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第一章 セイシュの民が翔ける黎明の空
99 帆を張って風を起こして頑張る
しおりを挟む「晴れたけれども。」
晴れたのにリヴィエラもリザもサチも戻ってこない。
少しこのまま休憩を兼ねて、誰かが戻るのを待つが、やっぱり戻ってこない。
「しょうがないな。」
シフィルが一人で錨を戻して船を再び動かして舵を取っていた。
東へ流された記録を確認しながら、南西へと進ませる。感覚的にはこれで修正できるはずだ。
そしてしばらくすると、南へと進路を戻す。
太陽が真上に位置して、強い日差しを発するころ、ようやく馬部屋からサチが戻ってきた。
「リヴィエラとリザの様子どう?」
操舵とコンパスでの方向確認と、海図への記載と一人でバタバタバタバタしているシフィルが、サチの顔を見て少し安心する。
サチが言うには、馬部屋から戻る途中、リザとリヴィエラの部屋に寄ってきたが、二人とも青い顔でぐったりしている状態であったそうだ。
「薬無いのかな?」
「リヴィエラが起きればわかると思うんだけど。」
サチがシフィルから操舵を引き継ぐ。
「ふぅぃ。疲れた。」
シフィルがようやく解放された安堵から、深く息をすって、長く吐くと全身のからだの力を抜いた。
「でさ、そろそろ、帆が欲しくない?スピードアップしたいよね。」
サチが晴れた太陽を指さすと、その視線を感じたシフィルがうなずく。
「ちょっと疲れたけどね。」
「そうだね。」
「いままで一人で頑張っていたんだけど。」
「それは偉いね。」
「一人で帆を張るのは難しいと思うんだけどね。」
「頑張ればできないことは無いって、誰かが言ってたよ。」
「まだ昼過ぎだし、腹減ったね。」
「そうだね。暗くなる前に距離を稼ぎたいね。」
「・・・まあ、そうか。ちょっと張ってくる。」
観念したように、たたんだ帆を張るために、帆柱にきつく結ばれた紐をバタバタと引いたり回したり緩めたりする。
一人作業での帆張りは困難であったが、なんとか張り終えころには、夕方になっていた。
なんだかんだ思ったよりも大変で、結局休憩をとる暇もなかった。もううんざりするが、夢中になりすぎて文句すら浮かばなかった。
まだ、リヴィエラとリザは動けないようだ。
「自分で言うのもなんだけど、リヴィエラとリザが倒れると不安だね。」
笑うシフィル。
「でさ、せっかく帆を張ってもらったけど、風が無くて船がほとんど進んでいないんだけど。」
シフィルを見ながら微笑むサチ。
「で?」
サチに確認するシフィル。
シフィルを指差すとそのまま外を指差した。
「風を送れと?」
シフィルの問いかけに微笑むサチ。
「もう暗くなってきそうな感じだけど。」
「そりゃ、陽が落ちたらね。」
やはり微笑むサチ。
シフィルが諦めたように笑うと、覚悟を決め、うなずいた。
そして船の最後方に立って風の石を帆に向けてちからを込める。
石が光り輝くと、風が渦を巻いて帆に集まる。
なんか、港でバタバタしながら帆に風を送った時よりも、だいぶ狙った位置に風を送ることができるようになっていた。
そのちからを推進力として帆船は勢い良く進んで行った。
今までとは違い、気持ちいいぐらいのすごい速度で進んでいく。
舵をとりながらサチは、始めからこうすれば良かったと満足した。
「あの、だいぶ速くなりましたね。位置情報の記録大大丈夫ですか?」
まだ体調が悪そうなリザが焦り急いで再び操舵場に戻り、速度アップに伴う進路の記録及び方向の調整を行った。
それをサチが感心した。
「そうだよね、今どこにいるかわからないと困るよね。」
「危うく、広い海で迷子になるところでしたね。」
リザは、大変良いタイミングで戻れたことを心から喜んだ。
少し間違えば、冗談ではなく広い海で迷子になり、この旅が終わるところだった。
そして完全に陽が落ちて真っ暗になったころ、リザからの進路と時間調整の指示通りに修正し、シフィルが個室へ戻り休んだ。
また、サチも目を擦り始め、個室へ戻っていった。
そのころにはリヴィエラが目を覚まし、体調も回復し操舵についた。
隣でリザがコンパスでの航路を確認し、到着予定をはじき出している。
「このまま進めば明日の夜中か明後日の朝早くには着きますね。」
リザが速い計算でリヴィエラに告げた。
「明日の夜中に着いておきたいところだ。」
そのまま、何事も無く船は進んだ。
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