新撰組の想い人 ~幕末にタイムスリップしたオメガの行方~

萩の椿

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第14話

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「なんだい」

女将は眉間にしわを寄せて顔を上げた。


「となみやの売り上げを倍にして見せます」

「……何言ってるんだい?」


女将の眉間の溝がますます深くなる。


「僕を一ヵ月ここで雇ってください。必ず売れっ子になって見せますから」

「なんでそんな危険を冒さなきゃなんないんだ」

女将は聞いていられないといった様子でまた顔を伏せた。




しかし、そうは言いながらも、女将自身も慧をやめさせるのはもったいないと思っていた。


道で倒れていた慧を拾い、飯を食わすなどの手厚い対応をしたのも、売れっ子になると見込んだからであった。そして、その感は当たり、真摯な対応で、初々しい反応を見せる慧は、大宮の様のような太客の心を鷲掴みにした。

あの日ほど、となみやが稼いだ日はないだろう。

というのも、近年、となみやの近くにできた新しい遊郭に客を取られ、となみやの売り上げは右肩下がりだった。

そんなとなみやにとっては、慧は救世主のようなものだったのだ。

もしも慧が男だとばれてしまったら、となみやは経営を続けることが出来なくなるだろう。しかし、ここで逃すのはかなり惜しい人材なのだ。


「うーん」と女将は唸るような声を上げて、暫く押し黙った後にゆっくりと顔を上げた。

「……一ヵ月だけだ」

「え?」

「もしも、お客さんからの苦情が一つでも入ってきたら追い出すからね……」

苦虫を噛み潰したような表情を浮かべ女将は言う。

苦渋の決断だった。

けれど、となみや、それからここで働く遊女たちを守るためにも、女将は慧を一ヵ月だけ雇うというリスクのある判断をした。

「はい……はい!」

なんとか女将を説得できた慧は嬉しくて何度も頷いた。

そして、慧はとなみやで働く上で男性だとばれないように、決して殿方と体を重ねないことを条件に、一ヵ月間だけ面倒を見てもらえることになったのだった。

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