新撰組の想い人 ~幕末にタイムスリップしたオメガの行方~

萩の椿

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第54話

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そのまま、慧は再び新選組屯所の地下室に押し込められた。

 先ほどから、土方は口を閉ざしたままだ。表情もさっきより険しい気がする。


 地下室内の空気は、今非常に悪い。

 いたたまれなくなって、慧は土方に尋ねた。

「あの、どうしてあんなこと言ったんですか? 逢引きの最中だなんて。勘違いされるじゃないですか」

 慧が言うと、土方は顔をあげた。

「何か困ることがあるのか?」

「え?」

 予想外の言葉に慧は目を見開く。

 土方はふらりと立ち上がり慧との距離を詰める。ただならぬ雰囲気を感じた慧は一歩ずつ後ろに下がった。

「近藤さんが好きか?」

 慧の背中に壁が当たると同時に、土方が尋ねた。

 熱を帯びた視線に慧は耐えかねて、咄嗟に目を逸らした。が、土方に顎をすくわれ再び視線が交わる。

「答えろ」

 やはり、身長差のある相手から見下されると、かなりの圧がある。慧はごくりと唾を飲み込んだ。

 近藤の事は好きだ。でも、それをわざわざ土方に伝えたくない。

 口にすると絶対に恥ずかしいし、その思いは自分の中に秘めておきたい。

 慧が口を閉ざしていると、土方はため息をついて離れた。

「黙っているという事は、そう言う事なんだな」

 土方は慧に背を向けて地下室から出て行く。土方の姿が見えなくなると、慧の体からすっと力が抜けた。

 いくら態度が柔らかくなったとはいえ、やはりまだ慣れない。

 土方は沖田の様に無理やり迫ってきたりはしない。けれど、その分近づかれたり、体を触られると体が強張ってしまう。

 土方がいなくなった後の地下室で、慧は暫く床にへたり込んでいた。

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