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第一章 セイシュの民が翔ける黎明の空
96 船の中の冒険
しおりを挟む帆船は自然の風を受け、かなり早い速度で航海を始めていた。
ようやく一息つける、皆から安堵感が漂った。
風を切って走る帆船は細かく揺れ、面白くもあるが、陸とは違う波の振動に悩ませられもする。
それにしても、行く先には海しかなく、幻想的な地平線へ向かって揺れるように小さい波がざわざわ騒いでいるようだ。
リヴィエラは船の後方の操舵場の舵輪を細かく動かしながら海図を見て、コンパスを確認しながら船を進めていた。
進んだ方向を地図に書き足していく。
大きな船で、はしゃぐシフィルとサチはいろいろと見て回っている。
「ここが船を操縦するするところか。」
操舵する舵輪に両手を乗せたリヴィエラと難しい顔で風の影響や速度を計算してなにか薄く地図に書いているリザ。
そこの大きな海図や正確なコンパス、現在位置確認用の地図に記載された進路など、興味深かったが、リヴィエラが睨んだため、こそこそと離れていくことになった。
サチは頬を膨らませて機嫌を悪くする。
甲板の床に設置された分厚い木製の蓋のついた階段を下って船体に入っていくと、細い薄暗い廊下に複数の部屋が連なっていた。
まず、調理室と記載された扉を開けると、大きな保管庫に食材が入っており、早速サチがケーキのつまみ食いを始める。
シフィルも周囲を見回すようにしながら、こっそりと同じケーキを頬張る。
大量の水や野菜、保存食など、何日分になるのだろうか、かなり大量に備蓄されていた。
中には見たことのない食材や調理器具も保管されており、興味を引く。
「食料大切よね。」
口の周りにケーキのクリームをつけたまま、サチが言った。
「海じゃ手に入らないからね。」
当たり前のことをシフィルが返した。
次に入った部屋には、馬が4頭つながれていた。
その部屋には大量の飼い葉が所狭しと壁に沿って、天井に届くぐらい保管されている。
サチがその部屋に入るなり、つながれていたサチーンが大きなからだを振るわせ、大きな声で喜びを表した。
サチも早速近寄り抱きつく。
「狭くてごめんね。」
サチがサチーンの頭を撫でながら言うと、サチーンも歯をつきだして笑い大きく吠えた。
サチもそれを同じ顔で真似る。
それをうらやましく思ったシフィルが自分の赤馬に近寄ると、赤馬は前脚をあげて威嚇し、シフィルを振り払った。
シフィルは何かを悟ったように笑った。
シフィルが馬部屋を出ようとすると、サチもサチーンにひとときの別れを告げ、シフィルに続いた。
部屋からはサチーンのいななきが聞こえた。
「いいな。」
シフィルは羨ましくつぶやいた。
「愛情だよ。」
サチが笑った。
さらに歩くと、倉庫が複数あり、その先に小さい個室が4人分用意されていた。
扉に『シフィル』『サチ』などと書かれたプレートが設置されていた。早速シフィルとサチは各々の部屋へと入る。
部屋の中はベッドやあらかじめ用意された衣服など、殺風景ではあったが、船内の個室としては十分満足できる部屋であった。
さっそく、シフィルもサチも自分の部屋のベッドに寝転がり休んだ。ちからを抜いて、波の揺れを感じると、ふわっと気持ち良くなる。
が、その時、大きな鐘の音が響いた。
この音が響いたら操舵する場所に集合しろとリヴィエラから言われていたので、急いでシフィルとサチが船内から操舵する場所へ進む。
操舵部では、リヴィエラとリザが何か難しそうな顔で海図にいろいろ書き込んでいた。
「集まったか。じゃあ、簡単に説明する。」
リヴィエラはテーブルに広げられた細かく地形が記載された大きな地図を指さしながら説明を始めた。
「現在地がここ」
地図でレグランドフィアの港から真南に少し進んだ場所を指さした。
「目的地がここ」
さらに真南に進んで行った位置に結界という記載があった。そこをさらに南に進んだ位置を目的地として指した。
「レグランドフィア王の説明だと、この結界付近に監視艇が一艘、我々のために待機してくれているらしい。その監
視艇との接触は夜のみ。それも合図は一瞬、相手船からのわずかな点灯のみで行う。」
「そんな一瞬でわかるの?見逃したら大変だね。」
サチが他人事のように話す。
「合図が必要ですね。」
リザが言うと、リヴィエラは頷き、棒の先端に筒状の入れ物があり、その中に火薬が入った物をみせた。
これに火をつけると火薬のちからで上空まで飛び上がり、音を出して破裂する。
その音からしばらくしてから、監視艇からの一瞬の点灯の合図が有るそうだ。
その一瞬の点灯のみが監視艇との接触方法らしい。
仮に見逃した場合は、同日には行わず、翌日に同じ事を繰り返す。
レグランドフィア以外にも結界外への興味から、結界の割れ目を探す国があり、その国に見つからないようにする配慮からの取り決めらしい。
「一瞬か。厳しいな。」
シフィルも手を組んで困った顔をする。
「現在、風が南に向かって強く吹いている。この調子であれば、およそ4日後にその監視艇との接触海域に着けるだろう。操舵は交代で行う。」
リヴィエラは言い終わると、船の操縦の仕方を皆に教えた。特にコンパスを確認しながら進路を取る方法はこれから昼夜を問わず、交代で行うことになる重要な作業である。
念のため、二人一組での操作ということになった。
シフィル・リザ組、リヴィエラ・サチ組に分かれる。明らかにシフィルとサチだけでは信用できないというのがわかる組決めであった。
まず、ずっと操舵していたリヴィエラを休ませるという意味でもシフィル・リザ組が操縦担当となった。
リヴィエラは早速個室に入り、休憩を取る。
サチはいろいろと船の中を再び見て周り、サチーンのところでまた遊んでいた。
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