87 / 104
第一章 セイシュの民が翔ける黎明の空
87 対価
しおりを挟むサチの傷を癒し終えると、最後にリザが残り8個から武器を選び始めた。
だが、その中にリザがよく使っているブーメランが無いため、少し戸惑った表情で手を止める。
すると結界を張っていた女の子が、一つの武器を指さした。それは薄い円形でドーナツ状であり、何か判らない武器であった。
女の子は執拗にその武器を指さす。リザが困っていると、隣の男の子もその武器を指さした。
それに負けるようにリザはそれを持ち上げると目の前でじっと凝視して首を傾げる。
そして同じように、短剣を取り出すと、左手の甲を刺した。その血を光の原石に垂らし、その不思議な円形の薄い武器と融合させる。
すると黄色い光がまばゆく光り輝き、円形で、真ん中に穴が開いている武器が現れた。すると女の子が投げるようなそぶりをする。
それを真似て、その武器を放り投げてみた。すると、綺麗な楕円を描き、リザの手元へ戻ってくる。リザは驚きを隠せない。円形のブーメランのような武器であることが判った。
しかも、リザが普段使用しているブーメランのように手に糸をはめなくても光の原石のちからだろうか、光の糸が繋がれて投げた本人の思い通りに戻すことができる。
周囲に鋭い刃が付いており、掴んでナイフの様にも扱える。当然、光の糸を利用して振り回すことも出来る。
さらにさらに、光のちからを注ぎ込むと、円形から形も自由に変える事も出来そうだ。
いろいろと謎が多そうな武器であるが、明かにリザが持つブーメランの進化系でありすごく気に入った表情をする。リザはこの武器を光の円刃と名付けた。
3人が新たな武器を作製したのを確認すると、フォーンは男の子と女の子に結界を解除させるように合図を出す。
それを受けて、ふわっとした光を放って結界を解除すると、男の子と女の子は、残りの7個の型を持って、そのまま奥の部屋へ帰っていった。
「それぞれの手に渡ったな。これからは出来る限りこの武器の原石のちからを使うがいいだろう。その度に原石を扱う能力が高まり、威力が上昇し、新しいこともできるようになる。まあ、盗難には注意だ。」
サチが新しい武器を触って純粋に喜んでいるが、リヴィエラとサチ、もんちきが何か顔を強張らせて緊張している。
それに気付いたか、フォーンが不気味な笑みを浮かべた。
「それでは、対価をもらおう。」
リヴィエラももんちきも頷いた。サチは頭を下げて素直に礼を言う。
奥から男の子と女の子が再び現れ、今度はいろんな掃除道具を持ってきた。
「サチは部屋の掃除、リザは書庫の整理、リヴィエラは庭の掃除、もんちきは綺麗に本の順番を整えてくれ。その後はわしの肩を揉んでくれ。」
リヴィエラは無言のまま庭へ出て、大地の短剣のちからを使って庭の掃除を始めた。
枯れた木々は、ほうきやちりとりで集めてから、焚火でそれを焼き払った。
もんちきも素直に踏台を持って移動し、本を1巻から順序良く整えている。
それらを見て、慌ててサチは部屋の掃除に取りかかり、リザは書庫の整理を始めた。
リザは驚く。いろんな言語の本があり、レグランドフィア城の書庫にあるような貴重な絶版本や、現在の最新の情報の記載された手紙や結界外の情報もあった。それらがポンポンと至る所に放置されている。
聞くと、あらゆるところから翻訳の依頼があったり、全国各地に散らばるフォーンの弟子からいろいろな情報が入ってきたりと、腹いっぱいになるほどの情報が集まるそうである。
ちなみに、レグランドフィアのショカもフォーンの弟子の一人で、随時レグランドフィアで起きている事をフォーンへ伝えているらしい。
こうしている間にも、既にどこからか手紙が数通届いており、それに目を通している。
その中の一通をフォーンはもんちきへ見せた。それは砂漠の南にあるレグランドフィアの管轄の港にいるフォーンの弟子からの手紙であった。
そこには、大きな赤馬に乗った少年が一人、港の入り口でレグランドフィアの王子リヴィエラ他数名を待っているという連絡。それが絵付きで記載されている。
「・・・仲間のシフィルです。」
もんちきが笑った。それを聞いていたサチもリザも笑っていた。
「シフィルの分の武器って持っていけないのかな?」
サチがフォーンへ尋ねた。
「本当にカリクティスの子孫であれば使えないはずだが、持っていくことを許そう。貴重なものだから必要が無ければ返してくれ。」
もんちきが剣の型を男の子に頼むと、それをサチが受け取り、ぎゅっぎゅっと押して丸め、小さくしてカバンに詰めた。
それから、飲まず食わず会話せず休まず止まらず、絶えずフォーンの指示に従い夜遅くまで、夜が明ける直前まで掃除や整理を行い、就寝した頃には、この建屋全体の本がきれいに整理整頓されていた。
どこか大きな達成感。
すでにフォーンは就寝している。
本当に心身ともに疲れ果て、そのまま崩れるように眠りについた。
25
あなたにおすすめの小説
炎光に誘われし少年と竜の蒼天の約束 ヴェアリアスストーリー番外編
きみゆぅ
ファンタジー
かつて世界を滅ぼしかけたセイシュとイシュの争い。
その痕跡は今もなお、荒野の奥深くに眠り続けていた。
少年が掘り起こした“結晶”――それは国を揺るがすほどの力を秘めた禁断の秘宝「火の原石」。
平穏だった村に突如訪れる陰謀と争奪戦。
白竜と少年は未来を掴むのか、それとも再び戦乱の炎を呼び覚ますのか?
本作は、本編と並行して紡がれるもう一つの物語を描く番外編。
それぞれに選ばれし者たちの運命は別々の道を進みながらも、やがて大いなる流れの中で交わり、
世界を再び揺るがす壮大な物語へと収束していく。
転生先はご近所さん?
フロイライン
ファンタジー
大学受験に失敗し、カノジョにフラれた俺は、ある事故に巻き込まれて死んでしまうが…
そんな俺に同情した神様が俺を転生させ、やり直すチャンスをくれた。
でも、並行世界で人々を救うつもりだった俺が転生した先は、近所に住む新婚の伊藤さんだった。
『25歳独身、マイホームのクローゼットが異世界に繋がってた件』 ──†黒翼の夜叉†、異世界で伝説(レジェンド)になる!
風来坊
ファンタジー
25歳で夢のマイホームを手に入れた男・九条カケル。
185cmのモデル体型に彫刻のような顔立ち。街で振り返られるほどの美貌の持ち主――だがその正体は、重度のゲーム&コスプレオタク!
ある日、自宅のクローゼットを開けた瞬間、突如現れた異世界へのゲートに吸い込まれてしまう。
そこで彼は、伝説の職業《深淵の支配者(アビスロード)》として召喚され、
チートスキル「†黒翼召喚†」や「アビスコード」、
さらにはなぜか「女子からの好感度+999」まで付与されて――
「厨二病、発症したまま異世界転生とかマジで罰ゲームかよ!!」
オタク知識と美貌を武器に、異世界と現代を股にかけ、ハーレムと戦乱に巻き込まれながら、
†黒翼の夜叉†は“本物の伝説”になっていく!
世紀末ゾンビ世界でスローライフ【解説付】
しおじろう
SF
時は世紀末、地球は宇宙人襲来を受け
壊滅状態となった。
地球外からもたされたのは破壊のみならず、
ゾンビウイルスが蔓延した。
1人のおとぼけハク青年は、それでも
のんびり性格は変わらない、疲れようが
疲れまいがのほほん生活
いつか貴方の生きるバイブルになるかも
知れない貴重なサバイバル術!
最初から最強ぼっちの俺は英雄になります
総長ヒューガ
ファンタジー
いつも通りに一人ぼっちでゲームをしていた、そして疲れて寝ていたら、人々の驚きの声が聞こえた、目を開けてみるとそこにはゲームの世界だった、これから待ち受ける敵にも勝たないといけない、予想外の敵にも勝たないといけないぼっちはゲーム内の英雄になれるのか!
『異世界ガチャでユニークスキル全部乗せ!? ポンコツ神と俺の無自覚最強スローライフ』
チャチャ
ファンタジー
> 仕事帰りにファンタジー小説を買った帰り道、不運にも事故死した38歳の男。
気がつくと、目の前には“ポンコツ”と噂される神様がいた——。
「君、うっかり死んじゃったから、異世界に転生させてあげるよ♪」
「スキル? ステータス? もちろんガチャで決めるから!」
最初はブチギレ寸前だったが、引いたスキルはなんと全部ユニーク!
本人は気づいていないが、【超幸運】の持ち主だった!
「冒険? 魔王? いや、俺は村でのんびり暮らしたいんだけど……」
そんな願いとは裏腹に、次々とトラブルに巻き込まれ、無自覚に“最強伝説”を打ち立てていく!
神様のミスで始まった異世界生活。目指すはスローライフ、されど周囲は大騒ぎ!
◆ガチャ転生×最強×スローライフ!
無自覚チートな元おっさんが、今日も異世界でのんびり無双中!
鬼死回生~酒呑童子の異世界転生冒険記~
今田勝手
ファンタジー
平安時代の日本で魑魅魍魎を束ねた最強の鬼「酒呑童子」。
大江山で討伐されたその鬼は、死の間際「人に生まれ変わりたい」と願った。
目が覚めた彼が見たのは、平安京とは全く異なる世界で……。
これは、鬼が人間を目指す更生の物語である、のかもしれない。
※本作品は「小説家になろう」「カクヨム」「ネオページ」でも同時連載中です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる