに巻き込まれ、無自覚に“最強伝説”を打ち立てていく! 神様のミスで始まった異世界生活。目指すはスローライフ、されど周囲は大騒ぎ! ◆ガチャ転生×最強×スローライフ! 無自覚チートな元おっさんが、今日も異世界でのんびり無双中!

鬼死回生~酒呑童子の異世界転生冒険記~

今田勝手
ファンタジー
平安時代の日本で魑魅魍魎を束ねた最強の鬼「酒呑童子」。 大江山で討伐されたその鬼は、死の間際「人に生まれ変わりたい」と願った。 目が覚めた彼が見たのは、平安京とは全く異なる世界で……。 これは、鬼が人間を目指す更生の物語である、のかもしれない。 ※本作品は「小説家になろう」「カクヨム」「ネオページ」でも同時連載中です。

処理中です...