三つの民と神のちからを継ぐ者たちの物語 ヴェアリアスストーリー

きみゆぅ

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第一章 セイシュの民が翔ける黎明の空

94 出航!!

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「よし、シフィル行こう。頼む。」

 リヴィエラが四角いテーブルに海図を固定すると、振り向いて後方のシフィルに合図を出す。

「じゃあ、風を吹かせるよ。あ、えっと、いいよね。」

 リヴィエラが頷くのを確認すると、精一杯のちからを込め、突風を呼び起こした。
 砂煙が舞い、シフィルの直前で舵輪を握るリヴィエラが飛ばされないように強く掴まり、身構えた。

「こっちも準備完了だよ!」

 船の前方の甲板から、サチの声が聞こえた。

「いくよ!!!!」

 シフィルの叫びが響くと、風の石がぼわっと光り、風がわずかに舞って、すぐに吹き荒れた。
 帆船から少し離れた場所で心配そうに見つめる護衛兵は両手を挙げてそれを喜び、もっと強く吹くように手で仰ぐ仕草をする。

 シフィルが得意げに、調子に乗ってその護衛兵の仰ぐ仕草に体を揺らしてテンポを合わせる。
 その突風が帆船の帆に集まり、ピンとはち切れるように膨らんだのを確認すると、リヴィエラの合図で護衛兵が船の四方固定しているロープを一気に斧で切断する。

 一瞬、帆船がガクンと大きく揺れると、帆船を乗せる台車の車輪がシャーという音を立てて急斜面に設置された丸太の断面を勢いよく転がり、突風を帆に受けて勢いよく海に向かい滑り出す。

 が、予想と異なり船の重さからか、車輪の丸太への接触抵抗のためか、張った帆の影響か、十分な速度は得られず、思ったよりゆっくりと下っていく。

「シフィル!もっと風の力を帆に絞れ!広がりすぎだ!」

 リヴィエラが叫ぶ。シフィルの巻き起こした風は船の帆だけではなく辺り一面に吹き、陸地の護衛兵をも吹き飛ばそうとしている。

「昨日はもっとうまくできたんだよ!」

 帆船を乗せた台車は、弱い力のままで海に下っていく。

 リヴィエラは帆の真下に移動して、持っていた葉を大地の短剣のちからで大きく広げ、小さな補助の帆を作りだして主翼となる帆への風の流れを作る。

 それにより、風が効率よく帆に集まるようになり、帆船の速度がわずかに増す。

「あ、これやばくない!!もっと早く!!!」

 先端部に立っていたサチが叫ぶ。陸地で護衛兵が帆船を追いかけて、両手で必死にスピードを上げるように合図している。

 帆船はまだ十分な推進力を得られずに、ドスドスと帆船を乗せた台車の車輪が軽く弾みながら海にゆっくり近づく。

「こっちは全力だよ!」

 風の石に祈るようにちからを込めると、砂埃が舞い、片側の車輪が浮くとすぐに戻るがそのはずみで船が大きく揺れた。

 それに驚いた4頭の馬が急に暴れ出し、さらに船を揺らす。

 船内に駆けこんだリザは必死に4頭の馬をつないだロープを支え、光のちからで馬をなだめている。

 馬をなだめるというこんな光のちからの使い方は初めてであったが。

「藻に、微生物に触れてしまう!」

「もっと速度を上げて!」

 陸では護衛兵が船に併走しながら、さらに大声で叫ぶ。

「風よ、帆にだけ吹け!!!」

 シフィルが願いを込めて最後のちからを振り絞ると不思議と風が帆にさらに集まりだし、急に船が勢いを増す。

 リヴィエラがありったけの葉で作りだした帆を全面に張り巡らし、推進力を得るようにしている。

「もっと速度を上げて!!!」

「海面が近い!雷を!!!」

「速度だ速度!!」

「電気で微生物を気絶させるんだ!!」

「速度と雷一緒にがんばれ!!」

 護衛兵が焦る仕草で必死に叫ぶが、なんか急にシフィルが諦めるように落ち着くとちからを抜いた。

「ごめん。ダメそうだ。」

「えええええええええええええええええええええぇぇぇぇぇぇぇええええぇぇぇぇ!!!」

 シフィルのあきらめに護衛兵が訳も分からない奇声を発する。

 船が十分な推進力を得られないまま陸の丸太から海へ敷かれた丸太へ移動する。

 帆船を支えていた台車が海へと沈み始める。

 台車を失った船が海面に着水しようとする。

 それらが一瞬のうちに、コマ送りのように続く。


 そしてもう一コマ。

 船の先端で立っていたサチが身体にロープを巻き、両手を前に出して空を飛ぶような仕草で船の先端から海へと飛び降りた。


「おい!!」

 驚いたリヴィエラが急いで駆け寄る。

 船の先端から界面へ垂れ下がるロープがピンと張り、振り子のように大きく左右に揺れる。
 青い光が界面を照らすと、陸の丸太から海上に浮く丸太へと移った船は摩擦をキャンセルして滑るように丸太を通り抜ける。

 抵抗がなくなり、振動が消える不思議な感覚。

「おいシフィル!風だ!」

「あ、はい!」

 凍った海面を船が沈まず滑り進む。訳の分からないままシフィルが発した風の勢いも相乗して藻の無い海へといつのまにか抜けていた。

 陸地では護衛兵が大きく両手で〇を作り出して、飛び跳ねて喜んでいる。

 どうやら、うまくいったのだろう。

 その喜びを感じるより前にリヴィエラは船の先端から飛び降りたサチを覗き込んだ。

 当然、船上のリヴィエラ達からは、サチが何をしたか、わからなかった。

「助けて~~」

 そこには、船に宙づりにされたサチがぶらぶらと風に吹かれて揺れていた。ロープのおかげで海に落ちず、身体は濡れていない。

 安心したリヴィエラは急いでロープを引き寄せ、サチを引き上げた。

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