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第一章 セイシュの民が翔ける黎明の空
82 今後どうするか
しおりを挟むそのままサイン達に道案内を受けてレグランドフィアまでたどり着いた。
「なんかレグランドフィアに戻ってきちゃったね。」
サチーンの上でサチが独り言をつぶやく。
「ありがとうございます。」
シフィルが馬を降り、サインとサラエンに礼を言った。
サチも疲れた表情で小さくため息をつくと、サチーンから降り、頭を下げる。
「いいの、いいの。たまにこんなのが無いと、城の復旧だけじゃ息が詰まるから。楽しかったよ。」
サラエンが捕らえた、手と足を縛られ目隠しをされた追手8人を城へ運び込む。
その横でサインが回収した石と矢の確認、兵士と馬の傷の確認を行っていた。
「リヴィエラ様に礼をいうといい。こうなることを事前に察知し、我々を救援として向かわせたのだから。お互い怪我が無くて良かった。」
兵士も馬も特に傷もなく、任務完了という結果であったらしい。
そのまま、シフィル達は城へと呼ばれた。
日が昇り、ちょうど、今後のための会議が始まる時間となった。休む間もなく、シフィル達は半ば強制的に王の間へと連れて行かれる。
サチはサチーンとの別れを惜しんでいた。
レグランドフィア王と王妃が座る粗雑な椅子の横に、挟む様に別側に王子リヴィエラと王女セシールが立っている。
それと向かい合う形で、中央のテーブルをはさんでショカとリザが立って雑談している。
シフィル達もレグランドフィア王と向かい合う位置に案内され、緊張した表情で直立して待機した。
それを見物しようと周囲には人が集まっている。
持ち物検査さえ通ってしまえば、誰でも見物できるらしい。
「昨夜出て行ったと聞いて心配していたのだ。よく戻ってきてくれた。」
レグランドフィア王が軽く頭を下げた。体を強張らせてシフィルもサチも、深々とお辞儀をする。
もんちきは軽く頭を下げる程度で、どこかぼーっとして全身の力を抜いてシフィルの肩に座っている。
集まった合図を近くの兵士が手を振って全体に示すと、急に全員が黙り視線をレグランドフィア王に集める。
「さて、さっそく始めよう。今後どうするか決定したい。屈託の無い意見を述べて欲しい。」
レグランドフィア王が右手を挙げ、皆へ意見を促す。まず、口を開いたのはレグランドフィアで軍事と経済戦略を担当するショカであった。
「レグランドフィアは先の戦の傷が癒えていないため、まずは地を固めるのが先決かと。兵糧や武器・防具を整え、城の守りを固めるべきと思います。サイン・サラエン隊とレグランドフィア既存隊の連携も深めなければいけません。」
いつもの羽扇子を開いて、パチンと閉じた。
次に口を開いたのはレグランドフィア王子のリヴィエラであった。
「レグランドフィアの守りを固めるのは賛成だ。だが現在最も重要なのは結界外の情報を入手することだと思う。」
ショカも頷いたが、少し目を細めて曇った顔をした。
「結界外の情報の件ですが、情報収集部隊よりもう10日も連絡がありません。従来は半日ごとに絶えず定期報告がありましたので、何か問題が発生したかと考えられます。」
「その話は聞いている。どうすべきか?」
レグランドフィア王はショカに尋ねた。
「もっと信頼できる人物を情報収集に充てる必要があるかと。」
「行こう。」
ショカの言葉に即座に回答したのはリヴィエラであった。
一瞬場が静まり返る。
「リヴィエラよ、他の者で良いのではないか。おまえが自ら危険を冒し、結界外に行く必要もあるまい。」
レグランドフィア王がなだめるようにリヴィエラを諭す。
リヴィエラは王の前に立ち、言い返した。
「現在一番必要なのは情報です。我が国の将来を決めるためには結界外での出来事を正確に収集し、的確に判断する必要があります。」
困った顔をしたレグランドフィア王はその場で腕組をして、厳しい顔をして目を閉じた。
「お前は普通の兵士とは違う。この国を背負って立つ義務を持つものだ。そう簡単に危険な任務に付かせるわけにはいかない。」
「この国を背負って立つ義務を持つからこそ、誰よりも先頭を歩く必要があるのです。そこに多少の危険があるのは当然です。」
リヴィエラはにらみつけるような目でレグランドフィア王へ迫った。
昔から言い出したら意見を曲げないリヴィエラの性格を一番知っているレグランドフィア王である。
小さく息を吐くと、次に大きく息を吐いた。
「わかった。しっかり頼むぞ。」
厳しい顔から、優しい顔に戻る。王の言葉に真顔で頷くリヴィエラ。
その片隅で悲しい顔をする王女セシール。
「来るなら拒まん。自分の目で結界外を見てみるといい。そしてどうするか決めたらどうだ。」
リヴィエラの視線はもんちきへ向けられていた。
もんちきはシフィルとサチをちらりと見る。それを察したシフィルとサチは合わせたように同時に頷いた。
「私たちも同行させていただこう。ただし、条件を付けさせていただく。レグランドフィアの一員ではなく、あくまで我々はどこにも属さない立場であることをお許し願いたい。」
もんちきがレグランドフィア王に深く礼をすると、シフィルとサチの両方の肩に触れて飛び跳ねた。シフィルとサチも頭を下げる。
「わかった。よろしく頼みます。」
レグランドフィア王はそれを承諾する。
気分が晴れたようにもんちきが笑ってその場で飛び跳ねる。
「リザも来てくれるか。」
「はい。」
リヴィエラに深くお辞儀をして応じるリザ。
「ただし、条件を付けさせていただく。」
リザの背後から唐突にサチが胸を張って前に進む。
「なんだ?」
嫌な顔をするリヴィエラ。
「サチーン欲しい。」
「サチーン・・馬か。必要な物一式添えて連れていくがいい。何なら専用の馬小屋も立ててやる。」
「わーい。」
リヴィエラは態度には出さなかったが、思ったよりも普通な条件で少しホッとした。
結局、決定事項として、サイン・サラエン隊を中心に城を固め、リヴィエラ・リザ・シフィル・サチ・もんちきが結
界外へ情報収集部隊として行き、ショカがその情報部隊と城内の守りを連携させる役目を担うこととなった。
そして、場の終了がショカから告げられ、見物人たちがこの場から去っていく。
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