三つの民と神のちからを継ぐ者たちの物語 ヴェアリアスストーリー

きみゆぅ

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第一章 セイシュの民が翔ける黎明の空

98 波にさらわれたら助からないやつ

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 帆船の先頭付近の甲板の上でサチはよく眠った髪の寝癖を手で軽く撫でて、大きなあくびをする。

 海の上で見る日の出は神秘的であり、サチはゆっくりと祈るように太陽に向かって手を合わせた。

 リザも隣で笑いながら同じように手を合わせる。

 夜が明ける前にシフィル組から交代したリヴィエラは、地図に船の進む方向を記載しながら熟睡したサチの代わりに、ずっと舵をとり、海図の記載もして二人分の作業をしていたため、さすがに、疲れが見える。

 気を使ったリザが操舵を交代すると、同じタイミングでシフィルも姿を現す。

 リヴィエラは軽く引継ぎについて一言二言告げると、両目を瞑って部屋を出ていき、個室で休む。


 サチは睡眠は十分らしく、そのままずっと甲板でくつろいでいる。

「お日様きれいだな。」

 キラキラする海面に向かって思いっきり息を吸う。すごい潮の香りを感じる。

 そしてあらかじめ帆船の倉庫で見つけていた棒に、尖った細い金属で作った針を付けた糸を結び、海面に垂らした。
 波の少ない穏やかな海でプカプカと糸が揺れる。

 そのまましばらく、からだを休めるように力を抜くと、そのピカピカひかる海面に眩しく目を瞑りながら、じっと海を眺めていた。

「海って広いなぁ。」

 手製の釣竿を船に結び付けると、サチはポカポカにウトウトしてまったりする。

「どうだ。なにか釣れるか?」

 リヴィエラが少しまだ眠そうな表情で、サチの横で同じように棒に糸を付けて海面に放り投げると、それをサチは大変喜んだ。

 昼過ぎまで二人は釣りを楽しんだが、結局何も釣れずに操舵の交代時間が来た。

 特にサチは残念がりながら、個室に戻る。空には次第に雲が多くなり、暗くなってきた。
 再びサチが舵を握り船を進める。

「あれ??」

 サチが手の平を上に向けてそこに神経を集中させると、ぽつぽつと雨粒を感じ、その数が増えていった。
 顔を真上に向けて周りを見回すと、いつのまにか真っ黒な分厚い雲に覆われた空に驚いてブルっとからだを震わせる。

 徐々に船にパチパチと大きな音を立てて降り注ぐ雨。揺らぐように大きな波が船を揺らし、高波が襲いかかる。

 海の叫ぶように響く低音の波音に吸い込まれそうになる。

 リヴィエラは鐘を鳴らし、リザとシフィルを呼んだ。

 リヴィエラとシフィルが急ぎ帆をたたむと、リザが甲板に出ていたものを船内に片づけ、サチは激しくうねる波に舵が取られないように精一杯方向を定めて進んだ。

 甲板では大きな帆をたたむことが、どんなに大変かとシフィルは思い知らされていた。

 高い位置での作業は海に放り投げられるようで恐怖でしかない。水を吸った帆は重くてツルツルと滑る。手が痛い。
 激しい波で揺れる船の上で転びながら急いで帆をたたむと、びちょびちょな状態で急ぎ船内に入れる。

 それでも、そのおかげで風の抵抗が大きく減り、船の揺れが少し収まったが、それでもまだ、うねるような波に船は今まで経験したことのないぐらい揺れ、このまま転覆するのではないかとの恐怖を感じる。

「あんなにいい天気だったににぃ!!」

 サチは波で進む方向が狂う船を、航路を確認しながら強引に方向転換させて進んでいった。

 この激しい揺れでリザが船酔い起こしダウン、個室での休養となった。

 それを追うようにリヴィエラも顔色が悪くなり、操舵場でしゃがみこんで休んだ。
 立っていられないような横波が船を襲う。船が壊れるのではないかと思うぐらい強い雨が降り注ぐ。やがて嵐となった。

「進むのは無理だ。ここで錨を下ろして、ひとまずこの嵐をやり過ごそう。」

 船酔いで既に倒れかけているリヴィエラがシフィルとサチに告げる。

 意外と揺れに強く元気なサチとシフィルは、錨を海に沈めて固定した。

 船がゆれ、甲板に大量の水が降り注ぐ。

 高い波を乗り越える度に船内のものが倒れ、ガガガと嫌な軋む音がする。

「シフィル!ここお願い!」

 サチは何かを思い立ったかと思うと、何も言わずに船内へ駆け出した。

 それを追う様に、リヴィエラも船酔いで青い顔をしてトボトボと揺れる床に足を滑らせながら船内へと移動する。

「これ、波にさらわれたら助からないやつだ。」

 一人ぽつんと残されたシフィルは、不安そうに地図とコンパスを確認しながら、状況を見守った。
 少し東へ流されたようだ。念のため、それを書き留める。

 走り出したサチが向かった先はサチーンの居る馬部屋であった。

 扉を開いて、揺れに不安そうに怯える4頭の馬に飼い葉を抱きかかえるように運んで、たっぷりと与える。

「雨のせいでご飯忘れてごめんね。揺れて怖かったよね。」

 それからサチはこのまま嵐が過ぎ去るまでこの馬部屋に居続けた。

 まもなく雨が小降りになり、風が止み、晴天に変わった。

 長く、且つ一瞬のように感じた。
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